介護保険と在宅介護のゆくえ

LIFEに翻弄される介護保険/服部万里子(連載109)

LIFEに翻弄される介護保険/服部万里子(連載109)

<4月に行われた報酬改定について> 在宅4大サービスの集中減算は妥当か? 生活援助の多いケアプランは介護保険の理念に反しているか? 科学的介護で高齢者の生きる意欲、生活力が高まるか? 

在宅4大サービスの集中減算は妥当か

 介護保険の利用者の75%は居宅でサービスを利用している。それを除けば、特養、老健、療養型医療施設を合わせて17%、認知症グループホームに4%、特定施設に4%となっている。

 居宅の利用者の4大利用サービスは、①福祉用具貸与②通所介護③訪問介護④地域密着型通所介護。居宅介護支援事業所は、この4種のサービスについて、その事業所が前6カ月間に作成したケアプランにおける▽各サービスの利用割合▽各サービスごとの同一事業者による提供の割合――を把握し、新規利用者にケアマネジャーが説明しなければならない。また、「介護サービス情報公表システム」を通じた公表が義務化された。各サービスで利用する事業者が8割以上集中すると、ケアマネジメントの報酬が減算される。

 しかし、福祉用具貸与は事業所による取扱い商品や単価の差はほとんどない。あるのはメンテナンスや依頼に対する対応力の差だ。利用者ニーズへの対応力がある事業所を選択することが、公正中立に反しているとは考えられない。

生活援助の多いケアプランは介護保険の理念に反しているか

 訪問介護は、コロナ禍でのヘルパー不足が共通の課題だ。加えてサービスは事業所により大きく異なる。

 日祝は対応不可、夜間も不可、通院同行はしない、市町村の独自サービスは対応しないというところもある。多くはサービス提供の距離が決まっている。21年4月の報酬改定でも1単位ほどしかアップせず、経営の厳しさが増している。

 国は「生活援助の訪問回数の多いケアプランの検証」を掲げている。介護保険の利用者の世帯のトップは独居で、サービス利用者の75%が80歳以上だ。利用者の58%は要支援~要介護2で、国が言う「軽度者」にあたる。

 要介護の原因のトップは認知症。火を使った調理ができない、一人で買い物に行けない、目が見えにくく掃除ができない、ゴミを分別し捨てに行けない、役所から来た書類を読んで手続きができない――のが現実だ。

 コロナ禍で「要介護認定は希望により6カ月間延長できる」という書類を読んでも、理解して手続きできないのが現実だ。もちろん元気な高齢者もいるが、保険者が生活支援が必要、介護が必要と認定した人のサービスが制限されることは妥当ではない。

科学的介護で高齢者の生きる意欲、生活力が高まるか

 国は施設系サービスで24種、居宅系サービスで28種の「加算」を算定するために、科学的介護情報システム(LIFE)に申請・登録し、情報入力をそれぞれ定められた期間ごとにしなければならないシステムを導入した。

 データの変化に応じてサービスを変更すれば、自立度が上がるという。しかし、年齢や性別、疾患、家族構成など23項目の基本情報に排泄、排便や更衣などを5点刻みで評価し、日常生活動作や栄養状態、口腔機能、認知症自立度をいくら並べても、その高齢者の生きていた歴史、生き様、考え方、人間関係、価値観、暮らし方、人生終末期の考え方などは浮かび出てこない。

 これらを抜きにして機能改善が図れるのだろうか。介護が必要になる原因の3番目は「老衰」だ。世界で最も高齢化が進んだ日本で、介護が必要だから介護保険ができたのだ。
(シルバー産業新聞2021年4月10日号)

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