インタビュー・座談会

田村憲久前厚生労働大臣 科学的介護の着実な実行を急ぐ

田村憲久前厚生労働大臣 科学的介護の着実な実行を急ぐ

 介護施設や事業所では新型コロナ感染対策とともに、2021年実施の介護報酬改定・法改正を受けた対応が求められている。科学的介護への対応、地域支援事業での健康づくりへの対応など、現場へのメッセージを、本紙300号を記念して田村憲久 前・厚生労働大臣(21年9月21日取材時)に聞いた。次期改定では、医療・介護ともに制度持続のための国民的議論が最大のテーマになると語った。

 「シルバー産業新聞」創刊300号、さらには25周年を迎えられ、おめでとうございます。

 介護保険制度も2000年に制度が施行されて以降、日本の介護を支える制度として、国民の暮らしの中に定着しています。これも制度に関わる皆様のおかげであり、この場を借りて、感謝申し上げます。もちろん、様々な課題もありますが、その都度見直しを行い、よりよい制度になるよう努力してきました。

健康づくりと地域支援事業について

 市町村が実施する地域支援事業に関しては、制度改正時にも厚生労働大臣をしていましたので、よく承知しています。高齢者にできる限り自立した生活を送ってもらえるよう、健康づくりでありますとか、通いの場を作ることを地域に広げていくものです。通いの場は、全国に約13万カ所あり、現在では認知症予防を含めて、取り組みを広げていこうとしています。

 介護保険の費用も一部活用しながら、介護サービスとは別の事業も進めていこうというものです。取組が動き出してきたところでありましたが、新型コロナの感染が広がる中で、動きづらくなってしまっているのが現状です。

 人と人とのつながりは重要なので、しっかりと感染予防対策を講じていただき、あるいはオンライン開催に置き換えるなどしていただきながら、これからも介護予防や生きがいづくりにしっかりと取り組んでいく考えです。

科学的介護の現状とこれから

 科学的介護の推進に関しては、VISIT(リハビリテーションの質の評価データ収集システム)とCHASE(利用者の状態やサービス内容等の幅広い情報を収集するシステム)として進めてきたものを、4月からLIFE(ケアの質の向上に向けた科学的介護情報システム)として取り組んでいます。栄養やリハビリなども含むサービスの提供内容とその成果を検証しながら、PDCAサイクルの中で、より良いサービスにつながるように取り組んでいます。介護保険サービス情報を収集し分析することで、それぞれの利用者にどのようなケアを実施することが最適なのか調べて実践するのが目的です。そうしたものを介護保険の中に盛り込んでいます。

 科学的なエビデンスに基づいた政策立案についても、これから取り組んでいきたいと思います。

 LIFEやフィードバックについては、こうした仕組みを構築したのですから、円滑に進むように努力をしていきたいですし、信頼性が確保できるものにしなければならないと思います。データ入力いただいたものについては、ちゃんとフィードバックができるようにしていきます。

認知症の人と共生社会

 認知症の人に関する取り組みは、認知症施策推進大綱を取りまとめ、認知症基本法も国会で超党派の議論をしていただいています。

 我々としては、認知症地域支援推進員の配置や認知症初期集中支援推進チームの設置など、早期発見・早期対応に努めて、重症化を遅らせる取組も行っています。薬の開発など、科学的にもできるようになりつつあります。そういった点にも力を入れていきたいと思います。

 認知症の人の権利擁護も、しっかりと取り組んできています。認知症の人が普通に生活できる街づくりを進めていくということで、たとえば、周囲の人のちょっとした気づきの積み重ねでも、住みやすい街づくりに繋がります。

 認知症の人を特別と考えず、高齢になれば誰でもなりうるものとして、「共生と予防」に努めながら、地域で支えるためのまちづくりを進めたいと思います。

医療介護連携に向けた職域連携

 多職種連携については、介護報酬上でも、退院カンファレンスへのケアマネジャーの参加、医療職種、栄養・口腔・リハビリからのアプローチで自立支援の取組を評価する各種加算が充実してきました。人と人の連携が非常に重要で、普段から接していないと敷居が高くなります。コロナ前だと、みんなが集まってお茶を飲みながら話しあうことができましたが、現在は難しくなっています。 普段から意見交換ができるように、それぞれの専門領域だけでなく、それ以外の領域に関しても一定の関心を持つことは必要です。次期2024年度介護報酬改定では、連携を進めるための考え方も整理していく必要があると考えています。

人材不足への取り組み成果と課題

 2025年に現状の試算では32万人の介護職不足とされる中で、介護従事者等への処遇改善に取り組んできました。19年10月からは、更なる処遇改善に向けて公費1000億円を投じています。

 この更なる処遇改善は、ある程度スキルが向上してきた人を優遇する制度で、ずっと職場に居ていただくためのキャリア形成にもつながると考えています。21年度介護報酬改定では、使い道の点で個々の事業所が、よりそれぞれの実態にあわせて配分しやすいようにルールを一部見直すなどの対応をしてきました。

 ほかにも、新規に介護職になろうと思う人もいますので、貸付金制度も始めました。労働部局では、就職前に実際に現場を体験し、自身で見た上で決めていただけるような方法も進めています。飲食業などコロナ禍で厳しい産業も多い中、対人サービスである介護に就職してみようという方もおられるので、そうした取組もしています。

 外国人労働者の力もお借りしようと考えています。技能実習生とか、特定技能の制度も推進してきました。コロナ禍で難しい状況になっていますが、(外国人の入国や社会活動拡大の)今後の方向性が見えてくる中で、これからも続けていきたいと思います。

 高齢者のお力も借りたいと考えています。三重県などでは、高齢者施設などで元気高齢者にお手伝いをしてもらっています。介護マンパワー不足を補うためには多様な人材を活用させていただきたい。それが地域を活性化させ、高齢者ご本人の健康にもつながると思います。

 それにつけても、働く人の処遇を良くしていくというのは重要なので、これからも続けていきたいと思います。

介護ロボット、ICT活用は既定路線

 介護ロボットやICT機器を活用する方向は進んできていて、介護施設では、すでにICT機器や見守りセンサー、アシストスーツなどの介護ロボットを使っています。介護は対人サービスで生産性向上が課題となっている分野ですが、ロボットやセンサー機器の活用で労働生産性は高めることができると思っています。将来的には、在宅でも活用される状況があっても良いのかもしれないと思います。

 何よりも働く方の負担が減るので、どんどん活用いただきたいし、そのために介護報酬でも評価をしていきたいと考えています。一足飛びにはできませんが、有効かどうか確かめながら、有効なものは介護報酬で評価をしていきたいと思いますし、そのための検証を続けたいと思います。

持続可能な社会保障制度の議論

 前回の厚労大臣の時に、一定所得の利用者に2割負担を導入し、その後、現役並み所得の方には3割負担をお願いするようになりました。高額介護サービス費も見直しで負担が増えて、徐々に負担をお願いする流れになっています。

 介護保険料も制度当初の全国平均2911円から6000円に達し、保険料もサービス利用料も上がるという状況になっています。

 後期高齢者が増加する中で要介護者は増え、その中でどのように持続可能な介護保険制度を維持するのか、非常に難しいところに来ています。

 これまでの議論の中で、(2号被保険者である)40歳以上の年齢を引き下げるなどの「被保険者範囲の拡大」がありました。世代間の公平性をお願いしている手前、若い世代にも保険料負担をお願いすることを検討するという考えもあります。

 ただ、必要な費用はどこかで負担をすることを考えないといけませんので、どなたからどのくらい負担をお願いしていくのか、そして給付水準をどうしていくのか、これから国民的な議論が必要となるのではないでしょうか。

 制度の持続可能性については、具体的に社会保障審議会などの介護保険に関する場で議論をするのか、政府全体で社会保障に関する場での議論になるのか、いずれにしても、行わなければならない議論であると考えています。

 介護だけでなく、医療も同じような課題を抱えています。医療と介護に関する議論が、日本の社会保障制度の最大の課題になるのではないでしょうか。

(シルバー産業新聞2021年10月10日号)

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