介護保険と在宅介護のゆくえ

内容問わず給付抑制につながるケアプラン検証/服部万里子(連載114)

内容問わず給付抑制につながるケアプラン検証/服部万里子(連載114)

 8月中旬、新型コロナウイルスに感染した妊婦が自宅で早産し、搬送先の医療機関が見つからず、新生児が亡くなったというニュースがあった。これは、各地での病床の切迫状況を表している。


 8月中旬、新型コロナウイルスに感染した妊婦が自宅で早産し、搬送先の医療機関が見つからず、新生児が亡くなったというニュースがあった。これは、各地での病床の切迫状況を表している。

 東京で新型コロナ陽性で救急要請をした人の6割は、搬送先の病院が見つかっていない。8月には、1都3県で自宅療養中に亡くなった人が31人にのぼった。新型コロナ対応では、入院できない在宅療養者への医療提供が急務である。また、第5波の感染者の約2割が若者である中で、東京都が渋谷に設置した若者向け接種センターには、早朝から長蛇の列ができるなど、若年層への接種の遅れが露呈された。

 家庭内での感染も広がる中で、高齢者とその家族に向き合うケアマネジャーは、自らの感染予防をしつつ、8月からの介護保険負担割合証の確認や、通所事業所から寄せられる感染発生の連絡などへの対応、サービス調整などにも向き合っている。

 頑張るケアマネジャーに追い打ちをかけるのが、10月からのケアプラン検証である。区分支給限度基準額の7割以上を利用していて、かつ利用サービスの6割以上が訪問介護を位置づける居宅介護支援事業所を特定し、市町村が提出を求めた場合、プラン点検などをおこなうものだ。
 この取り組みには3つの問題点がある。1つ目は、市町村が認定することで「要介護度」が決められ、利用できる額が決められているにもかかわらず、その限度額に7割の規制をかける二重規制である。

 2つ目は、利用者は一人暮らしや老夫婦、ヤングケアラー、トリプルケアなど家族の状況が異なり、要介護の原因も認知症や脳血管疾患、老衰などとさまざまで、年齢も40代から100歳以上まで幅広く、介護ニーズが異なるにもかかわらず、サービス利用を利用額で規制するのは、介護保険の「持てる力を生かした自立支援」の理念に反する。

 3つ目に、訪問介護は在宅サービスの3本柱の1つである。日本で老人福祉法ができる前の1956年に始まった「家庭奉仕員」から始まり、「ヘルパーによる在宅介護サービス」へと形を変えて少子高齢社会を支えてきた。

 訪問介護を抑制することは、高齢者の生活と命への支援を抑制することに通じるのである。市町村が給付額を抑えられれば、「保険者機能強化推進交付金」として市町村にインセンティブが入る。さらに居宅介護支援事業所の指定や指導・監査、指定取り消しなどの権限を都道府県から市町村に移行した上で、公平中立性が保てない環境下でケアプラン検証をさせることは、ケアマネジャーをさらに追い込むことになる。

 そこまでして給付を抑制し、高齢者が安心して年齢を重ねることができるだろうか。人生最終段階の高齢者に、「サービスを利用しない自立支援」や「保険外サービスの活用」を強要するケアプラン検証は、見直しが必要である。
 訪問介護を抑制することは、高齢者の生活と命への支援を抑制することに通じるのである。市町村が給付額を抑えられれば、「保険者機能強化推進交付金」として市町村にインセンティブが入る。さらに居宅介護支援事業所の指定や指導・監査、指定取り消しなどの権限を都道府県から市町村に移行した上で、公平中立性が保てない環境下でケアプラン検証をさせることは、ケアマネジャーをさらに追い込むことになる。

 そこまでして給付を抑制し、高齢者が安心して年齢を重ねることができるだろうか。人生最終段階の高齢者に、「サービスを利用しない自立支援」や「保険外サービスの活用」を強要するケアプラン検証は、見直しが必要である。
(シルバー産業新聞2021年9月10日号)

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