インタビュー・座談会

全老健 アウトカム評価も見据えた自立支援促進を

全老健 アウトカム評価も見据えた自立支援促進を

 2021年介護報酬改定で自立支援が強く意識されるようになり、在宅復帰や在宅生活支援の役割を期待される老健施設に期待されるところは、これまで以上に大きくなった。科学的介護情報システム「LIFE」を要件とするリハビリ関連の加算も多いことから、LIFE対応は喫緊の課題となっている。21年改定の振り返りと共に、24年改定に向けた展望を全国老人保健施設協会の東憲太郎会長に聞いた。

プラス改定とコロナ禍の利用控えの中で

 2021年介護報酬改定がプラス0.7%となったが、老健施設については、コロナ禍で利用状況が「入所」2%減、「デイケア」20%減、「短期入所」30%減と稼働率が大きく低下したことから、全体として厳しい状況であるといえる。

 この傾向は高い在宅復帰を達成し、在宅生活支援などの要件を満たした「超強化型」「在宅強化型」の老健施設などに顕著な状況だ。

 これまで、老健施設はリハビリや多職種連携による「在宅復帰施設」とされてきたが、18年介護報酬改定以降は、在宅生活を継続できるように支援する「在宅生活支援施設」の機能が求められるようになった。老健施設の基本報酬は「超強化型」から順に5段階に設定され、我々も加盟施設に「高い類型を目指そう」とメッセージを送ってきた。

 そうした甲斐あって、利用者の入れ替わり(在宅復帰など)が多くなっていたが、コロナ禍で利用控えが起こり、稼働率の低下を招く皮肉な結果となってしまっている。

「在宅復帰・在宅生活支援」は不変

 介護報酬のプラス改定の効果とコロナ禍が収まれば、状況は回復すると考えるが、改定早々から、プラス改定の恩恵を受けにくい状況にあるといえる。

 それでも、我々が取り組むべきことは、在宅復帰と在宅生活支援機能を高めることで評価の高い老健施設の類型を目指すことは言うまでもない。

 特養や特定施設、サ高住など居住系サービスも増える中、18年、21年の介護報酬改定で、老健施設に求められる役割と評価は明確になったと思う。

 たとえば老健施設には医師がいるのも大きな特長の一つで、地域包括ケアシステムで中心的な役割を果たすことができる。熱発時や肺炎程度であれば、病院に入院せずに、そのまま治療を受けることができる。高齢者の多剤服用による悪影響(ポリファーマシー)が問題となる中、減薬のための取り組みもできる。

 国を挙げて対応が求められている認知症についても、専門的プログラムである「認知症短期集中リハビリテーション」が受けられる老健施設が全国各地に増えている。

 老健施設の目指すべき方向が示される中で、少しでも高い類型に向かっていくことは既定路線となっている。

次期改定 「デイケアの包括報酬化」を目指す

 デイケアについては、活動や参加を評価する制度とするため、機能や体制、利用者の心身状況などによる包括報酬化を目指すべきと考えている。

 このことは、21年改定で介護給付費分科会(20年11月16日開催)でも議論されており、厚生労働省から「強化型」「加算型」「通常型」のイメージも示され、「日額とするか、月額するか、選択制とするか」など具体的な検討も行われるなど、実現間近とみられていたが、今回は見送られた経緯がある。次期24年改定では、是非実現したいと考えている。

LIFEへの期待と課題

 今回の改定では、リハビリ関連など老健施設の主要な加算算定の要件として、科学的介護情報システム「LIFE」へのデータ提出が求められるようになった。

 データ入力作業は現場への負担となるが、これまで取得してきた加算を継続できるかという緊張感の中に老健施設はある。 「すぐ対応しないと経営に影響が及ぶ」という思いで、データ入力する職員や、入所者の状態を評価する専門職の尽力により、21年4月から算定に求められるデータを提出できた老健施設も多い。

 当会の調査(回答施設数1486・回答率41.5%)では、21年7月時点で、LIFE関連加算の算定状況は▽「科学的介護推進体制加算」約7割弱▽「褥瘡マネジメント加算(Ⅰ・Ⅱ)」約4割▽「排せつ支援加算(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)」約4割▽「自立支援促進加算」約3割弱――となっている。当会としても、独自にLIFEマイスターを置き、相談の受付・アドバイスなどをしてきた。

 私は、LIFEを通じて高齢者の尊厳や自立支援を目指す介護保険法の根本に立ち返り、エビデンスに基づきアウトカム評価を増やしていくという考え方には賛同する。ただ、提出するデータ項目の設定や、現場に負担を強いながらデータ提出を進めている現状には懸念も持っている。

 ICT補助金活用などにより環境が整い、介護ソフトメーカーの対応が十分に進んだ頃合いを見計らって、スムーズに移行していくべきだった。現状を見る限りでは、準備が不十分なまま、初めから完璧を求めすぎたのではないかと感じている。

「自立支援促進加算」をより効果的に

 LIFE関連の新設加算に「自立支援促進加算」がある。私は、このネーミングに大いに期待をもっている。この加算は特養や介護医療院などでも算定できるが、入所者の状態像やリハビリや多職種連携の体制などから、老健施設が担う部分が大きいと考えている。すでに老健施設で取り組まれている内容であるからだ。

 ただ、実際の要件等については、プロセス評価のため「医師の判断に基づいて「本人の意思やその人らしさを尊重して、食事・排泄・入浴の自立を目指す」「離床回数・訪室して会話した回数などをLIFEにデータ提出する」などに留まる。

 本当に本人の自立支援促進とするのであれば、自立につながる要件を増やすべきと考えている。

 たとえば入浴は「機械浴から個浴を目指す」という尊厳を重視した要件が求められているが、入浴動作に関する自立支援の評価を増やすべきだと思う。食事についても、食事動作ができるかを報告させるべきではないか。離床回数や訪室会話回数についても「施設内に趣味活動サークルがどれくらい存在し、どれくらいの参加者がいるか」を報告させた方が効果的だ。

 次期24年改定では、この加算にもアウトカム評価の類型が導入されるのではないかと考えるが、当会が開発した「ICFステージング」を指標にしていただければ、こうした変化を機微に捉えることができる。当会では、より自立支援につながる評価項目を検討し、意見を出していくことを続けたいと思う。

「介護助手」 全国展開へ

 2022年度予算の概算要求の中で厚生労働省社会・援護局は、新規に「介護助手等の普及を通じた多様な就労の促進」(3億円)を要求している。

 これまで介護職が担ってきた周辺業務を代行してくれる人材の確保を目指すものだ。

 そもそも介護助手は、三重県老人保健施設協会が15年に開始したことに始まり、その後、全国老人保健施設協会の取り組みとなった。18年4月時点で全国25都道府県の介護施設等で介護助手が活躍しており、22年度予算で全国に取り組みが広がろうとしている。

 介護現場改革や高齢者の就業支援の側面でも、全国に介護助手が広がることを期待したい。

(シルバー産業新聞2021年12月10日号)

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