介護保険と在宅介護のゆくえ

ケアマネジメント自己負担導入は質向上につながらない/服部万里子(連載84)

ケアマネジメント自己負担導入は質向上につながらない/服部万里子(連載84)

 昨年のケアマネジャー試験から受験資格が見直しされ、国家資格保有者と施設等の相談員に限定のうえ、ヘルパー資格で10年の実務経験者が対象から外れた。とは言え、受験者が2017年の13万1500人から4万9000人へと62.5%も減り、加えて合格率が約2割とは異常である。

ケアマネ合格者が急減

 現在までに、介護支援専門員の合格者は70万人いるが、ケアマネジャーとして働く者は約17万人である。今後、ケアマネジャーの仕事に従事したい人が減少する危険がある。国から求められる運営基準の厳しさにもかかわらず報酬が低く、厚生労働省の経営実態調査では制度当初から居宅介護支援は赤字続きである。赤字解消のために報酬アップは不可欠だ。

自己負担導入は誤りの理由

 国はケアマネジメントに利用者負担を導入し、「ケアマネジメントの質が上がる」と言うが、これは保険給付を減らし利用者負担を増やす目的であり、ケアマネジメントの質とは無関係である。15年から2割自己負担、18年から3割自己負担を導入して介護サービスの質は上がっただろうか。利用者が苦しくなっただけである。自己負担による問題は以下のとおりである。
 ①要介護者へのソーシャルワーク

 ケアマネジメントは排泄、入浴、食事などの直接サービスとは異なる。不登校の子供にスクールソーシャルワーカーが相談に乗ると、お金をとるだろうか。障害相談員が生活相談に乗るとお金をとるだろうか。生活困窮者の就労相談、生活保護者の相談でもお金は取らない。なぜ、要介護者への相談支援だけお金を取るのか。むしろ要介護者の相談に対し、近隣サポートや配食サービス、緊急通報、民生委員へと繋いでも、介護保険サービスを利用しなければケアマネジャーには交通費も通信費も出ないこと自体が問題である。
 ②相談支援に自己負担を導入することで利用抑制の危険がある。

 要介護2の独居者が上記のような例で屋外歩行に杖を利用したとする、レンタルが1000円で1割負担100円であるが、ケアマネジャーには1053円支払うことになる。国は、全世代型社会保障では「高齢者医療制度や介護制度において、所得のみならず資産の保有状況を適切に評価しつつ、『能力』に応じた負担を求める」としている。2040年に向け、預金通帳や持ち家を資産として4~5割負担もあるかも知れない。
 ③ケアマネジメントの質の悪化の危険

 利用者の自己負担増とサービスの質が関係しないことは述べたが、むしろ「持てる能力の発揮よりサービス量を求め」たり、「負担するなら施設入所」と介護者が利用者の意向を尊重しない傾向が出てくる危険がある。「言うとおりにしないケアマネなら替える」という選択肢が横行する危険性もある。

10月改定で様々な影響

 18年度改正で、市町村に居宅介護支援事業所の指定権限が移行し、生活援助サービスの回数に伴う届出や地域ケア会議など、ケアマネジャーに「運営基準義務化」業務が増えた。それに加え、入退院支援の情報提供や退院受け入れ、介護者による虐待対応など、ケアマネジャーの業務は複雑化し、支援困難ケースへの対応なども増えている。

 10月からは居宅介護支援を含め、サービス単価の変更により利用者への説明や重要事項の再変更、ソフト入れ替え等の負担が居宅介護支援事業所を襲う。加えて居宅介護支援の管理者に主任ケアマネ要件が義務化され、その研修に行けないために事業所の閉鎖を余儀なくされる事業所も出てくる。居宅介護支援事業所の4割に主任ケアマネがいない状況で、「質の向上」どころか、ケアマネ交代等で利用者が振り回わされるようなことは避けなければならない。都道府県によっては主任ケアマネ研修の申し込みが「定員オーバー」で締め切られるところもある。国はこれらの実態を把握し、主任ケアマネ要件の経過措置期間延長などを配慮すべきであろう。
 服部万里子(日本ケアマネジメント学会 理事)

(シルバー産業新聞2019年3月10日号)

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