ニュース

医療経済研究機構 服部真治氏「改善可能性のある人は給付から総合事業へ」

医療経済研究機構 服部真治氏「改善可能性のある人は給付から総合事業へ」

 今年4月、厚生労働省は「介護予防・日常生活支援総合事業の充実に向けた検討会」を立ち上げた。検討事項には「中長期的な視点に立った取組の方向性」も含まれる。2014年に八王子市から厚労省へ出向。介護予防・日常生活支援総合事業(以下、総合事業)の立ち上げに関わり、現在は、生活支援や介護予防などをテーマに研究を行う医療経済研究機構・服部真治氏に総合事業の目指すべき姿について聞いた。

 総合事業の対象者を要介護者まで拡大するのであれば、まず要介護認定の仕組みを見直すことが必要だ。日本では要支援2と要介護1を除き、調査時点の介護の手間で要介護度が決まる。しかし、ドイツやオランダでは個々の「状態の改善可能性」を含めた判定を行い、原則として長期に症状が固定化された回復困難な人は介護保険、改善の可能性がある人へは医療や福祉などの枠組みで改善に向けた支援を行っている。誤解を恐れずに言えば、改善可能性を持つ人に対しての保険給付は、自立支援や自助努力を阻害する面がある。保険給付ではサービスの選択権は利用者にあるが、その結果、利用者は廃用症候群を招く安楽のためのサービスを選択するかもしれず、事業者は利用者から求められれば、事業や雇用を維持するために収益確保を考えざるを得ないからだ。

 日本では、介護保険制度内に保険給付と市町村事業(総合事業)を同居させたのでわかりにくいが、改善可能な要支援者は市町村事業で支援を行うとしたものである。

 財務省は「要介護1、2まで総合事業への移行」を主張するが、要介護1は改善可能性が見込めない者(※)であるし、要介護2は改善可能性の判定を行っておらず、総合事業が適さない状態の者が多く含まれる。要介護度(介護の手間)で保険給付か市町村事業かを区別するのではなく、改善の見込みの有無で区別するべきというのが私の提案だ。

自治体主導で「卒業」できる事業構築を

 現行の総合事業は改善が見込まれる要支援者等を対象に実施されているにも関わらず、必ずしもうまくいっていない。まずは、改善可能な人がしっかりと「卒業」できる事業の構築だ。大阪府寝屋川市と当機構が2018年に実施した研究では、リハビリ専門職が主導する短期集中型自立支援プログラムを開発・構築し、要支援者に提供したところ、介護保険サービスから「卒業」できた割合は11.1%(190人中21人)となり、給付サービスが提供された高齢者より7.3%高かったという結果が出た。その後、山口県防府市、東京都八王子市、西東京市、神奈川県相模原市、高知県南国市などの市町村で「卒業」に向けた総合事業の構築に力を入れているが、同様の結果を得ている。

 状態が改善するとサービス量は減少していくわけだから、経営面でみれば事業者が参入するメリットがない。総合事業は市場原理で動かすのは難しいと認識する必要がある。市町村の直営や委託、あるいは指定するにしても事業所数には上限を設けて、「卒業」を目指すことがデメリットとならない事業を自治体主導でつくっていくべきだ。

(※)要支援2と要介護1は、要介護認定等基準時間は同一で、認知症や疾病などで状態不安定な人を要介護1に振り分けるプロセスを経るため。
(シルバー産業新聞2023年8月10日号)

関連する記事

2024年度改定速報バナー
web展示会 こちらで好評開催中! シルバー産業新聞 電子版 シルバー産業新聞 お申込みはこちら

お知らせ

もっと見る

週間ランキング

おすすめ記事

人気のジャンル