未来のケアマネジャー

誰のための、何のためのケアマネジメントか

 ケアマネジメント実践の始まりは、対象者とのコミュニケーションである。ケアマネジャーにとって利用者との面接は、他のどの業務よりも重要である。故・奥川幸子氏は「相談援助職は、相談だけで利用者を快に導くことができなければならない」と仰っていた。つまり面接とは、利用者にとってもケアマネジャーにとっても極めて重要な位置づけにあり、利用者との面接は、ケアマネジメント全体の質に直結する。

 介護給付費分科会で示された居宅介護支援の論点のうち、ケアマネジャー1人当たりの担当件数と、オンラインモニタリング導入(表)は、ケアマネジャーが行うモニタリング、つまり利用者との面接に大きな影響をおよぼす。この改正は、今後のケアマネジメントの全体の質を左右するだろう。

 国が行ったケアマネジャーの業務負担に関する調査では、利用者宅への月1回以上の訪問を負担だと感じているケアマネジャーは32.0%だった。負担に感じる業務は軽減すればよいのか。利用者との面接は業務の神髄である。だからケアプランデータ連携システムのように、事務作業の効率化を優先して取り組むべきものと同一視してはならない。
このような改定は果たして誰にメリットがあるのか。経営者の視点からみれば、従業員であるケアマネジャーの数を増やさず、事業所の担当件数を増やすことができる、経営上喜ばしい改定案だ。

 ケアマネジャーの立場に立てば、経営者から今以上に多くの担当件数を要求される。今の件数のままでは、まるでサボっているかのような印象すら持たれるかもしれない。現状、オンラインモニタリングに対応できる利用者はほとんどいないことから、結果、ケアマネジャーにとっては、業務負担増となる。他にもヤングケアラーなど世帯全体に目を向けた支援も期待されている。せめて担当件数の増加分をケアマネジャーの給与に充てて欲しい。
 メリットを探すのが最も難しいのは利用者・家族の立場である。月あたりのケアマネジャーの労働時間を増やすことはできないのだから、ケアマネジャーは実質利用者一人あたりにかけられる時間は圧縮せざるを得ない。

 逓減制の緩和の議論は今回始まったことではない。厚労省が死守してきた35件の壁に穴をあけたのは21年改正、団体からの提言だった。過去の制度改正を振返れば、一度空いた穴はふさがれることはなく、一層大きくなる。今回のみならず、今後の改正においてもこの傾向は続くだろう。

 かつて介護保険制度施行から数年は、一人のケアマネジャーが70件、100件担当していた時代があった。なぜなら「制度あってサービス無し」という状況を避けなければならなかったからだ。当時はやむを得なかった。やがてサービス受給バランスがとれるようになると、量から質への転換が求められた。ケアマネジャー1人当たり35件という上限が設定されると制度改正のたびに「質の向上」が重視されてきた。

 人材不足と財政難という厳しい状況に対応するために、DXという武器を携え、量の確保と効率化が最優先され、質はその陰に隠れてしまったように見える。一度切った舵を戻すことは難しい。本当に切っていいのか。誰のための、何のためのケアマネジメントか。ケアマネジャーは誰のために存在するのか。あらためて問う時期に来ている。

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