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【短期連載】生産性を数値化するアメーバ経営①(理論編) 収益性を時間単位で見る

【短期連載】生産性を数値化するアメーバ経営①(理論編) 収益性を時間単位で見る

 京セラコミュニケーションシステム(京都市、黒瀬善仁社長)は医療・介護法人向けに「アメーバ経営」をベースとした経営コンサルティングを展開、大きな経営改善効果を上げている。特徴は、事業所・施設をさらに細分化した部門別採算制度の確立、そして収益を時間単位で出すことによる生産性の見える化。現場改善と経営改善が結びつくことで「全員参加経営」を実現できる。今号より3回にわたり、その理論と実践事例を紹介する。

 アメーバ経営は、京セラ創業者である稲盛和夫氏が編み出した経営管理手法。①組織を役割・責任に応じた小さな組織に分ける②各部門の活動成果を正しく捉え、数値として可視化する③部門毎の課題を明確にし、全員で改善に取組む④経営者意識を持つ人材を育成する⑤全員参加経営を実現する――のステップにより、各部門、ひいては法人全体の収益向上につながるとの考え方だ。

 介護分野での同手法による経営改善の余地は大きいと、同社アメーバ経営コンサルティング事業部医療・介護コンサルティング部の山田倫史副部長は話す。「サービスの質向上や職場環境改善、ICT導入等が、経営的な効果にどう結びついているかの数値化・検証が行えるのが特長。加えて、現場での経営マインドも醸成する。現場で日々利用者に向き合ってきた職員が、サービス提供責任者や事業所の管理者になった途端、マネジメントを求められ、損益計算書を読まなければならなくなる。こうした事業所が非常に多い」。

経営改善の出発点「時間当り採算表」

 アメーバ経営を運用する上で重要な指標となるのが、1時間単位での収益を見える化する「時間当り採算表」だ。医療・介護コンサルティング2課の藤村龍晃氏は「赤字の事業所が『経営改善』を掲げても、何から手をつければよいか難しい。時間当り採算表は現状を知る出発点になる」と説明。山田氏も「いわば生産性を示す指標であり、労働集約型の介護業界では特に欠かせない視点。事業所・施設単位の損益計算書では見えにくい」と強調する。

 具体的には、月ごとの収入から「人件費を除いた諸経費」を引いた差引収益を計算。これを当該月の職員の総労働時間で割った「時間当り付加価値」を出す(図・最上部)。

 ポイントは、この段階で人件費を加味しない点。山田氏は「この表からのアプローチは①収入を増やす②経費の用途を吟味する③時間当りの効率を高める――の3つ。ただ、職員の処遇を悪化させてまで付加価値を上げることは意味がない。まずは、処遇を維持する前提で考える」と説明する。表では時間当たり付加価値の下に、人件費も含めた最終利益も計算する。

 また、月ごとの差引収益が同じでも、例えば超過勤務時間(残業)が多ければ時間当り付加価値は下がる。こうした実態を把握し、残業の削減や最適な人員配置につなげることが、時間単位で算出する目的だという。

 藤村氏は「特に差が出やすいのが訪問系サービス。売上規模が同程度の事業所でも、訪問効率や書類業務の残業時間に差があれば、時間当り付加価値に表れる」と説明する。

 時間当り採算表は部門別採算制の考えに基づき、役割・責任に応じた小組織単位で出すのが基本。特養などの施設サービスはユニット別、フロア別で行うこともあるそうだ。「例えば『食事提供部門』といった機能別での分け方も一つ。経営層が、どのような機能をどう任せたいかによる」(山田氏)。

質向上と収益を行き来

 コンサルティングでは、アメーバ経営の仕組み構築等の準備に3~6カ月(事業規模による)を要する。年間計画を立て、運用開始後は時間当り採算表等のデータに基づく毎月の進捗を把握。ここでは当然ながら、時間当たり付加価値を高めるために「何をするか」が重要となる。

 ただし山田氏は、年間目標など数値の話を先行させるのではなく、現場の取組みを出発点に時間当り付加価値にどう影響をしているのか理解を深めるアプローチが、アメーバ経営の入口としては始めやすいと提案。「良かれと思い行っているケアが、経営的にはどうかを知る機会になる」と話す。

 ケア内容を検討するツールの一つが、各利用者のサービス提供実績を一覧にした収入明細。利用者ごとに最適なサービスを総点検する。

 「訪問・通所の回数、請求内容(売上)を正確に把握している現場職員は意外と少ない。まずはこれらを棚卸する」と山田氏。ただ、あくまでサービスの質向上が目的であり、その結果が売上という数字に表れるとのこと。結果として回数を増やす、組み直す等の検討内容はケアマネジャーへフィードバックし、相談する。

 「訪問時間が40分なのに、利用者に気を使い『30分未満』で請求するケースなどもある。提供時間どおりの請求を行えば、年間売上で数百万円の違いになることも。こうした実態も共有する場になる」(藤村氏)。

 また、藤村氏は経費削減の例に入浴介助を挙げる。マニュアルでは「洗身時、シャンプーの量は2回プッシュ」とあるが、消耗品費が高い実態を踏まえ、入浴介助の担当職員が「頭髪の量によっては1回で十分な利用者もいる」と提案。「細かいと思われるかもしれないが、こうしたケースを何十回、何百回と積み重ね、経費削減は効果が出る」。そして、これが全員参加経営の発想だと述べる。「全員が経営の舵取りを行うという意味ではなく、自身の行動や取組みがどう経営、付加価値に影響するかを、現場の職員も考える。経営の人材育成にもつながっていくだろう」。
(シルバー産業新聞2022年10月10日号)

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