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「デジタル・ケアマネジメント」体験記 宮崎県都城市、恒吉歩ケアマネジャーに聞く

「デジタル・ケアマネジメント」体験記 宮崎県都城市、恒吉歩ケアマネジャーに聞く

 パナソニック(大阪府門真市、津賀一宏社長)は、IoTを活用した「デジタル・ケアマネジメント」の実証を、宮崎県都城市と東京都品川区で実施。その様子を都城市の実証事業に参加したケアマネジャーの恒吉歩さんに聞いた。

「デジタル・ケアマネジメント」を体験した経緯

 宮崎県介護支援専門員協会(会員約1500人)では、「ケアマネジメントの標準化」(以下、「標準化」)についての体験会を、2017年12月と2018年12月に開催した*。それぞれ約160人と50人が参加。テキストを使って講師から学んだ後、私も自分の利用者を1人選んで実践した。

 その後、2019年3月にパナソニックが開発した「デジタル・ケアマネジメント~ケアマネジメントの標準化に準拠したシステム」の体験会に参加した。これを機に、パナソニックと同県協会都城支部で共同研究に取り組む事となった。その時に、事例をピックアップしたいとの協会支部からの依頼があり、私は、脳梗塞を2回発症し、認知症もある方を選び、実証に参加する事となった。

 私は2つの研修会に参加したが、「標準化」の研修は紙ベースでやったので、書き込むのが大変だったのを覚えている。「標準化」に準拠した「デジタル・ケアマネジメント」のシステムでは、その点、負担が軽くなったと感じている。

IoTモニタリング機器を使う前の課題分析

 事例の方は83歳の男性で、要介護1。妻と二人暮らし。脳梗塞の既往歴があるので、「標準化」の勉強をしていた私は、毎日の血圧の測定、水分摂取の促しがポイントだと気付けた。また、認知症もあることから、交流の機会を設け、ADLの維持や改善を考えてデイサービスを活用した。

 ご主人は便秘だったので、排便がスムーズにいかない事で不穏になり、日に何度もトイレに行く事があった。下剤を使っていたので強すぎると下痢してしまう。ある時、奥さんから「真夜中、トレイの前での介護は大変」と訴えられた。家族の介護負担はかなり大きかった。

 しかし、この時点では下剤を変えるなども検討せず、トイレの回数は何回なのか、水分は摂れているのか、血圧は正確に測れているのか、などについて、それほど具体的に把握していなかったと思う。そして、このタイミングで「デジタル・ケアマネジメント」の話が出た。IoTを活用したモニタリングでは、血圧やトイレの回数なども把握できると聞いていたので、ぜひ試してみたいと思った。

「ケアプラン自己点検機能」を使った効果

 IoT機器を自宅に設置する前に、「ケアプラン自己点検機能」*を使ってケアプランの見直しをやってみた。パソコンの画面に入力してみると、ここが大事ですよ、とケアプランに大事な項目を出してくれた。ケアプランを作成するうえでアセスメントの抜け漏れがないかを確認する事ができた。

 具体的には、まず本人の基本情報を入力して、基本ケアと疾患別ケアに関する項目に入力する。基本ケアには、食事、水分、活動、排泄、服薬などの項目があり、疾患別は、定期的な医療管理の体制、日常の健康管理、日常の活動、疾患に対する理解、心理的な理解、日常生活の役割、セルフマネジメントなどの項目がある。それを参考にして、本人の状況や行為を入力していった。

 やってみると、自分のこれまでのプランを見直すことができた。その中でも一番、参考になった点は、排泄ケアについてだった。それは“どういう生活を送っていったら、下剤に頼らないで排泄コントロールができるのか”、という視点で、日常生活全体の把握が大事だということに気付けた。

 それと、デイサービスには行っているが、毎日ではないので、行っていない週4日はどの程度活動をしているのか分かっていなかった。水分摂取も、日常的に必要な水分を確保するにはどう支援するか、という点も足りなかった。

IoTモニタリグ機器をどのように使ったか

 ケアマネは本人や家族から情報を得るが、水分摂れてますか?排泄は大丈夫ですか?夜眠れてますか?と本人に聞いても、「はい、できてます!」と言われたら、それ以上は探りにくい場合がある。しかし、IoTセンサーなら24時間の生活が見れるので、その点でも期待した。

 IoT機器には、血圧計や活動量計なども含まれる。そこで、ご主人には血圧計と活動量計を使うことにした。血圧に関しては、毎朝同じ時間に自宅で血圧を測ってもらった。そしてIoTを使ってその経過を観察できるようにした。私は職場に居ながら、毎日の血圧変動が分かるようになった。

 すると、朝起きてすぐは血圧が高いことが分かった。デイサービスでは10時頃に測定していて、その時間では血圧は安定していた。気付けてよかった。しかも、朝運動する習慣だったので、家で運動する時は10時以降にするよう提案することもできた。

 活動量については、活動量計を持ってもらった。活動量が見える化できると、ご主人は、そのデータを見ることでモチベーションが上がり、ウォーキングに行くようになった。これにはとてもびっくりした。

 そして、「デジタル・ケアマネジメント」のすごい所は、生活行動を捉えるセンサー機能。早速、本人の自宅のトイレにセンサーを設置した。これは、いつも通りトイレを使っただけで、その回数が記録できるというもので、ご主人がトイレに入った回数を測って観察した。そして、頻度から、排泄回数だけでなく水分摂取量や睡眠時間などを類推することにした。

 IoTモニタリングは、24時間通して、本人がトイレに行った回数を記録する。1日15回以上行った回数を基準にして、それを上回るなら多すぎると仮定した。すると、ご主人は15回以上の日が複数あり、やはり頻度が多いことが分かった。トイレの回数だけでは尿か便かを判別できないが、下剤の効き過ぎから下痢も考えられるので、排便に問題があると推察した。

 そして、排泄回数は1日7回を下回る日は、水分摂取が少ないと仮定した。すると、7回を下回る日も複数あり、水分が摂れていない日が多くあることが推察できた。便秘の解消には、水分を摂り、さらに活動することが大事だと分かってきた。

 そこで、まず、水分摂取量を増やす工夫をした。とにかくお好きなドリンクをいろいろ探した。結局、“ごぼう茶”が好きだったことを奥さんが思い出し、奨めたところ、摂取量が上がった。デイサービスにも1日800cc摂ってもらうように伝えた。活動量は、先ほど言ったように、活動量計を持つことで上がっていった

IoTモニタリグ機器を使った効果

 IoTによるモニタリングを3ヶ月継続した結果、トイレの回数は落ち着いてきた。これは活動量が増えて、水分が確保され、便秘が改善されてきた結果だと思う。トイレが安定したことで、ご主人は精神状態も安定し、奥さんに暴言を吐くこともなくなった。その結果、奥さんの介護負担が減ってきた。実は、ご家族は「もう在宅は無理かもと思う事もあった」と言っていた。そして、デイサービスでの日中の覚醒レベルも上がり、デイサービスも1日減らし、体操教室を案内した。また、下剤も殆ど使わなくなった。

 体操教室は地区内の温泉で週1回開催している。都城市は宮崎県内の山側に位置し、温泉が豊富。ここならデイと違う新しい繋がりもできると思った。参加は無料だったので、介護保険サービスと異なり、料金負担がないことも気に入ってくれたようだ。

「基本ケア」がうまく回れば、問題解決に繋がる

 「標準化」の項目のうち、「基本ケア」がうまく回るようになったことが大きいと思う。本人の排泄のリズムが良くなり、排泄のリズムがよくなれば不穏状態がなくなり、家族の介護負担が減っていった。よいサイクルに入っていけたと思う。このケースで一番勉強になったのは、「基本ケア」がうまくいけば、認知機能や身体機能が改善するのが分かったこと。在宅生活は無理だと思っていたが、それが可能になったのは大きい。

 食事と水分と睡眠と日中の活動と、要は1日の生活の流れを見る事が大事。生活の様子が客観的に見えないと、どうアドバイスしたらよいか難しい。デイサービスにも具体的な数値が分かることで、水分量を摂取してもらうようにお願いできた。

「デジタル・ケアマネジメント」を使った感想

 ある日、データをチェックしていて、おかしいな、と思った時、奥さんはその時間、トイレで介助して大変だったという。データの異常を示した時間に、実際に家で何かが起きていた。確かにリアルタイムで対応はできないが、日常と違うことが起きたことを、IoTを活用していない現状より早く把握できると思う。本人や家族には寄り添いやすいと感じている。

 「デジタル・ケアマネジメント」は、独居の方に向いていると思う。独居で支援が得にくい認知症の方にはさらに良いと思う。毎日のデータを確認するのは大変だが、慣れてくれば要領が分かり、見るポイントも分かってくるので、業務の負担が増えることはないと感じている。今後も関わっていきたいと思っている。


*「標準化」は「基本ケア」と「疾患別ケア」がある。17年は脳血管疾患と大腿骨骨折、18年は心疾患を行った。「疾患別ケア」も「基本ケア」が土台となる。

*「ケアプラン自己点検機能」は、基本ケア項目に基づいて、インテークされた情報を元にアセスメント情報を入力すると、標準的な支援内容が導き出される。自分のプランに漏れがないかなどをチェックすることができる独自の機能。

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