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新型コロナ 高齢者施設でのワクチン接種

新型コロナ 高齢者施設でのワクチン接種

 新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が4月中旬より始まっている。東京都世田谷区では、一般高齢者に先駆け、4月12日から高齢者施設入所者へのワクチン接種を開始し、7月末には高齢者施設と一般高齢者の接種が完了する見込み。接種を行った介護施設では、あわや同じ利用者に2度ワクチンを打ってしまう重複接種が起こりそうになる一幕もあった。介護施設での対応を聞いた。

 世田谷区では、接種開始当時はワクチンの供給量が少なく、効果的に接種を進める必要があることから、高齢者施設でのクラスターの抑止も視野に入れ、高齢者施設からワクチン接種を開始した。

 対象となるのは、世田谷区内の高齢者施設220施設。同区では入所者のほか、日常的に入所者と接点のある従事者(職種問わず)や、ショートステイの長期利用者なども接種対象者としている。

 ワクチン接種は同区が用意した医師による「巡回接種」と、施設の嘱託医や訪問医による「サテライト接種」から選択する。

準備から接種まで約2時間

 高齢者施設でのワクチン接種の流れは、まず前日に世田谷区より、冷凍ワクチンと保存用の冷凍庫が届く。到着次第、ワクチンを冷凍庫に入れ、カギをかけて施設で保管。

 当日は、①冷蔵庫からワクチンを出し30分間室温で解凍②医師がワクチンを希釈し、看護師が容器から5回分のワクチンに分ける(約90人分で30分程度)③職員と入所者のワクチン接種(約90人で40分程度)④接種後、副反応の様子を見るため15分~30分待機――となる。

 冷凍庫の保管場所の確保や、準備時間を考慮した利用者の誘導などが求められる。

特養 「博水の郷」 接種翌日は原則休みに

 社会福祉法人大三島育徳会特養「博水の郷」は、5月15日に入所者と職員の約180人が2回のワクチン接種を完了した。施設の清掃を行う業者スタッフも接種。利用者の状態を詳しく把握していることから、同施設の嘱託医2人が接種を行った。

 ワクチン接種は2グループ(各入所者45人、職員45人程度)に分かれて実施。副反応があった際に早期対応できるよう、ユニット別にグループを決めた。

 ワクチン接種後、90%以上の職員に腕の痛みがあった。37度以上の発熱があった職員は約20人、頭痛や吐き気等の症状も数名いた。入所者で発熱や痛みがあったのは10人程度で、職員よりも少なかった。

 同施設では副反応を考慮して、接種翌日の勤務は原則休みとした。田中美佐施設長は「副反応として発熱や痛みの症状があることはわかっていたので、事前に医師とワクチン接種業務をとりまとめた池内祥子看護課長が相談し解熱鎮痛剤を配布していた。副反応とみられる症状は1日でほぼ治まったが、接種後体調不良が数日間続いた職員もいた」と話す。
田中施設長(左)と、ワクチン接種業務を担当した池内看護課長

田中施設長(左)と、ワクチン接種業務を担当した池内看護課長

あわや重複接種 ダブルチェックで未然に防ぐ

 ワクチン接種にあたり、同施設では誤って同じ入所者に2回接種してしまわないように、接種者リストを作成し、誘導時と接種前にダブルチェックを実施していた。

 しかし、前週接種済みの入所者を待機列に並ばせていたことが発生。その際は、接種前のリスト確認で接種済みであることが把握でき、重複接種を未然に防ぐことができた。

 「接種者の間違いがないよう、細心の注意を払っていた。急がず焦らず、徹底したチェックを行ったことで事なきをえた」と田中施設長はリストとチェックの重要性を振り返る。

 このほか、体調不良などにより直前で接種枠に空きが出た場合の優先接種者のリストも作成し、ワクチンが余らないよう工夫した。

 接種後重い副反応があり、2回目の接種を辞退した職員もいたが、その他の入所者や特養職員はほぼ全員が接種を完了した。施設内では「ワクチンを打つことができてホッとした」と安心感が広がっている。

 田中施設長は「ワクチン接種が完璧な感染対策ではない。消毒の徹底、三密の回避、ソーシャルディスタンスに気を付けて濃厚接触にならない業務などこれまでの感染対策を継続していきたい」と語った。
ワクチン接種者は1列に並んで待機

ワクチン接種者は1列に並んで待機

特養「等々力の家」インカム等活用しスムーズな接種

 社会福祉法人奉優会特養「等々力の家」では、5月20日に1回目の接種を実施し、6月10日に2回目の接種が完了する。同施設では、特養の入所者と職員の他、特養入所者と関わりがある併設事業所職員も接種。

 石井りな施設長は「デイ職員や居宅ケアマネはショートステイの利用者など、多くの高齢者と接する機会がある。間接的に特養入居者とも関わりがある」と説明する。

 副反応が出た場合にすぐに対応できるよう入所者と職員ともにフロアごとに接種グループを分けた。

 重複接種を防ぐため、接種日ごとの接種対象者リスト一覧(▽名前▽接種時間▽体調異常の有無▽備考)を作成。このほか、入所者を居室から接種場所に誘導する動線を示した資料を職員に配布。医師のそばに事務員を配置し、インカムを用いて順番が来た入所者の誘導を職員に呼び掛け、スムーズな接種環境を整えた。

 当初は入所者の各居室で接種する案が出ていたが、医師が経過観察する上で一カ所にまとまっていた方が安全だとのことで、接種場所の他、経過観察コーナーを設けた。
石井りな施設長

石井りな施設長

パーテーションで仕切ってワクチン接種

パーテーションで仕切ってワクチン接種

認知症の人への当日の説明を早く

 接種する入所者は、事前に本人や家族、後見人の承諾を受け、主治医による身体状況の確認も行う。

 入所者に向けては前日、当日の朝と繰り返しワクチン接種の予定があることを説明していた。しかし、接種直前になり、認知症の入所者が「どこに行くの?」「一体何があるの?」と不安な反応を示すことがあった。

 今回は、接種会場までの移動手段として車いすを利用したことで、本人の気持ちがリセットされ、会場まで行くことができた。「次回以降も、ワクチン接種ではなく、予防接種という言葉を使うなど、丁寧にわかりやすい説明を繰り返し行い、認知症の方でも納得していただいた上で接種を行いたい」と話す。

 ワクチン接種は強制ではない。同施設では「ワクチンを受けるのは不安」という声もあるそうだ。

 石井施設長は「現在、ワクチンを接種した入所者家族から『面会できないか』との要望が出ている。今後の面会方法も感染対策とともに考えていきたい」と今後の展望を話す。

(シルバー産業新聞2021年6月10日号)

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