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利用者と家族守るGPSシューズ

利用者と家族守るGPSシューズ

 警察庁によると認知症が原因の行方不明者の数は年間1万5863人(2017年)に上る。対策の一つとして広がりをみせているのが「GPSシューズ」だ。

ひと時も気を休ませることができない日々

 さいたま市在住の伊藤知子さん(仮名)は7年間に渡り、父・賢治さんの徘徊に悩まされてきた。「ひどい時は1週間に4回も5回も出ていってしまう。父の徘徊が始まってから、デイサービスが休みの正月などは特に不安で気が気ではありませんでした」と振り返る。両親はともに80代(当時)で、都内に二人で暮らしていた。父親が行方をくらますと、母親から「お父さんがいなくなった!どうしよう」とSOSの電話が入る。その都度、電話を受けた知子さんが警察などに助けを求めていた。

 実は知子さんの母親もMCI(軽度認知障害)を抱え、いわゆる「認認介護」の状態のため対応には限界があった。

 外出しようとするとアラームで知らせる認知症徘徊感知機器を玄関に設置したが、賢治さんはセンサーをひっくり返して出ていってしまう。「父は認知症でしたが、『これが鳴ると外出を止められる』とわかっていました」と知子さんは話す。真冬の寒い夜もパジャマのまま出て行ったり、徘徊中に転倒で骨を折ったこともあった。

 賢治さんの徘徊は昼夜問わず、知子さんはひと時も気を休ませることができない日々が続いていた。

「どこにいるかわかる」だけで気持ちが楽に

 疲労がたまる日々。そうした中で、たまたまGPSシューズの広告を目にした知子さん。「わらにもすがる思いで、すぐ広告の問合せ先に電話しました」。GPSシューズは、靴底に小型GPS端末を内蔵した介護靴。中敷きを外して簡単に端末を出し入れ可能だ。徘徊の発生や位置情報をスマートフォンなどで確認できる。賢治さんが利用していたのは「介護用品愛ショップ」(千葉県松戸市、岡田俊幸社長)の製品。当初は別のGPSシューズを使っていたが、位置情報がより正確と感じた同社製品に切り替えた。購入費は2年間の管理費を含めて8万円。決して安くはないが、現状が少しでもよくなるならと購入を決めた。

 GPSシューズの効果は知子さんの期待以上だった。徘徊がわかると、スマートフォンで専用アプリを開き、賢治さんの位置を確認。警察に居場所を伝えると、すぐ保護に駆け付けてくれた。「徘徊があっても、どこにいるかが分かるだけで本当に気持ちが楽になりました」と知子さん。

ショート受入れ決め手に

 ショートステイを利用したいとき、徘徊のことを話すと事業所は難色を示したが、GPSシューズの利用を伝えると「それならば」と受け入れてくれたという。

 導入から運用管理でサポートを行ったNPO法人ささえ愛の佐藤秀樹さんは、「認知症の人を見守るためには、意識させずに身に着けてもらうことが大切です」とし、その点でGPSシューズはとても有用だという。「ただ本人が靴自体を気に入らないと履いてくれないので、好きな靴を本人に選んでもらったり、お気に入りの靴を加工したりすると身に着けてもらいやすいですね。経験上、一番効果があるのは娘さんなど家族からのプレゼントです」と説明する。知子さんも、利用するデイサービスの職員らに協力を仰ぎ、「素敵な靴ですね」とほめてもらうことで、GPSシューズは賢治さんの外出に欠かせない「お気に入り」となった。

 半年ほど前から、賢治さんはさいたま市にあるグループホームに入居している。料理一つしたことのない賢治さんが楽しそうに鍋をふる姿や、少し離れた場所から他の入居者をやさしく見守る父の写真を見て「かつての父に戻ったよう」としみじみ語る知子さん。「佐藤さんや受け入れてくれたグループホームの皆さん、いろいろな方に支えられて、父は無事に過ごし、いまとても穏やかな生活を送ることができています。感謝の念に堪えません」と話した。

(シルバー産業新聞2018年9月10日号)

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