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NPO法人ゆめじろう 障がい・高齢の地域課題は地域力で

NPO法人ゆめじろう 障がい・高齢の地域課題は地域力で

 地域密着の障がい・高齢者支援を行うNPO法人ゆめじろう(愛知県武豊町、出口晋理事長)は、障がい者の65歳到達への対応を進める一方で、深刻化する介護人材不足を重層的支援体制を活用して乗り越えようとしている。地域課題を市民として自分の問題と捉え、たとえ小さな力でもあきらめずに行動することが法人の矜持となっている。障がい者も高齢者も「あたりまえの暮らしをあたりまえに」を目指して活動を続けている。小藤あけみ副理事長は2002年の設立時から事業所運営に携わり、ICT活用にも積極的に取り組んでいる。

日福大の学生ヘルパー

 「ゆめじろう」のスタッフの多くは、地域の小中学校で育ち、高齢者や障がい者の支援は行政と連携することが基本だと考える。地元武豊町のキャラクター「ゆめたろう」の弟分として、プロのイラストレーターに依頼して法人名とキャラクターを作成した。法人が所在する武豊町は知多半島中央部に位置する人口4万人の町。名古屋のベッドタウンとしても知られ、昔ながらの地域性が残る小さな町だ。「ケアマネジャーの集まりも良い」と、愛知県介護支援専門員協会副会長でもある小藤さんは語る。社会福祉士として、ケアマネジメント業務に加え、協会の研修や日本福祉大学の講義も担当してきた。

 近隣には日本福祉大学の美浜キャンパスがあり、実習生を受け入れている。学生たちがヘルパー資格を取得し、当事業所で勤務することもある。休日や夜間の訪問は、調整がしやすい学生ヘルパーが担当する。アルバイトではあるが、責任を持った勤務が求められる。2年ほどのヘルパー経験を経て当事業所に就職した人や、他の職場を経てここに就職した人もいる。2年後に同大学の社会福祉学部が移転することを、小藤さんは残念に思う。

 地域内の子育て世代や介護職・看護職の人々がヘルパーとして勤務しており、隣に小学校があるため、学校からの呼び出しにもすぐ対応できる。「自分も子育てしながら働いていたので、働きやすい職場にしたい」との思いで運営してきた。柔軟な勤務体制がスタッフを支えている。

 2002年の創設当初は、障がい福祉サービスのメニューも限られ、介護保険サービスも地域に密着した小規模事業所は少なかった。そこで、訪問介護を介護保険と障がい者福祉(居宅介護)の両方で開始した。

 「誰でも住み慣れた場所で、自分らしく生きていきたいと思っている。介護が必要になった高齢者や障がい者も同じ。その当たり前の願いが叶えられない状況が続いている」。この思いを持ってスタートした「ゆめじろう」は、現在正社員20人、パートを含めて約50人のスタッフを抱える事業所に成長した。22年度の事業収入は合わせて1億5800万円となる。「ほぼ収支差ゼロで運営しているが、減価償却を含めると赤字になる」と話す。

 制度外サービスとして、地域の立ち寄りサロンや通院同行など、公的サービスでは担えない時間帯のケア(ヘルパー対応の場合、1時間2500円)や住民同士の助け合い「分かち合いサービス」(1時間1500円)を提供している。「ちょっとした支援があれば、独居高齢者が生活できる」と小藤さんは語る。
タブレットの画面は、昨年個人で始めた「みんなの食堂がじゅまる」。小藤あけみさん。

タブレットの画面は、昨年個人で始めた「みんなの食堂がじゅまる」。小藤あけみさん。

障がい分野 分からなければ聞けばいい

 「今、事業収益の確保のために居宅介護支援の特定事業所加算を取得しなければならないため、ケアマネジャーとして活動しているが、障がいの相談支援を兼任していた時期もある」と小藤さん。身体障がい者支援の経験は病院でのMSW(医療ソーシャルワーカー)としての経験があるが、知的障がい、精神障がい、発達障がいなど多様な障害特性があり、相談支援員としてすべてのケースを担当することがある。それらの障がいの支援に関しては経験がないと分からないことが多く、支援方法がわからない場合は、周囲の経験者に尋ねるようにしている。「私たちの事業所には障がい者支援の経験者がいるので、アドバイスをもらえることもある」と話す。

仕切らないことも大事

 サービス担当者会議において、「この利用者さんをこうしたい」という意向だけで会議を進めると、他の専門職との協力がうまくいかないことが多いと指摘する。「障がい分野は高齢分野とは異なり、自分の少ない経験だけでは支援方法が分からないことがある。『困っているのはこれです。みなさん、どうすればよいですか?』と尋ねることが、合意形成につながり、支援策を導き出すことができる」と小藤さんは学んだ経験を語る。

制度の狭間でこれまでの生活の継続

 20年の社会福祉法改正により、市町村で地域住民の複雑で複合的な支援ニーズに対応する包括的な支援体制づくりが創設された。障がい者や高齢者の支援ニーズは変わらないが、制度的には分けられている。国が進める重層的支援体制が進むことで、様々な相談に応じることができるようになると小藤さんは期待を寄せている。

コロッケカーとICT活用

 同法人の取り組みの一つに「コロッケカー」がある。小藤さんは、地域の肉屋のコロッケが子どもの頃から好きだった。店主が要介護になり、店を閉じることになったため、コロッケの味を守りたいという思いで移動販売車「コロッケカー」を作った。障がい者の就労継続支援B型事業で運営され、売上は工賃として活用されている。同事業所では店主の看取りも行った。

 人材不足の解消を目指し、ICT活用にも積極的だ。助成金でタブレットを導入し、Googleドライブで情報共有を行
い、業務改善を進めている。また、ケアプランデータ連携システムにも早期に取り組み、小藤さん自ら国保連中央会のヘルプデスクサポートを使って導入を進めた。ただし、地域内には導入に呼応する事業所が少なく、デイサービスの1事業所としか連携できていない。「ケアマネジャーはICTやDX化に不安を感じている人が多いが、必要性は理解しているので、サポート環境が整えば進んでいくと思う」と小藤さんは6月から始まるフリーパス(1年間無料)の導入に期待を込める。

(シルバー産業新聞2025年4月10日号)

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