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社会福祉士「実践力強化」へカリキュラム見直し

社会福祉士「実践力強化」へカリキュラム見直し

 国が目指す地域共生社会の実現へ、その中心的役割を果たす専門職として期待される社会福祉士。このほど、2021年度からの実施へ向け、社会福祉士の養成カリキュラム見直しが行われた。個別の相談援助だけでなく、地域課題の把握から社会資源の開発などを通じた地域支援までを担う「ソーシャルワーク」能力を高め、課題解決の実践力をつけることに主眼を置いた内容となっている。

 社会福祉士は昨年実施の第30回試験を経て、これまでのべ23.8万人余りが登録。地域包括支援センターでは必置の専門職として、また福祉事務所や児童相談所、更生相談所、医療機関、高齢者介護施設・事業所など、幅広い現場で主に相談援助職として活躍している。1989年に第1回試験が行われてから、今回は07年度以来2回目のカリキュラム見直し。

 養成科目の総時間数は現行と同じ1200時間。各科目名にある「相談援助」という言葉はすべて「ソーシャルワーク」に置き換えられた。個別の相談援助に偏りがちな現状の社会福祉士の専門性を、より地域へもシフトさせ、地域課題の解決力を発揮できる人材の育成をねらう。

 新科目の「地域福祉と包括的支援体制」(60時間)では、地域共生社会づくりで社会福祉士が担う役割を理解し、各機関が連携・協働しながら、ひきこもりや「8050問題」、多文化共生など、多様化・複雑化していく地域課題へ対応するための知識を学ぶ。

 現行180時間の「相談援助実習」は240時間の「ソーシャルワーク実習」となり、2カ所以上の事業所・施設、相談機関などの現場に入る。個人・地域の支援に携わりながら学び、実践力をつける。実習施設は、これまで対象外だった都道府県社協や教育機関、刑期を終えた高齢者・障がい者を支援する地域生活定着支援センターなど、実務経験ルートで職務経験が認められる施設まで拡げる。

 国は医療・福祉人材確保のため、各資格共通の基礎課程を創設することを目指している。 その動きも横目に、精神保健福祉士のカリキュラムとの共通科目を、11科目・420時間から13科目・510時間に増やした。新しいカリキュラムは、福祉系大学・短大の21年度入学者から実施され、24年度の第37回試験から試験内容に反映される。

日本社会福祉士会・西島善久会長 「断らない」 相談対応スキルを

日本社会福祉士会・西島善久会長

 ソーシャルワークの専門職として、その職能強化が図られる社会福祉士。4.2万人余りが入会する日本社会福祉士会の西島善久会長に、カリキュラム見直しと今後の専門性向上について聞いた。

多様化・複雑化する地域課題へ対応

 新カリキュラムでは、相談援助という言葉がソーシャルワークに置き換えられたが、社会福祉士が担うソーシャルワークは、相談援助業務での個人への働きかけだけでなく、地域課題の把握や社会資源の調整・開発、ネットワークの形成など、地域や社会へのアプローチも含まれる。

 今後、少子高齢化の進展や社会状況の変化などで、「8050問題」、LGBTなどのマイノリティ支援、外国人労働者の生活支援など様々な課題が表出してくる。複数の課題が複雑に絡まり合い、ニーズもさらに多様化していく。その中で、誰もが住み慣れた地域でその人らしく暮らし続けられるよう、様々な課題へ対処していく地域共生社会を実現するためには、社会福祉士がソーシャルワーク機能を発揮することが必要だ。

新科目「包括的支援体制」

 国は地域共生社会づくりを目指す中で、子どもから障がい、高齢、その他様々な課題に対し、ワンストップで対応できる包括的な相談窓口を設けようとしている。新カリキュラムでは、制度の縦割りの壁を取り払い、相談者をたらい回しにしない「断らない」相談窓口で、あらゆる課題へ対応できる基礎スキルを身に付けてもらおうと、「地域福祉と包括的支援体制」の科目が新設された。

 個別相談援助はできても、地域への関わりが十分ではない社会福祉士もいるのが現状だ。そこで地域支援の実践力をつけてもらうため、講義から演習を経て、地域へ出向いて学ぶ実習の時間数を増やし、実習先の範囲も拡げた。

児童福祉は社会福祉士が担うべき

 児童虐待が社会問題となる中で、児童福祉に特化した新資格「子ども家庭福祉士」の創設が議論されている。児童福祉の専門性向上は賛成だが、これから新資格を創るとなると、実際現場に立つまでに10年はかかってしまう。

 それよりも、養成課程見直しや現任研修の充実などにより、今ある社会福祉士や精神保健福祉士の専門性を高める方が良い。児童相談所の児童福祉司で社会福祉士は4割ほどいる。現場の声も聞きながら専門性向上策を考えていく。

ソーシャルワーク資格一本化を

 今回、精神保健福祉士との共通科目・時間数を増やし、各資格をより取りやすくした。国が医療・福祉資格養成で、共通基礎課程創設を目指していることも意識した。我々としては、将来的に同じソーシャルワーカーとして資格を一本化したいと考えている。さらに当会と医療SW、精神保健福祉士の職能団体が、同じSW団体として、今後一つにまとまって意見発信できればとも考えている。

(シルバー産業新聞2019年8月10日号)

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