インタビュー・座談会

全老健 R4システムと多職種連携

全老健 R4システムと多職種連携

 全国老人保健施設協会(東京都港区、東憲太郎会長)は、新全老健版ケアマネジメント方式「R4システム」を開発し、普及を進めている。介護保険制度開始後の2001年にWHOで採択されたICF(国際生活機能分類・国際障害分類改訂版)を取り入れながら、かつ、日本の現状に合った独自の「ICFステージング」という考え方を採用したアセスメント方式。利用者の自立や社会参加の評価など在宅復帰を強く意識している。国の進める介護サービスの質の評価を目指したアウトカム評価や、PDCAサイクルの構築に貢献することも期待される。当初より同協会内でシステム開発を推進してきた副会長の折茂賢一郎氏は「老健施設のみならず、在宅重視の地域包括ケアシステムの中で活用できるように、通所版、居宅版などをリリースしてきた」と、多職種連携でも活用できることを強調する。「R4システムの現状と今後」を副会長の折茂賢一郎氏(写真)に、「ICFステージングの考え方」について常務理事の大河内二郎氏に聞いた。

R4システムの現状と今後

 ――R4システム開発の経緯と普及度は?

 地域包括ケアシステムの推進が言われる中で、老人保健施設が求められる機能を果たすように見直したアセスメント方式だ。ICFの考えを一部取り入れた「ICFステージング」を新採用した。簡単に言えば、これまで介護に必要な時間をタイムスタディして導き出した「介護度」の改善・悪化で介護の質を見るという方法があったが、ICFステージングの考え方では、利用者の状態像に着目し「その人が今していること(できること)」の変化を客観的に見ようというもの。

 地域包括ケアシステムでは在宅復帰が強く求められるが、そこには医療・介護をはじめ、多職種連携ができてこそ機能するものなので、利用者の状態像の変化をさまざまな職種が共有しやすくした。医療ではエビデンスという指標があったが、介護分野には明確にこうした指標がなかったので、R4では科学的にこれができるものとなることを目指している。当初は100施設ほどで始まったが、現在では500施設以上で導入されている。大手システムベンダーをはじめ、複数社の製品に取り込まれ始めていることも後押ししている。

 ――老健施設のためのアセスメント方式なのでしょうか?

 名称のせいもあって、老健施設のためのアセスメント方式と思われている節があるが、そうではない。在宅復帰を実現するために連携する多職種が、利用者の変化に着目して目指すべき方針を共有できるものだ。これまでに通所版、居宅版をリリースしてきた。日々バージョンアップしながら、より良くなってゆくアセスメント方式といえる。私の施設がある地元の群馬県では、多職種は当然のこと、家族も巻き込んだ地域全体のモデル的な取り組みも進めている。

 ――在宅復帰のための多職種連携ができるしくみがあるのですね。

 システムはインテークから始まる。その人が日常的にしているIADLまでも見ながら、これまでの人生にかかわること等も加味しながら、アセスメントが行われていく。単に在宅に戻すという意味の在宅復帰では意味がないので、その人にとって良い人生とは何なのか、つまり「看取り」まで見ていくということだ。

 その過程では、再び老健施設に入所することもあり、そして在宅復帰を果たしたという流れを多職種が連携しながら繰り返しつつ、より良い最期を迎えてもらうようになる。地域包括ケアシステムに対応した老健施設を目指しているので、施設内で完結するシステムであってはいけないと思っている。もっと言えば利用者の生活機能の評価についても基本的には専門職が行うが、力んで頑張ってしまえば日常的に行っている行動とはならないが、家族の協力が得られれば、本人の本当の日常の姿を評価することが可能になる。

 ――今後の展望については?

 より多くの施設で使っていただくことで、データが蓄積され「標準的な老健施設」が見えてくる。もちろんこれはマニュアル化を目指すものではなく、様々な施設特徴についても尊重しながらということは言うまでもないだろう。アセスメント方式の内容についても、医療と生活の観点から、慢性期モデル、生活期モデルなどを探っていきたいし、認知症モデルなども強化していく必要があるだろう。

「ICFステージングの考え方」 

大河内二郎常務理事

大河内二郎常務理事

 ――R4システムの「ICFステージング」とは?

 老健施設でのアセスメントツールとしての部分と、多職種連携を図る上で欠かせない「ICFステージング」という考え方が導入されているという2つの点を特長として挙げることができると思う。アセスメントツールは「アセスメント」(R1)、「ケアプラン作成」(R2)、「ケアプランの実施と確認」(R3)、「変化のチェックとモニタリング」(R4)の4段階からなり、PDCAサイクルが行われやすい。

 さらにR1のアセスメントについては、A1「ニーズアセスメント」↓A2「適正アセスメント」↓A3「生活能力(ICF)アセスメント」→A4「専門職(チーム)アセスメント」と詳細にアセスメントが行われた上で、ケアプラン作成となる。「ICFステージング」とは、利用者が普段行っている生活機能をとらえるもので、介護保険制度開始後の2001年にWHOで採択されたICFの考え方をつかったアセスメントを検討する中で完成したもの。統計データに基づいて開発されたものなので、信頼性が高く、多職種連携がしやすいことが挙げられる。

 ――R4システムが求められるようになった背景は?

 介護保険制度当時、施設は特別養護老人ホームを軸に作られてきた経緯がある。在宅復帰を進めるといった考え方もあまりなかったし、在宅復帰したとしても、維持継続していくための在宅での支援もほとんどなかった。「自宅で何をするのか」といった目標を、本人や周囲がないままという状態に近かったと思う。そうした中で、このほど地域包括ケアシステムの推進が掲げられ、在宅復帰を進める方針が実行される中で、老健施設がその中心的な役割を果たすために、そうした時代の要請に応えるシステムが必要という考えに至った経緯がある。

 たとえば麻痺がある利用者の場合、これまでならどのような援助を差し伸べるかといった観点でケアプラン作成がなされてきたと思うが、新しいシステムでは、リハビリテーションに取り組むことでできるようになる可能性はあるのかといった考え方をする。在宅生活を送る上でポータブルトイレなどの福祉用具や、住宅改修を行えばできるようになるのかなども検討される。実際、先の報酬改定で「在宅復帰・在宅療養支援機能加算」が老健施設に認められている点は、介護保険制度ではほぼ唯一のアウトカム評価ということができ、国からの要請であるとも考えられる。

 全体的にシンプルで、多職種連携を図る上でも目的を共有しやすい。また、在宅復帰後を引き継いでいただくケアマネジャーとの連携も大切なので、日本介護支援専門員協会会長の鷲見よしみ氏にも、R4システムの委員に参画いただいている。

 ――「ICFステージング」に期待される点は?

 アウトカム評価をする場合、単に介護度の改善・悪化だけでは適切でないということがあった。たとえば、介護保険制度開始時の要介護判定の仕組みでは、認知症の人の介護度が低く出るという指摘があり、その改善を図った仕組みが04年以降に採用されるようになっているが、それでもまだ不十分と思われる点がある。

 調査時には「自立」~「全介助」の4ランクで判断されるが、2番目に軽い「見守り」については、認知症のある人には部分介助や全介助以上の介助量となることがある。要介護認定は介護の必要時間を推定する仕組みであるが、認知症で適切に推定するのは現状のアセスメントでも困難である。

 そこで我々は、在宅復帰と多職種連携が欠かせない地域包括ケアシステムの中で有効な、ICFの考え方に近い評価の導入を目指し「ICFステージング」を開発した。利用者の普段行っている生活機能に着目したことが特徴で、たとえば歩行に関するものでは、難易度が高いものから「公共機関を使った外出」「手すりに頼らないで安定した階段の上り下り」「平らな場所での安定した歩行」「施設内での移動あり」「施設内の移動なし」をイラスト入りで示し、現在どのステージにあり、どのようにして改善を目指すのか、多職種連携でも共有しやすくした(図参照)。こうしたものを「食事」「嚥下」「排泄」など14項目にわたって作成した。中でも在宅復帰で重要なのが排泄で、復帰前にこうした項目について現状を把握し、どのように目標をたてて実行するのかについて、家族を含む多職種で検討されることになる。

(シルバー産業新聞2014年10月10日号)

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