インタビュー

中村秀一氏「21年度報酬改定は現状維持」(前編)

中村秀一氏「21年度報酬改定は現状維持」(前編)

 介護報酬の改定は3年ごとに行われる。全体でみれば、今回の報酬改定は最近にしては珍しく、大きな制度改正を伴わない中での報酬改定となった。たとえば、軽度者を地域支援事業に移行させるとか、利用者の自己負担を原則2割にするなどといった制度改正は行われず、基本的には第7期と変わらない制度環境で推移した。一言で言えば「現状維持の改定」である。

第9期以降、 給付と負担のバランス課題に

 報酬改定の柱も、新型コロナの影響を受け、感染症や災害への対応力強化が掲げられたものの、残り4つの柱である▽地域包括ケアシステムの推進▽自立支援・重度化防止の取組の推進▽介護人材の確保・介護現場の革新▽制度の安定性・持続可能性の確保――は第7期と同じである。

 これまで制度として追求してきた方向を、さらに徹底していくのが今回の報酬改定の特色と言えるだろう。

LIFEにより介護全般でアウトカム評価が行われる

 そうした中で、特に注目されるのが、自立支援・重度化防止の取組の中で、LIFEの本格運用を始めたことだ。これによって、今後、介護全般のアウトカム評価が行われやすくなる。これまでアウトカムと言えば、どうしてもリハビリの改善効果など、狭い分野でしか評価できなかったものが、LIFEができたことで、介護全般に広がり、現場のケアにも大きな変化をもたらすことが期待される。

 さらに今回の報酬改定では、リハビリテーション・機能訓練と口腔ケア、栄養マネジメントを三位一体で進めていくことが、はっきりと打ち出された。従来、リハビリテーションといえば、どうしても医療の位置づけとみなされてきたが、ここにきて食事や栄養と合わせ、LIFEのPDCAサイクルを回す仕組みの中に明確に位置づけられたことは、今回の介護報酬改定の中で最も注目すべきポイントだと見ている。

コロナ禍に背中を押される形で一気に進んだ

 今回の報酬改定のもう一つの特色が、コロナ禍の影響によって、これまで抱えてきた問題や、やらなければいけない課題に、すぐに答えを出さなければいけなくなった点である。

 具体的には、感染症対策の強化や事業継続に向けた取組の強化、テクノロジーの活用による業務の効率化や業務負担の軽減などは、コロナ禍に背中を押される形で一気に進めることになった。

 特に会議や多職種連携などは、感染予防という側面からも、オンラインによるテレビ会議が標準になっていくだろう。この辺りは、コロナによって政策の時間軸が変わった部分で、介護報酬を設定する側としても、特に力点を置いたことが伺える。そして何よりも、コロナ禍の影響を考慮し、改定率をプラスにするコンセンサスが政府の中でできたことが、今回の報酬改定では最も大きなポイントと言えるだろう。

 一方で、3度の補正予算を組んだことで、財政状況はこれまで以上に厳しくなっている。第9期以降の「給付と負担のバランス」をどうとっていくかが大きな課題になってくるはずだ。(つづく)

医療介護福祉政策研究フォーラム 理事長 中村秀一 (なかむら・しゅういち)
 東京大学法学部卒業。1973年厚生省(現厚生労働省)入省。在スウェーデン日本国大使館、厚生省老人福祉課長などを経て、2002年老健局長、2005年社会・援護局長、2008年社会保険診療報酬支払基金理事長を歴任後、2010年内閣官房社会保障改革担当。2012年より一般社団法人 医療介護福祉政策研究フォーラム理事長、国際医療福祉大学大学院教授。

(シルバー産業新聞2021年5月10日号)

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