インタビュー・座談会

長寿研「高齢者のための新型コロナウイルス感染症ハンドブック」発行

長寿研「高齢者のための新型コロナウイルス感染症ハンドブック」発行

 国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)が3月15日、高齢者・家族や高齢者施設などに向けて「高齢者のための新型コロナウイルス感染症ハンドブック」を発行した。制作にあたった同センター医療安全推進部の北川雄一感染管理室長に聞く。

感染予防と合わせて必要なフレイル対策

 国立長寿医療研究センターは高齢者の健康に関する国の研究機関。本ハンドブックは、新型コロナウイルスは高齢者が重症化しやすい感染症であるため、当センター感染管理室で家庭や高齢者施設での同感染症予防の一助となるように作成した。高齢者の感染症予防を基本にして、動かないこと(生活不活発)によるフレイル(虚弱)対策との両面から注意点を掲げている。20年3月15日時点の情報を元に作成、今後の情報によっては変更・改訂することもある。

クラスター拡大防止のためデイ自粛

 名古屋市南部のデイサービス事業者を絞り込むと死亡率は上がる。日本の死亡率が上がっているのはそれも理由にあるかもしれない。しかし、死亡率が上がってくると医療崩壊の入口につながる可能性がある。

名古屋市南部のデイサービス事業所で新型コロナウイルスのクラスター(集団発生)があり、名古屋市から緑区と南区のデイサービス事業所に2週間の事業の自粛が求められた。クラスターの発生があり、1人の利用者が複数の施設を利用する状況があったことから、同区全体のデイの休業要請が行われたのは、感染拡大を防止するためやむを得なかったといえるだろう。

 デイサービスの再開は、事業所の状況を見ながら判断して、環境をつくっていくのがよいと思われる。施設入り口にアルコール消毒薬を置いたり、手が触れる箇所は消毒するなどの感染症予防の基本を守り、クラスターの3条件といわれる、狭い場所(密閉)、人の密集、大声を出すことを控えること、そして活動の場所を確保するよう工夫することが基本になる。

高齢者施設での対策

 新型コロナウイルスの感染には、人混みに行く、買い物に出かけるなど、どこかでウイルスとの接触歴がある。職員や家族が持ち込まなければ、施設にいる人は、通常通りの生活をしてもらえばよい。前提として、高齢者の居住施設では、マスクの着用や手洗い、手の触れる場所のアルコール消毒などの感染症予防の基本を守るとともに、風邪症状などがあれば必ず休むなど、介護スタッフの健康管理がきっちり行われていることが必要だ。

感染症予防とフレイル発生の関係

 デイの自粛は、一方で高齢者の運動が低下したり、デイに行くことだけがその人の活動範囲という人もあり、生活不活発のリスクを引き起こす点を見逃してはならない。東日本大震災や熊本地震などでも同様な事態になり、エコノミークラス症候群など健康不安を引き起こしている。

 感染症とフレイルの関係性は、研究があまり行われていないが、一般に、高齢者は活動不活発により筋力が衰えると、免疫力が低下することが知られている。同時に、筋力低下は、飲み込む力も低下させ誤嚥性肺炎を引き起こすリスクも高める。

持病と感染症リスク

 中国の7万人以上のデータ解析では、8割の人は軽症で、風邪症状が1週間から10日ほど続く程度。しかし、高齢者や持病のある人は重症化し、死亡する割合が高くなる。また、心血管疾患や糖尿病、慢性呼吸器疾患、高血圧、がんなどの持病がある人の死亡率が高い。透析の場合はどうか、という質問があったが、一般に免疫力が低下しているような持病がある場合は注意していただきたい。

デイ休業による家族負担への対応

 学校が休校になり、親が仕事に行けない状況が生まれた。今後、介護事業所の休業が広がるようなことがあれば同様の事態になり、親の介護で出社できないことになる。名古屋でのデイ休業でも困られたご家族がいらっしゃったと思われる。介護施設でクラスターが起きた場合などを想定して、地域の施設間の連携や制度上の特例なども、国や行政が主導する形で対応を考えておく必要があるだろう。

個人情報は守る

 個別の感染症情報は個人情報として当然に守られなければならない。本センターがある大府市や東海市、名古屋市南部が入る名古屋南部地域の医療圏があり、新型コロナウイルス感染症に関する会議があった。保健所は、感染が見つかれば、感染ルートを把握し、クラスターの発生や拡大の防止に全力で当たっている。しかし、こうした会議の場でも、地域の病院にも、そうした具体的な情報は一切公表されることはない。医療機関は本人の自己申告に基づいて対応を図っている。まったく個人的な意見だが、感染症には風評被害もあり、公表はすべきでないと考えている。

当センターの対応

 2月初めに、当センターで、新型コロナウイルス感染症患者の受け入れ手順を作成した。しかし、高齢者の医療機関であるため、現在は、積極的な受け入れは行っていない。

今後の対策の方向性

 日本の新型コロナウイルス感染症の死亡率は上がっている。検査対象者を絞り込むと死亡率は上がる。日本の死亡率が上がっているのはそれも理由にあるかもしれない。しかし、死亡率が上がってくると医療崩壊の入口につながる可能性がある。

 データや根拠に基づいて必要な対策をすること。名古屋市の南部はまだ緩めるべき段階ではないと思うが、感染者数が少ない地域で、感染者のすべてで疫学的な調査がされて、感染経路も掌握されているような地域では、あまり厳しい自粛をするべきではない(談)。

「高齢者のための新型コロナウイルス感染症ハンドブック」より、高齢者施設ではどのような感染対策を行えばよいですか?

 新型コロナウイルス感染症は、高齢者と基礎疾患がある方は重症化しやすいため、高齢者介護施設等においては、ウイルスを持ち込まない、拡げないことが大切です。また、仮にウイルスが侵入しても、その感染経路を絶つことが重要です。このため、一般的な感染対策の徹底を図っていく必要があります。

 具体的には、各施設等において、厚生労働省が示した感染対策マニュアル等に基づき、高齢者や職員、さらには面会者や委託業者等へのマスクの着用を含む咳エチケットや手洗い、アルコール性手指消毒剤による手指消毒等を確実に行うとともに、サービス提供時におけるマスクやエプロン、手袋の着用、食事介助の前の手洗いや清潔な食器での提供の徹底等、感染経路を遮断するための取組が求められています。

 また、新型コロナウイルス感染症の発生状況等を踏まえ、

①職員は、出勤前に体温を測定し、発熱等の症状が見られる場合には出勤を行わないことを徹底

②面会は、緊急やむを得ない場合を除き、制限が望ましく、面会を行う場合でも、体温を計測し、発熱が認められる場合には面会を断ること

③委託業者等についても、物品の受け渡しは玄関など施設に限られた場所で行い、立ち入る場合には、体温を計測してもらい、発熱が認められる場合には立ち入りを断ること、などの取組も強く要請されています。

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