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日本在宅栄養管理学会シンポ 21年改定を口腔・栄養連携の潮流に

日本在宅栄養管理学会シンポ 21年改定を口腔・栄養連携の潮流に

 日本在宅栄養管理学会(前田佳予子理事長)は7月24日、合同ブロック大会をオンライン開催し、「介護報酬の改定による介護保険施設からの在宅訪問栄養食事指導と連携」をテーマにシンポジウムを行った。歯科医師、医師、ケアマネジャー、老健管理栄養士、栄養ケア・ステーション管理栄養士それぞれの立場から、2021年介護報酬改定を踏まえた栄養ケアのポイント、活動の現状について発表が行われた。座長は前田理事長、中村育子副理事長が務めた。

日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック院長 菊谷武氏(歯科医師)

通所で積極的な口腔・栄養スクリーニングを

 口腔・栄養の取組の充実は、在宅・施設の双方へ訪問できる歯科にとって追い風だと捉えている。個別ケアを重視する「栄養マネジメント」の考え方が取り入れられて以降、管理栄養士も食事観察の場に出てくるようになった。ただ、こうした動きは介護施設が中心であり、在宅は十分ではない。

 食べるための口を維持するには、まず食べているところを見なければならない。ただ、ケアマネジャーは食事の時間に訪問することがあまりなく、食事の様子はどうしても聞き取りが中心となる。「むせていませんか?」と聞いて「むせていない」と答えると、その時点で食形態、嚥下には問題なしとされ、専門職が介入すべきタイミングを失ってしまう。

 そこでポイントとなるのが通所介護。昼食の時間を利用し、ぜひ食事観察に取組んでほしい。改定では「栄養スクリーニング加算」が「口腔・栄養スクリーニング加算」へ拡張し、咀嚼の問題、むせがないかなど口腔に関する項目が追加された。ケアマネジャーへの報告も要件となっている。

東京女子医科大学病院教授 若林秀隆氏(リハビリ医)

リハ・栄養・口腔で「スマート」なゴール設定

 21年改定ではリハビリ・口腔・栄養を一体的に提供することが明記された。それぞれのケアの目標を関連職種が連携しながら、かつ具体的に設定することが重要となる。

 目標設定には①具体的(Specific) ② 測定可能(Measurable)③達成可能(Achievable)④重要・切実(Relevant)⑤期間が明確(Time-bound)――の「SMART」(スマート)な視点が求められる。例えば、リハビリの目標で「下肢筋力を向上させる」は具体的でもなければ、測定可能でもない。「見守りがついていることで電車に乗れる」や「自宅から歩いて10分のスーパーまで行ける」とし、これを何カ月後に達成するかを定めれば、①②⑤を満たし、かつ③や④が見えてくる。

 栄養の目標では、体重増加(減少)と期間を決めることは極めて大切。ただし、最終目標なのか、他の目標のための中間目標なのかは適切に見極めなければならない。

介護老人保健施設城山荘 栄養科長 栁町子氏(管理栄養士)

栄養マネ強化加算で磨く情報収集・提供

 老健で23年勤務しているが、給食管理のみだった管理栄養士の職域は、この15年で「個別ケア」「多職種連携」へ拡張し、介護報酬上の評価が行われてきた。

 当施設は開設当初より経口摂取支援に力を入れ、経管栄養の入所者はいない。以前より管理栄養士は2人体制。21年改定で新設された「栄養マネジメント強化加算」(1日11単位)を算定している。通所系の栄養改善加算や栄養アセスメント加算、グループホームの栄養管理体制加算の外部連携先として管理栄養士を派遣することができる。

 栄養マネジメント強化加算の要件の一つ、食事の観察(ミールラウンド)は毎日実施。咀嚼・嚥下や食事摂取量はもちろんだが▽食欲・食事の満足感▽食の嗜好▽食物に関する認知機能・覚醒――など、その場にいないと把握できない項目を重視している。

 また、要件の一つ「他施設、医療機関への情報提供」では、情報の錯誤が起きやすい食形態へ特に注意を払っている。日本摂食・嚥下リハビリテーション学会分類(嚥下コード)をベースに、調理方法や写真も添えて提供する。調理後、離水しやすいものもあるので、大量調理時の工程時間にも配慮している。算定の課題はLIFE。栄養・給食ソフトとデータ連携ができず、入力作業の負担が大きい。

医療法人社団福寿会相談部部長 弓狩幸生氏(ケアマネジャー)

訪問栄養の実態・効果をケアマネへ

 当法人では在宅部を設け、在宅医療・介護に関わる職種が連携しながら支援にあたっている。管理栄養士は2人。摂食嚥下障害、低栄養、糖尿病などを対象に、約50人へ在宅訪問を行っている。

 「なぜ食べられていないか」の原因を食形態、歯の状態、嗜好、生活環境など多面的にアプローチできるのが、在宅訪問を行う管理栄養士のスキル。しかし、これに対するケアマネの理解が不十分で、自己負担を理由にサービスの優先順位が低くなっている。

 地域のケアマネ団体向けの居宅療養管理指導の研修会、また対象者を把握しやすくするためのチェックリスト開発・普及が必要な対策だと考える。

 今回、外部の管理栄養士との連携による加算が充実した。当法人でも、8月より法人内の通所介護で栄養アセスメント加算、栄養改善加算を算定する予定だ。施設の管理栄養士は①自法人の通所事業所と連携し、在宅利用者の栄養・食事の実態を知る②地域の通所事業所へ連携のノウハウを展開する③必要な利用者へ居宅療養管理指導を提供する――の順で、在宅へぜひ関わってほしい。

緑風荘病院栄養室主任 藤原恵子氏(管理栄養士)

栄養CS活用し連携・加算を広げる

 居宅療養管理指導や栄養関連加算の外部連携先に認められているのは①医療機関②介護施設③日本(都道府県)栄養士会が設置する栄養ケア・ステーション――の3つ。ただし②の介護施設については「常勤で1以上、または栄養マネジメント強化加算の算定要件の数を超えて管理栄養士を配置している場合」に限定される。また、③は病院や施設、薬局などが設置する認定栄養ケア・ステーション(CS)は含まれないので注意が必要だ。

 自事業所が外部連携先の条件を満たしていない場合は、当該事業所の管理栄養士が都道府県栄養士会の栄養CSに登録しておくのが一つの方法。都道府県栄養士会の栄養CSとして依頼を受けた形にすることができる(もちろん連携元の同意はとっておく)。

 栄養関連の改定が充実した反面、算定要件など制度への理解が浸透しておらず問合せも多い。職能をより活かすためにも管理栄養士自ら、これらの情報を多職種へ積極的に発信してもらいたい。

学術集会WEB開催

 日本在宅栄養管理学会は9月18日~10月4日に第8回日本在宅栄養管理学会WEB学術集会をオンデマンド配信する。テーマは「在宅医療・介護で支える~食・暮らし・地域~」。21年改定を踏まえた在宅栄養、管理栄養士の今後の展開について前田理事長、および厚労省老健局老人保健課介護予防栄養調整官・日名子まき氏が講演する。

 シンポジウムでは石本淳也氏(日本介護福祉士会前会長)、黒田賢氏(日本栄養支援配食事業協議会会長)、川端貴美子氏(福岡県歯科医師会専務理事)、黒石美由紀氏(渭南病院栄養科)、永来努氏(大阪府言語聴覚士協会理事)が食支援の実践を発表する「お家に帰って、さあ食べよう!」も行われる。

 参加費は正会員・賛助会員9000円、非会員1万5000円、学生・大学院生1000円(要学生証の写し)。別途手数料、コンビニ決済・カード決済220円。

 参加登録は9月10日まで同学会HP(学会名で検索またはQRコード)にて。問合せは同学術集会事務局(TEL03・3981・7281)まで。

(シルバー産業新聞2021年8月10日号)

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