インタビュー・座談会

「人生を豊かにする」介護の魅力 柴田拓己/田尻久美子/森近恵梨子(後半)

「人生を豊かにする」介護の魅力 柴田拓己/田尻久美子/森近恵梨子(後半)

 11月11日の「介護の日」を記念し、特別座談会を開催しました。テーマは「私たちが支える介護の現場」。介護の仕事のやりがいや魅力、人手不足の問題に対して、どのような工夫や対策が必要か、語っていただきました。参加者の話し合いから出てきたのは、「その人の人生をより豊かにできる」という介護の魅力でした。

介護は非常にクリエイティブな仕事

 柴田 その方の真意を汲み取り、人生を豊かにさせる。介護は非常に奥の深い仕事です。ここで改めて、お二人が考える介護の仕事の魅力をお聞かせください。
 森近 仕事というのは誰のために、何のためにしているのか、ふと分からなくなる瞬間があったりもしますが、介護の仕事はしたことが全て相手に影響を与えるので、そうしたことがありません。自分が関わったことで、その方のできることが増えたり力を取り戻されたりしていく。そこに確かな充実を感じる瞬間があり、仕事を続けていく上での心の安定にもつながります。
 もちろん、一筋縄ではいかないことも多く、試行錯誤の連続になることもあります。だからこそ、うまくいった瞬間が訪れた時は感動します。それを利用者、家族、職員みんなで喜び合える。そこが介護の仕事の一番の魅力だと思っています。
 田尻 私もまさに森近さんと同じで、自分やチームでかかわった結果として、その方の人生や生活をこれまでよりも豊かにすることができた時に喜びを感じます。簡単にはいきませんが、達成感を感じる瞬間が訪れるとやめられなくなります。
 さらに言えば、毎日いろんな変化や出来事が起こり、一日として同じ日がなく、飽きることがありません。「人生は小説より奇なり」と言われますが、まさにその通りで、いろいろな方の人生を垣間見ることになるので、そこから自分自身の人生を豊かにするヒントをもらうこともできます。人と関わることが好きな人にとっては、本当にお勧めしたい仕事です。
 柴田 介護というのは、その方のそれまでの人生を受け止め、理解した上で、これからの生き方を支援し、生活をつくり上げていく。非常にクリエイティブな仕事ですね。

どの年代でも活躍できる仕事

 柴田 介護人材の確保については、現在、国を挙げて取り組んでいます。労働人口が減少していく中で、必要な介護人材を確保していくために、介護福祉士を目指す学生を増やす取り組みや、介護人材のすそ野の拡大を進め、中高年齢者など、多様な人材の参入促進に取り組んでいます()。田尻さんの会社では、人材確保でどのような工夫をされていますか。
 田尻 私自身、幼い子供が3人いて、仕事と家庭の両立は大変だなというのを実感しています。ですので、職場では仕事と家庭を両立できる環境を整えていくことを強く意識しています。私の会社には、30代~40代の子育て中の方が非常に多くいるので、育児休暇を取得しやすくしたり、学校の行事などが重なった際も、お互いに助け合いながら、協力しやすい雰囲気を作るよう心がけています。また、社内にはキッズスペースも設け、子連れで会社に立ち寄るスタッフもいます。
 また、私自身がIT業界で働いていたこともあり、ビジネス用のチャットアプリを使って直行直帰のヘルパーが業務報告を行うなど、ICT(情報通信技術)ツールを積極的に取り入れ、業務の効率化や生産性の向上にも取り組んでいます。
 柴田 労働生産人口が減少していく中で、ICTやAI(人工知能)、介護ロボットなどを用いて生産性を向上させていくことは、今後、とても大事になってきます。さらに離職防止の観点からも、働きやすい職場環境の整備というのは非常に重要だと思います。
 田尻 この業界で離職者が多いのは、マネジメント層がきちんと育成されていない問題も大きいです。介護そのものが嫌で辞める人は、それほど多くないと思いますし、単純に他産業と比べて賃金が低いからとの理由も違う気がします。それより職場環境が原因で辞めていく人の方が多いのです。
 森近 そこは私も同感です。介護の人材が確保できたとしても、いかに良い仕事をしてもらえるかというマネジメントができていないと、現場は機能しません。良いマネジメントが行われ、みんながモチベーションを高めて自分の役割を発揮できれば、全体としていい仕事ができます。そこが人材確保と併せて重要な部分です。
 あとは、この仕事は内省も大事です。私たちの事業所では、1カ月に1度、常勤の正社員が非常勤や新人スタッフとチームを組んで、仕事の評価や目標をどれくらい達成できたか、悩みはないかなどを振り返る機会を設けています。それを繰り返していているうちに、「特に何の目標もありません」と言っていた職員が、ある日「目標ができたかも…」と言い出したりします。その時に大事なのが、その目標をみんなで応援する組織の風土です。
 私自身、応援されてすごく良かったという経験があるので、他の職員がやりたいといったことは全力で応援するようにしています。その繰り返しが利用者さんにとってもプラスになりますし、職員の働きがいにもつながり、事業所内に挑戦・成長していく良い循環が生まれます。
 柴田 国としても、良い取り組みをしている事業所を外から見えるようにして、業界全体をブランディング化していく必要があると思っています。また、教育分野でも2021年と2022年に中学校と高校の学習指導要領にある技術・家庭の「介護」を充実させる予定です。これをきっかけに、教育現場の方や将来を担う若い方たちに、しっかりと介護を理解してもらうことが重要だと思っています。
 最後にお二人から、これから介護の仕事を目指そうとしている方々にメッセージをお願いします。

介護の需要と高齢者の活躍

 森近 いまの日本は、世界のどの国も経験したことがない超高齢社会になっています。ですので、この分野の仕事は、これからますます必要とされますし、自分たちの創意工夫次第でもっと良くしていける、そして面白くしていける業界だと思っています。一緒に挑戦していきたいですね。
 田尻 私も他業界から転職してきましたが、この仕事は、自分が今まで生きてきた経験や仕事が一切無駄にならない仕事だと思います。若い方の良さもありますが、中高年の方ならではの経験を生かすことで、利用者さんからとても喜ばれることもあります。そういった意味では、どの年代の方でも活躍ができる仕事なのです。これだけ自分がしたことがダイレクトに返ってきて、ともに喜びを感じられる仕事はそうはないと思います。是非、一緒に働きましょう。
 柴田 本日はお二人の貴重なお話を聞かせていただき、私自身、とても勉強になりました。介護する人がいなければ、自分らしい暮らしを続けられなくなる人や、介護のために仕事を辞めないといけない人が出てきます。目の前の人を支援する仕事が、ひいてはその地域、社会を支えている重要な仕事になっています。
 これからも介護の仕事の意義や魅力を、国、地方自治体、関係団体、現場が一丸となって発信していきたいと思います。本日はありがとうございました。(了)

(介護の日しんぶん2018年11月11日号)

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