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「抱え上げない・引きずらない」 下元佳子 (介護の日しんぶん 2017) 

 力任せのケアは、強い嫌な刺激となり、拘縮などの原因となります。良くなるどころか、悪化に繋がりかねません。そんなケアを変えたい、自立を促進させ、二次障害を予防するケアを広げるために、私たちナチュラルハートフルケアネットワークは、人を力で運ぶのではなく、本来の人の動きである「重さを移動させて動きを出すサポート」をするケアを普及する活動を行っています。

道具を使った介護――仕方なく行うもの? 

 皆さんは福祉用具をどのような位置づけで考えていますか? どのようにしてもできない時に、仕方なく使うもの? そんなイメージを持たれている方も少なくないと思います。

 福祉用具は生活を豊かにする道具です。起居や移乗介護においても同様です。力任せに持ち上げる、引きずる、そんな介護をしていないでしょうか。力でやってもできない時に仕方なく使うのがリフトやスライディングシート、グローブ、ボードと、そんな位置づけになっていないでしょうか。

 力任せの抱え上げや引きずるケアは介護者への負担が大きく腰痛などの原因となります。しかし介護者ばかりでなく対象者への負担も大きいのです。

 力任せのケアは、強い嫌な刺激となり、拘縮などの原因となります。良くなるどころか、悪化に繋がりかねません。そんなケアを変えたい、自立を促進させ、二次障害を予防するケアを広げるために、私たちナチュラルハートフルケアネットワークは、人を力で運ぶのではなく、本来の人の動きである「重さを移動させて動きを出すサポート」をするケアを普及する活動を行っています。

 しかし、忙しい現場において、たくさんの業務を目の前にして、対象者の方にしっかり良い結果を出せるまでには時間もかかります。また、組織やチームの中で1人や2人スキルの高い人がいても、多数の人が力任せの介助をしているのでは、結果もでません。技術を学んでも習得できない間は結果的に持ち上げ・引きずりケアとなってしまっていることも少なくありません。

 そんなときにぜひ福祉用具を使ってほしいのです。用具を使わない技術に比べて、福祉用具を使用するケアは技術習得が簡単です。リフトは特に機械で持ち上げて運ぶため、時間がかかりそう、難しそうというイメージをまだ持たれていることもあるかと思います。

技術を補い、自立を促すために

 しかし、初心者でもあっという間に使いこなせるようになります。そして、リフトやシートなど福祉用具ケアの良いところは、対象者を悪い状態にするような嫌な刺激を与えずに済むところです。

 人力での持ち上げと異なり、本来受けるべき場所で人の重さを受け止め、安定した姿勢で運ぶため、対象者の筋緊張はかえって和らぎ、それを継続することで運ぶことが容易になるだけでなく、対象者の身体を良い状態で保つことができます。

 リフトは大腿部に、スタンディングリフトは足底にそれぞれしっかり重さがかかるため、姿勢が安定し、緊張も和らげることができます。そして、適切な移乗介助が車いすでの座位姿勢やベッド上での臥位姿勢を安定させることにもつながります。座位姿勢の安定は、食事や排泄の機能を良くすることにもつながります。

 このように福祉用具でのケアは、介護者の腰痛予防だけでなく、対象者の自立支援を促進し二次障害から身体を守ることができます。

 福祉用具は生活期において力でできない時に仕方なく使うのではなく、急性期から対象者をより良くするために、そして、介護者がまだまだ技術が伴わないそんなときにこそ使ってほしいのです。

 人本来の動きである「重さを移動させて動きを出すサポート」の効果を出すためにも、私たち理学療法士がそのセラピーの効果を出すためにも、力任せの不快な刺激を無くし、安定した24時間の生活を作ることが必要だと感じています。
(介護の日しんぶん2017年11月11日号)

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