退院・退所カンファに利く 疾患の基礎知識

脳血管疾患②(加島守/連載2)

脳血管疾患②(加島守/連載2)

 2021年度介護報酬改定では、居宅介護支援の「退院・退所加算」などの算定要件として、「退院・退所後に福祉用具の貸与が見込まれる場合は、必要に応じ、福祉用具専門相談員や居宅サービスを提供する作業療法士等が参加する」ことが加わった。本連載では、福祉用具専門相談員がカンファに参加する際に知っておくべき基礎知識や確認のポイントなどについて、疾患別に紹介する。前回に引き続き、今回のテーマも「脳血管疾患」。

前頭葉へ栄養を送る前大脳動脈

 前回は、最も詰まりやすい血管である中大脳動脈について解説しました。今回も、同じく脳へ血液を送る「前大脳動脈」を取り上げます。内頚動脈が脳内に入ってから、中大脳動脈とこの前大脳動脈に分かれるのですが、前大脳動脈は主に前頭葉へ栄養を送っている動脈です。

 前頭葉は思考や感情、判断、記憶などを司っています。前大脳動脈が梗塞(つまる)などで、前頭葉が障害されてしまうと、手足の運動障害や感覚障害のほか、記憶障害、注意力障害、遂行機能障害、感情の障害などを起こすことがあります。前回のおさらいですが、カンファレンスでは医師などが、運動障害の度合いを重度、中等度、軽度と表現したり、感覚障害では患側の感覚を「10分の〇」(健側の感覚を10として)などと表現したりしますので覚えておきましょう。

 「記憶障害」は、▽新しいことが覚えられない▽ばれてしまううそをつく▽物をよくなくす▽どこにしまったかを忘れる▽同じことを何度も話す――といった症状がみられます。症状として疲れやすくなることもあるのですが、疲れていることに本人が気付かないという場合もあります。

 「注意力障害」は、集中力を持続させながら、1つの物事を長く続けることができません。身の回りのいろいろな刺激に振り回されてしまいます。「遂行機能障害」の特徴は、要点の定まらない話をしてしまったり、優先順位を決められなかったりします。「感情の障害」では、意欲の低下や怒りっぽくなったり、自分が病気であることへの認識の低下、欲求を我慢することができないなどの症状がみられます。

記憶障害は「覚えられない」だけじゃない

 したがって、例えば医師から「前大脳動脈の梗塞で記憶障害があります」と説明を受けても、単に覚えられないだけでなく、うそをつく、同じことばかり話をするという症状などがあることも押さえておきましょう。「注意力障害がある」と聞いたら、例えば車いすの延長ブレーキで注意を促すなどの必要性もぜひ検討していただきたいです。

 ただし同様に、注意力を補う支援だけでなく、「1つの物事を長く続けるのは難しい人かもしれない」と想像を働かせることが大切です。脳血管疾患による症状は当然、片麻痺だけでなく、障害された部位などでさまざまな症状が出現します。その個別性を意識したうえで支援を検討しなければなりません。

 カンファレンスは、その利用者の症状の特徴や個別性を確認する絶好の機会です。福祉用具専門相談員は、ぜひ自宅での生活を具体的にイメージできるよう、必要な情報を医師やリハビリの各担当者に確認して適切な支援へと繋げていただきたいです。
(シルバー産業新聞2021年5月10日号)

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