生き活きケア

生き活きケア(104)北海道認知症の人を支える家族の会

生き活きケア(104)北海道認知症の人を支える家族の会

 北海道認知症の人を支える家族の会(会長:中田妙子さん)は、県庁脇の社会活動団体拠点「かでる2・7」にある。電話相談を基本に、集いや研修を行っている。事務局長の西村敏子さんに活動の現状を聞いた。

 「立ち上げて27年になり、親の介護で50、60歳代で会に関わってきた人たちも70、80歳代になって会として維持できなくなったところが増えている。世話した人が、介護される時期にさしかかった」と事務局長の西村敏子さん(67歳)。北海道認知症の人を支える家族の会は全道に57、58支部があったが、いまは47支部と10支部ほど減少した。

 「いまは若い人に仕事があり活動できる時間が限られる」という側面も。支部の減少を受けて、会員数は2,808人になり減少気味だ。「施設に入ったので」や「亡くなったので」という理由で会を辞める人は多い。会員構成も「介護中」のA会員や「看終わった」B会員よりも、「賛同」C会員が多数を占めるようになっている。

 88年、西村さんは函館の家族会立ち上げに関わった。

 「私のときは、何もサービスがなく、ちょうど家族会が立ち上がろうとしていた時代。先を行く人たちを見ていると、認知症の症状が進行していくのが分かる。私たちはぎりぎりのところでやっていた。排泄で苦労した人から、つなぎ服を作ったよ、と教えられる。そうして助けられたことがあり、会の必要性を実感した」

 函館で夫と生活していた西村さんは、札幌にひとり残された夫の父を引き取った。母が亡くなる前から症状があった父は、環境の変化に症状が一層悪化し、混乱状態になった。当時40歳前後だった西村さんは、父の混乱ぶりに対処するのに明け暮れる毎日で、どこかに相談するという余裕すらなかった、と振り返る。

 「父は、ズボンをひっくり返して頭からかぶった。有吉佐和子さんの『恍惚の人』は読んでいたが、我がことになるとは思いが寄らなかった」

 疲れが極まった頃、市の広報で「痴呆性老人の相談」という窓口があるのを知り、集いに参加した。6、7家族と保健師が来ていた。

 「家族の人たちは、心の中に貯まっていたものを一斉にはき出していた。お互いに涙を流しながら話を聞くとともに、ご家族や保健師さんからアドバイスをもらった。何回か参加するうちに、気持ちが落ち着いていった。こうした活動がいまの家族会の原点になっている」と西村さん。88年、函館の家族会が20人ほどの会員で立ち上がった。

 介護保険16年目の現在も、認知症に関わる課題は広がっていると西村さんは話す。「認知症はいまも偏見があり、頭の病気故に外には言えないという面がある」。

 今年2月札幌で、認知症の妻を夫が殺害する事件があった。裸足で家を飛び出す妻の様子を見て、近所の人たちが手伝いを申し出ても夫は拒否し、同居の息子がいたが仕事があり、夫は妻のことを相談できずに、ひとり抱え込み、追い込まれていったと言う。

 「介護中の人で、自分以外に介護を任せる家族がいないという人が6割と言われている。もし仕事などで介護ができず、施設がなければ、生活が成り立たない。介護保険制度の存在をいまだに知らない人もいるし、親の相談に来たいのにパートに出ていて相談に来ることができないという人が少なくない」

 「介護はすることで学ぶことも多いが、やはり余裕がないと良い介護はできない。家族も介護職も、生活の安定がより良い介護の基本にあると思う。介護離職をしなくてすむようにすることや、介護人材が生活していける介護報酬の確保は欠かせない」と話す。

 西村さんは、電話相談を受けていて、人々の介護に対する認識の変化を感じるという。

 「以前は家族介護に悪戦苦闘したあげくに、このままでは家族がつぶれてしまうと思い、施設ケアという選択をした。いまは介護情報も豊富で選択肢も多い。それらをうまく利用して家族介護に臨む人が多数になった。しかし、在宅介護はサービスの利用だけではけっして済むものではない。いまも介護を抱えて病んでいる人が増えている」

 電話相談は6人で年間600件ほど受ける。相談内容は「認知症だけではなく、家族関係から生活全般に及ぶ」。嫁よりも実子からが多くなった。

 電話相談を受けると、十分に話を聞き、月2回実施する集いに参加を促すこともある。

 集いにはケアマネジャーも参加して、制度的なことやケアの説明が聞ける。ボランティアの医師による医療相談も行っている。1年に1度、全道の代表が集まって制度動向などを勉強する。

 26年間、家族の介護体験集を発行してきた。14年発行の「想いをつむぐ日々から」には、15人の介護体験が綴られている。介護者にとって、介護体験から力をもらうことが多い。

 「家族が別々に暮らす時代に、介護を家族の力ばかりに頼っていても当然に限界がある。在宅で暮らし続けるためには、必要な人に必要なサービスが届くようにすることが欠かせない。市町村の政策にしっかり訴えていくことも家族の会の役割だと思っている」。会はみなボランティアで運営されている。西村さんはかみしめるようにしてそう語った。

シルバー産業新聞 2015年12月10日号

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