未来のケアマネジャー

「ケアマネジメントの質」 ってなんですか?/石山麗子(連載2)

「ケアマネジメントの質」 ってなんですか?/石山麗子(連載2)

 「ケアマネジメントの質の向上」。この言葉を聞いて具体的にどのようなことだと思われるだろうか。実はこの言葉は政府や自治体の文書、研修のテーマなどいたるところで目にする。おそらくケアマネジャーや介護保険関係者ならこの言葉は違和感なく使っていると思うが、果たして誰もが「ケアマネジメントの質」を同じように捉えているのかは甚だ疑問だ。

 2018年3月に厚生労働省の介護支援専門官を退官した後、招かれる講演会では必ずといっていいほど「『ケアマネジメントの質』ってなんですか。言葉にしてみてください」と伝え、その場で文字にしてもらっている。会場の反応はさまざまだ。迷いなく書き進める人、両手を組んで考え込む人、書いたり消したり迷う人、中には理不尽そうな表情を浮かべて書かない人もいる。「せっかく研修に来たのにこんなに初歩的で、現場の業務に役立たないことを書かされないといけないのか?」と思う人がいるかもしれない。しかしその会場で私は「今こそ言語化しなければならない」とはっきり伝えている。その理由はこうだ。

 多くの人が平成30年制度改正事項を必死に読み解き、新しいルールに慣れようとしている18年4月、実は次期介護保険改正に関連すると思しき議論は既に始まっていた。ケアマネジメント関連に特化して見ると財務省の財政制度審議会財政制度分科会では4月と10月に、内閣府の経済財政諮問会議では12月に「ケアマネジメントの質」や「ケアマネジャーの質」という言葉を使った資料を出している。どちらも主要政策に関する会議であり、いずれも「質の向上」を目指していることから一見して何か目指す姿があるように思われるが、私が知る限りで「ケアマネジメントの質」に関して公式に示された定義はない。

 表1・表2は該当する箇所を抜粋しわかりやすくするためにアンダーラインを引いたものである。表1はケアマネジメントの質の向上と利用者負担、表2では、ケアマネジメントの質の向上とAI活用の観点から、ケアマネジャーの質の向上とケアマネジャーの業務のあり方等の記載がある。いずれもこれからのケアマネジメントに大きく影響する重要なことばかりだ。

 さてあらためてお聞きしたい。「ケアマネジメントの質」とは具体的に何を指していると思われるか。「国にきちんと決めてもらわないと」と答えを求める人は多いが、専門職であるならそれは筋違いだ。政府はさまざまな意見を集約し取り纏めるのが本来の役割である。間もなく介護保険制度が施行されてから20年を迎える。ケアマネジメントは実践理論であり、専門職による日々の実践を検証、分析その積み重ね、それこそが日本における最先端のケアマネジメントである。すなわち求めている「解」は現場にあり現場なくして解は導き出せない。ケアマネジメントの質の定義はケアマネジメント実践者の「命」であると言える。

 質の定義を論ずるには実践と理論を調和させケアマネジメント実践者と学識、行政等が協働し共有し理解できるよう言語化しながら慎重に創り上げねばならない。実はこのような取り組みの必要性に気づき議論の遡上に乗せていく力そのものがケアマネジャーの質と直結しており、「ケアマネジメントの質」の本質に近づくスタートラインに立つことを意味する、そう筆者は考えている。
 石山麗子(国際医療福祉大学大学院 教授)

(シルバー産業新聞2019年2月10日号)

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