未来のケアマネジャー

180度異なる意見を意識しながら方向を見定めていくことになる :石山麗子

 厚生労働省は、ケアマネジメントの質の向上と人材確保の観点から、包括的な方策を検討する必要があるとして、ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会(以下、ケアマネジメント検討会)をスタートさせた。

 この検討会は、この4月からはじまった第9期介護保険事業計画期間を通じて、包括的な方策を検討する必要があるとされている。議論の観点は4つ。①ケアマネジャー業務の在り方について②人材確保・定着に向けた方策について③法定研修の在り方について④ケアマネジメントの質の向上に向けた取組の促進――である。

 第2回目までの議論は研修や人材確保に集中した。まだ意見が少ないのは4つ目の観点にある「居宅介護支援事業所におけるケアマネジャーの専門性をより適切に評価するため、どのような対応が考えられるか」だ。ケアマネジャーの専門性とは何か、いまだ共通認識は存在しない。だから対応を議論することは容易ではない。そして、この議論はケアマネジメントの質に関連する。
 ケアマネジメント検討会のスタートと時を同じくして財務省では財政制度等審議会財政制度分科会(以下、財政審)が開催された。そこでは「ケアマネジメントに対する利用者負担の導入」について、「次の介護保険事業計画の開始までに必ず結論を出すべき」、つまり第9期介護保険事業計画期間である。

 財政審では、利用者負担を取らない現在の方法は、利用者側からケアマネジャー業務の質のチェックが働きにくい構造であると指摘している。そのうえで、ケアマネジメントの質を利用者が自己負担を通じてケアプランの質に関心を持つ仕組みにした方が、サービスの質の向上につながるのではないかとみているようだ。
 ケアマネジャーの立場にたてば、▽支援が必要なのに支援を望まない人へのアプローチがしにくくなること▽お金を払っているのだから利用者と家族の言う通りに動くようを要求されかねないこと▽利用料の支払いが負担となる利用者がいること▽請求・徴収事務が業務負担となること――などが懸念される。

 ケアマネジメント検討会では、業務範囲を明確化すべきとの意見が出されていた。仮に業務範囲を明確化した場合、利用者のなかには現在ケアマネジャーがしている支援より狭くなる場合も想定される。利用料が徴収されるようになったのに、ケアマネジャーからしてもらえることは少なくなるという現象だ。
 既得権に基づく無料へのこだわりを見せるケースもあれば、支払いに同意したとしても今までより一層細かく手厚い対応を要求するケースも生じるだろう。利用料徴収の説明をケアマネジャーが行うこと自体、業務負担になりそうだし、同意してくれたとしても、口座引き落としに至るまでの事務作業、現金徴収も想定すると心理的・物理的負担は否めない。

 とはいえ、利用者負担導入はケアマネジャーの意見だけで検討を進められる課題ではない。介護保険にかかわる、あらゆる立場の人との検討と合意が必要だ。利用者はもちろんのこと、被保険者でも介護保険サービスの利用比率の低い2号被保険者、保険料を折半している企業の健保組合、納税者、介護保険事務を行う保険者などさまざまだ。利害は180度対立することもある。利用者負担の導入・非導入のメリットとデメリットは立場により全く異なる。このような議論を行う際に忘れてはならないのは、180度違う意見の人が存在することを常に意識できるかである。

 次期介護保険制度改正に向けた議論は既に始まっている。これからの3年間は、ケアマネジャーの専門性、ケアマネジメントの質、その評価、業務効率化と人材確保、居宅介護支援の利用者負担導入等について、ケアマネジメント検討会、介護保険部会(介護保険法の議論)、財務省の財政制度等審議会など、複数の会議で議論が展開されそうだ。複数の会議を関連付けながら見るとともに、それぞれが自分の考えの論拠と、自分とは180度異なる意見を意識しながら方向を見定めていくことになるだろう。

関連する記事

2024年度改定速報バナー
web展示会 こちらで好評開催中! シルバー産業新聞 電子版 シルバー産業新聞 お申込みはこちら

お知らせ

もっと見る

週間ランキング

おすすめ記事

人気のジャンル