未来のケアマネジャー
根拠あるケアプランをたてていますか? 根拠ある指導をしていますか?/石山麗子(連載3)
介護支援専門員の方々を対象に「根拠あるケアプランをたてていますか?」と聞くと、手を挙げる人はそれほど多くない。介護支援専門員の多くの方々は日ごろから誠実にケアマネジメントに向い合っている。とはいっても「根拠はあります!」と胸をはってなかなか言いづらいようだ。なぜなら結論を導くまでの思考プロセスを説明することと、「根拠があること」は同じ意味ではないからだ。
介護支援専門員の方々を対象に「根拠あるケアプランをたてていますか?」と聞くと、手を挙げる人はそれほど多くない。介護支援専門員の多くの方々は日ごろから誠実にケアマネジメントに向い合っている。とはいっても「根拠はあります!」と胸をはってなかなか言いづらいようだ。なぜなら結論を導くまでの思考プロセスを説明することと、「根拠があること」は同じ意味ではないからだ。
介護支援専門員は連携の要なので、少なくとも他の専門職が納得できる内容の説明が求められる。多職種連携が促進される中で、介護支援専門員が連携する専門職は、保健医療福祉の広い領域にまたがる。各領域のプロフェッショナルに納得してもらうには、倫理、法令、科学性を担保するなど、ある程度の根拠が必要となる。
2018年4月から居宅介護支援事業所の管理者は主任介護支援専門員となった(経過措置期間中)。主任介護支援専門員の役割は多岐にわたるが、その中の一つに介護支援専門員への指導・育成がある。さて主任介護支援専門員は根拠に基づく指導を行えているだろうか。これに対して「はい」と答えるのは容易ではない。主任介護支援専門員の指導の大半は自分の経験知に基づいて行っていることが多く、経験が根拠と言っていいのか判断がつかないからだ。
18年度から居宅介護支援事業所の指定権限、指導監査権限は、市町村に移譲された。保険者は居宅介護支援事業所を指導する立場にある。保険者が行う指導は、実地指導、ケアプラン点検や地域ケア会議など、多くの場面を通じて行われている。さて保険者は根拠ある指導を行っているのだろうか。ここで確認しておきたいのは、主任介護支援専門員が行うのとは異なり、行政が行う指導は明確な根拠が求められる。実地指導は法令に基づいて行うため、若干の解釈の相違を除けば根拠が大きくずれることはない。ではケアプラン点検や地域ケア会議での指導に根拠はあるのだろうか。根拠は属人的であってはならない。
例えばある一つの事例を点検する際に、職員Aと職員Bが別々に点検したとしても同じ指導内容でなければならないだろう。地域ケア会議も同様だ。仮に一つの事例を別々の会議体にかけても指導内容に乖離があってはならない。保険者の判断なのだから標準化されている必要があるだろう。果たして現状でそれらは実現できているのだろうか。もし指導の根拠が明示されないなら指導の効果はおろか、逆の影響さえ生じかねない。
これらのことから見えてくるのは、いまの介護保険において「指導」といえるのは法的な根拠に基づく内容にすべきだ。ケアの根拠が明示できない場合は「指導」ではなく「助言」の範囲にとどめるべきだというのが私の考えだ。だからといってケアマネジメントの質の担保や向上、質のバラつきをそのままにしてよいと思っているわけではない。
制度施行から20年目を迎えるいま、なぜこのような状況なのだろうか。特に価値観が多様化している今日、要介護高齢者等の生活支援には個別性に対する配慮は欠かせない。ケアマネジメントはまさに『全国一律の保険と利用者の個別性』という一見して対峙する両者を繋げる力を持っているのだ。
理想を言えば制度施行前に保険制度としての標準的なケアマネジメント手法の確立が必要であった。そうはいってもケアマネジメントは実践理論であることを踏まえれば、日本版ケアマネジメントを制度施行前に確立することは不可能だったといえる。人口減少と同時に進展する高齢社会では今後さらに要介護者をめぐる生活課題は複雑化することが予想されている。だからこそケアマネジメントの実践者自らがケアマネジメントの根拠、手法を編み出し、その結果をまた実践に溶け込ませていくなど、検証と改善を繰り返していく意図的な取組が期待されているのだ。次月は、「適切なケアマネジメント手法の策定」(ケアマネジメントの標準化)について述べたい。
石山麗子(国際医療福祉大学大学院 教授)
(シルバー産業新聞2019年3月10日号)
介護支援専門員は連携の要なので、少なくとも他の専門職が納得できる内容の説明が求められる。多職種連携が促進される中で、介護支援専門員が連携する専門職は、保健医療福祉の広い領域にまたがる。各領域のプロフェッショナルに納得してもらうには、倫理、法令、科学性を担保するなど、ある程度の根拠が必要となる。
2018年4月から居宅介護支援事業所の管理者は主任介護支援専門員となった(経過措置期間中)。主任介護支援専門員の役割は多岐にわたるが、その中の一つに介護支援専門員への指導・育成がある。さて主任介護支援専門員は根拠に基づく指導を行えているだろうか。これに対して「はい」と答えるのは容易ではない。主任介護支援専門員の指導の大半は自分の経験知に基づいて行っていることが多く、経験が根拠と言っていいのか判断がつかないからだ。
18年度から居宅介護支援事業所の指定権限、指導監査権限は、市町村に移譲された。保険者は居宅介護支援事業所を指導する立場にある。保険者が行う指導は、実地指導、ケアプラン点検や地域ケア会議など、多くの場面を通じて行われている。さて保険者は根拠ある指導を行っているのだろうか。ここで確認しておきたいのは、主任介護支援専門員が行うのとは異なり、行政が行う指導は明確な根拠が求められる。実地指導は法令に基づいて行うため、若干の解釈の相違を除けば根拠が大きくずれることはない。ではケアプラン点検や地域ケア会議での指導に根拠はあるのだろうか。根拠は属人的であってはならない。
例えばある一つの事例を点検する際に、職員Aと職員Bが別々に点検したとしても同じ指導内容でなければならないだろう。地域ケア会議も同様だ。仮に一つの事例を別々の会議体にかけても指導内容に乖離があってはならない。保険者の判断なのだから標準化されている必要があるだろう。果たして現状でそれらは実現できているのだろうか。もし指導の根拠が明示されないなら指導の効果はおろか、逆の影響さえ生じかねない。
これらのことから見えてくるのは、いまの介護保険において「指導」といえるのは法的な根拠に基づく内容にすべきだ。ケアの根拠が明示できない場合は「指導」ではなく「助言」の範囲にとどめるべきだというのが私の考えだ。だからといってケアマネジメントの質の担保や向上、質のバラつきをそのままにしてよいと思っているわけではない。
制度施行から20年目を迎えるいま、なぜこのような状況なのだろうか。特に価値観が多様化している今日、要介護高齢者等の生活支援には個別性に対する配慮は欠かせない。ケアマネジメントはまさに『全国一律の保険と利用者の個別性』という一見して対峙する両者を繋げる力を持っているのだ。
理想を言えば制度施行前に保険制度としての標準的なケアマネジメント手法の確立が必要であった。そうはいってもケアマネジメントは実践理論であることを踏まえれば、日本版ケアマネジメントを制度施行前に確立することは不可能だったといえる。人口減少と同時に進展する高齢社会では今後さらに要介護者をめぐる生活課題は複雑化することが予想されている。だからこそケアマネジメントの実践者自らがケアマネジメントの根拠、手法を編み出し、その結果をまた実践に溶け込ませていくなど、検証と改善を繰り返していく意図的な取組が期待されているのだ。次月は、「適切なケアマネジメント手法の策定」(ケアマネジメントの標準化)について述べたい。
石山麗子(国際医療福祉大学大学院 教授)
(シルバー産業新聞2019年3月10日号)
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