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限界集落の買物難民に、自治体が独自施策/宮下今日子(108)

限界集落の買物難民に、自治体が独自施策/宮下今日子(108)

 町に行くのに車で1時間かかる中山間地では、高齢者の買物が大きな課題になっている。この課題に対して、自治体が助成金を用意し、独自の施策に取り組むのが徳島県美馬市だ。

 同市の山間部にある木屋平地域は、人口が519人、世帯は317。高齢化率は66.7%と極めて高い(21年4月1日現在)。町に行けばマーケットがあるが、車で1時間程かかる。高齢により免許を返納してしまえば、自分で買い物に出るのが難しくなる。路線バスは走っているが、バス停まで行けない人もいる。NPOによる移動支援もあるが、数が十分ではないそうだ。

 こうした現状を大きな課題として位置づけ、市では「買物支援事業」を始めた。その構想が始まったのは、中学校の移転に伴い、旧校舎を活用した地域の拠点施設として行政サービスや診療所などを集約する複合施設を整備する計画が挙がった時のこと。

 まず、15年11月から約1年間、移動販売の実証事業を実施した。その結果、日用品や食料品などが確保されただけでなく、買物客と販売員との距離が近づき、高齢者の安否確認に期待がもてることが分かった。

 中には、家に引きこもりがちだったが、家から出てくるようになった高齢者もいた。買物客同士も会話が生まれ、お互いを気に留める関係も出てきた。市では移動販売が高齢者の健康や生き甲斐、さらに見守りに繋がることを重く受け止め、事業化を決めたそうだ。

 そして17年4月から「買物支援事業」としてスタートさせ、20年の8月から「とくし丸」の仕組みを活用した移動スーパーが開業した。 市ではこの地域を特例地域とし、「高齢化率や商店数、商店との距離等を勘案して、買物が困難であると別に定める地域」としている。

 そして、事業については、「日常生活に必要な食料品や日常生活用品等の購入が困難な地域を解消し、高齢者をはじめとする市民の生活を守り、生活の利便性を確保することが目的。同時に移動販売を行う地域で、独居老人等の安否確認や市道の状況などを把握し、地域の中で異常がある時には、市や関係機関等に連絡をすることを目的としている」と同市市民環境部くらし・人権課の近藤敦課長は説明する。
 事業の予算規模は、年間65万円。事業者には3年以上の継続を求めている。

 過疎地の経営は、顧客数も限られ、移動に時間がかかり、土砂崩れで迂回が続くこともあり、品物が途中で売り切れても補充できないなど、難しい課題が多い。この事業では、実施事業者には、車両の購入補助として対象経費の半額または上限100万円と、特例地域での移動販売事業補助として1日6250円が支払われる。「現在、1日の売上も良好に推移しており、この助成金で販売員は安心して働けている」と、とくし丸の小川奈緒美さんは話す。

 販売員の藤野克彦さんは、現在、週2回のペースで、1日平均9カ所に車を停めて販売している。積み込む商品は約400品目、1200点。青果、精肉、鮮魚をはじめ、お惣菜や日用品も用意する。「遠くまで来てくれるだけで感謝される。逆に採れたての野菜を頂くこともある」と触れ合いを語る。販売と同時に行っている見守り活動については、「お客様に耳の遠い認知症の方がいて、家の中からテレビの音は聞こえるのに鍵がかかっていて安否確認ができないことがあったため、行政に連絡した」と教えてくれた。他にも、1年近く来てくれたお客さんで、徐々に歩きにくそうになり、親戚に状況を報告し、娘さんの家で生活するようになった方もいるそうだ。

 同市長寿・障がい福祉課の担当者は、山間地では交通手段が少なく、「自分で歩いて転んだりするのも心配」と話す。このサービスを利用している人の中には、高齢者世帯や独居世帯、近くに支援者がいないといった方も多い。利用者のことで販売員から相談を受けるケースもあるそうだ。行政が横断的に事業を支えているのが分かる。

 美馬市は市長が買物支援施策を喫緊の課題と位置づけ、担当課は約1年かけて実証事業に取り組み、ニーズ調査や結果検証も行ってきた。買物支援以外にも、病院などへの移動支援として、路線バスを廃止しデマンド方式での公共交通も予定している。また、訪問介護にも独自の助成を行うなど、中山間地の高齢者を独自の施策で支えている。

 移動販売により高齢者の見守りも事業に位置づける「とくし丸」は、美馬市でのビジネスモデルが良好に推移していることから、今後、全国の中山間地に広げたいと意欲をみせる。実際、中山間地を抱える自治体から問い合わせが寄せられているそうだ。
(シルバー産業新聞2022年1月10日号)

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