地域力発見

総合事業は短期集中サービスを軸に展開/宮下今日子(109)

総合事業は短期集中サービスを軸に展開/宮下今日子(109)

 山口県防府市の地域支援事業は、21年1月から総合事業に短期集中サービスを取り入れ、これまでのサービス体系を大きく見直した。

 相談窓口の在り方、個別訪問の実施、プランの立案、支援後の在り方までを、一連のプロセスとして位置付け、中でも注目されるのは、サービス終了後に、生活支援コーディネーターらと連携して本人のこれまでの趣味や活動を含めた支援に繋げ、「元の生活に戻る」ことを目標に設定している点。目標を「改善や予防や卒業」という言葉ではなく、山口県の方言の「幸せます状態」と表現する。暖かみを感じる施策でもある。

 こうした施策を専門職や市民が共有するには、会議体の形成が重要になる。また、地域に出るには資源と人がいる。それぞれに工夫のある同市の地域支援事業だが、まずは総合事業から紹介したい。

20年度までの総合事業

 同市は2017年度より総合事業をスタート。21年1月までは、現行相当の訪問・通所、基準緩和型の訪問・通所、住民主体(B型)、訪問C型(栄養士の短期集中支援)、訪問(D型。移動支援)、独自の訪問栄養、などのサービスで構成していた。

総合事業を変更した背景

 防府市の地域課題としては、「軽度の要介護認定者が非常に多い」「軽度の認定者の通所サービスの利用が非常に多い」「軽度の認定者が悪化する可能性が全国平均より高い」「お守り認定者が非常に多い」という点を挙げている。

 実際、認定の申請理由については、「病院で申請するように言われた」「地域の人に申請しといた方がよいと言われた」という理由で何となくする申請もあった。持っていれば安心という「お守り認定者」もいた。認定者には軽度者で通所の利用者が多く、悪化する傾向も見られた、と高齢福祉課の三輪徹郎氏は説明する。

 また、地域支援事業の給付費を見ると、全体で18年度の102億円が、25年には120億円に膨らむ。そのうち市税の負担は12.8億円から15億円に。介護保険料は5779円から7280円に上がってしまう。地域包括ケアの「見える化システム」を使って市は推計した。

短期集中予防型通所サービス

 こうした課題を抱え、18年には、先進事例の奈良県生駒市、大阪府寝屋川市、愛知県豊明市に視察に行き、セルフマネジメントに着目。そして短期集中サービスを事業の軸とした。19年にモデル事業を実施し、21年1月から実施した。実施に関しては、「専門職との規範的統合を図り、事業者と行政の合意形成を市は大切にしている」と三輪氏は話す。専門職への説明や地域ケア会議の機能を活用している。

 サービスの内容は、これまでの通所系事業所を利用して、週1回、2時間程度、全12回と1回の訪問サービスを提供する(送迎あり)。利用者負担はなく、地域支援事業費で全額負担。

短期集中サービスの流れ

 このサービスのカギを握るのは、まず相談窓口の在り方。相談受付から要介護認定の申請に繋げる人を除き、包括の職員が個別に相談に応じる。ここで、基本、通所利用希望者すべての人を短期集中サービスに繋げる(予防給付の対象者は、がん、難病、日常生活に支障がある認知症等で通所や訪問サービスが必要だと判断した者に限定)。つまり、要支援認定者と事業対象者は基本的に全員短期集中に移行するという斬新さだ。

 この点について市は、「要介護等の認定を申請する窓口から、困り事を聞き取る窓口に変えた」と説明する。実際〝お守り認定者〞の削減効果も大きかったそうだ。

 包括での相談後、包括のケアマネとリハ職(PTかOT)が全員の自宅を訪問してアセスメントし、短期集中サービスに繋げる。アセスメントで気を付けているのは、「元の生活を取り戻す」ための提案をする点。そのためには、通所時だけでなく、それ以外の生活全体を視野に計画を立てる。利用者も市が準備したセルフマネジメントシートを活用して、日々の生活やリハビリを記録する。「早く元の生活に戻りたい」「地域で活動したい」と願い、自らセルフマネジメントに励む。「短期集中サービスは、「リエイブルメント」を意識している」と三輪氏は指摘する。

 ここで言う元の生活や地域の活動は、例えば散歩やお出かけ、趣味なども含み、居場所やサロンだけを指さない。全12回の通所と1回の訪問サービスでは、後半にかけて元の生活をイメージして取り組む。元の生活をイメージし、そこに支援内容をフォーカスすることで、短期間でも効果が見込めるということか。

 実施した成果については(21年11月時点)、154人が短期集中サービスを利用し、サービス終了者82人(継続者除く)のうち、50人が改善し、元の生活に近い活動をしている。市では60.9%の改善率だと説明。高齢者の「幸せます状態」は広がっているようだ。

 次回は具体的な事例を挙げて紹介したい。
(シルバー産業新聞2022年2月20日号)

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