在宅栄養ケアのすすめ

地域栄養のレベルアップ/中村育子(連載63)

地域栄養のレベルアップ/中村育子(連載63)

 当院がある東京都足立区では、4月より「地域包括ケアシステム」のモデル事業が行われます。重点分野は認知症対策と、独居高齢者の居場所づくり(外出支援)です。各専門職がどう関わることができるかが注目です。ご存知の通り、地域包括ケアシステムは、住み慣れた地域で医療・介護・介護予防・生活支援・住まいを一体的に提供できる体制ですが、ここで食・栄養の視点が抜け落ちないことはとても大切です。

栄養士との接点を増やす

 地域の栄養問題へのアプローチは、在宅訪問を行う管理栄養士の充実だけではありません。訪問が必要な人は重度者が中心ですが、地域全体で栄養ケアのレベルを高めていくには、これに加え要支援者や一般高齢者、つまり65歳以上の高齢者全体の低栄養予防にどう広く関わっていくかが最大のポイントとなります。

早期介入の門戸を広げる

 例えば、元気な高齢者が「最近、食欲がなくなってきて、あまり食べられない」「体重が減ってきた」といった理由で病院に行くでしょうか?地域包括支援センターに相談するでしょうか?こうした人たちへ、(管理)栄養士が早期に介入すれば、低栄養やADL低下に歯止めをかけることができるでしょう。

 高齢者が抱える食・栄養の問題は、大きく分けると①栄養が偏っている②口腔内清潔・嚥下機能③生活習慣病などの疾病(要医療)④孤食――の4つです。

 ③は特に糖尿病性腎症など、栄養に起因する疾病重症化を予防することが最優先事項です。既に通院しているケースが多いので、まずはその医療機関の栄養指導外来をおすすめします。同外来を持っていない場合は、他の医療機関の紹介を受けることもできます。

 ①・②・④の場合は、まず栄養士が30分程度の栄養相談(アセスメント)を通じて、食事面のアドバイスを行います。②であれば必要に応じて歯科受診へ、また④に対しては食事イベントや交流サロン等へ、それぞれ必要に応じたサービスへつなぎます。ちなみに足立区は、地域住民が夕食を共にする「住区de団らん」があります。夕食は自宅からの持込み、またはその場で弁当を注文して食べることができます。

 ここで課題になるのは、栄養士と、普段医療・介護職と顔を合せる機会がない一般高齢者との接点をどう作るかです。

 一般介護予防での料理教室や、栄養に関する健康講話などは、その後の個別支援につなげる場として有効です。また、薬局・ドラッグストアには管理栄養士を雇用しているところも多く、近年「かかりつけ機能」の志向が強い薬局ほど、薬と栄養を一体的に捉えた相談・訪問機能など、管理栄養士の活用にも積極的です。

 もちろん、要支援者、事業対象者(チェックリスト該当者)には介護予防・日常生活支援総合事業での訪問栄養指導も利用できます。

栄養ケアの地域資源を組織化

 個々の事業者の取組みも必要ですが、自治体はこうした場をどれだけ提供できるか、そして高齢者側から栄養士を見つけやすい情報をどう発信するかが重要な役割となってきます。

 「医療・介護資源マップ」を作成している地域もよく見かけますが、こうしたデータベース上で「栄養相談」や「訪問栄養指導」の有無を見える化していくことも大切でしょう。

 また、一般高齢者も対象と考えれば、医療機関や介護事業者だけでなく、薬局や学校、保育園等に勤務する栄養士も地域資源として期待できます。現在は、残念ながら職場による縦割り感は否めませんが、栄養士どうしの横の連携も地域栄養には不可欠となっていくでしょう。

 中村育子(福岡クリニック)

(シルバー産業新聞2019年4月10日号)

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