インタビュー・座談会

《外国人人材》前編:特定技能で万事OK?

《外国人人材》前編:特定技能で万事OK?

 外国人労働者の受入れを拡大する出入国監理法(入管法)改正案が12月8日に成立した。同法に基づく新たな在留資格「特定技能」では、介護分野も5年間で最大6万人の受入れを見込む。しかし、制度の詳細はまだ示されておらず、実際にその規模の外国人介護人材が集まるのかは不透明だ。本紙では、技能実習制度、経済連携協定(EPA)、留学などの枠組みで、外国人介護人材の受入れに取り組んできた富家病院理事長・富家隆樹氏、ウェルグループ代表・井村征路氏、特別養護老人ホーム「ケアポート板橋」施設長・村上隆宏氏に、それぞれの制度における受入れの現状、今後の受入れのあり方について語っていただいた。

医療法人社団富家会理事長 富家隆樹氏

医療法人社団富家会理事長 富家隆樹氏

(ふけ・たかき)医師。1999 年富家病院院長、04 年医療法人社団富家会理事長に就任。そのほか、日本慢性期医療協会常任理事・事務局次長、埼玉県慢性期医療協会会長、全国デイ・ケア協会理事なども務める。

ウェルグループ代表 井村征路氏

ウェルグループ代表 井村征路氏

(いむら・せいじ)1998年ウェルグループ入社。その後、ウェルコンサル取締役、社会福祉法人嘉耶の会理事、特別養護老人ホーム梅花苑施設長、ウェルグループ海外事業統括などを経験し、17 年より現職。

特養「 ケアポート板橋 」施設長 村上隆宏氏

特養「 ケアポート板橋 」施設長 村上隆宏氏

(むらかみ・たかひろ)特別養護老人ホーム「ケアポート板橋」(社会福祉法人不二健育会)に入職後、介護職員、生活相談員などを経て、人事企画室長兼EPA 担当責任者に就任。2017年9月より現職。

 富家 富家です。外国人介護人材の関係では、厚生労働省の「技能実習制度への介護職種の追加に向けた準備会」委員として、「介護職種の技能実習生の受入れに関するガイドライン」の策定に携わりました。また、会長を務めている埼玉県慢性期医療協会では2018年7月に技能実習制度の監理団体を立ち上げ、実習生受入れに向けた準備を進めています。

 井村 ウェルグループの井村です。当グループは医療法人、社会福祉法人、特定非営利法人、株式会社などで構成され、医療・介護事業に取り組んでいます。本日のテーマに関わる部分では、技能実習制度の監理団体や日本語学校の運営を行っています。

 村上 村上です。当施設の特養「ケアポート板橋」では08年より、EPA介護福祉士候補者の受入れを始め、EPAの枠組みでインドネシア、フィリピンから10人をこれまで受入れてきました。17年に、施設長に就任する前は、同じ施設でEPAの担当責任者でした。

日本語能力要件の厚い壁

 富家 まず技能実習制度では、技能実習生の日本語要件が諸外国にとって高いハードルになっています。入国時に日本語能力試験N4レベル以上、実習2年目に進むためにはN3レベル以上が必要です。例えば、ベトナムではN3レベルに達しなければ帰国しなければならないことに政府が不満を抱え、これまでなかなか円滑に進んでこなかったようです。我々の監理団体も、ベトナムからの受入れを進めており、頻繁に現地へ足を運んでいるところです。年度内には第一号を日本へ迎え入れたいと考えています。

 井村 同じく我々も監理団体としてベトナムを中心に技能実習生の受入れを進めています。17年11月に介護分野が対象に追加されてすぐに、現地で面接や施設とのマッチングに取り組んできました。すでに130人ほどの受入れが決まっており、来日に向けてベトナムで日本語を学んでもらっています。しかし、残念ながら10人中2人程度は途中で脱落している状況です。富家先生が言われた通り、日本語の壁の厚さを私も実感しているところです。日本語能力試験になかなか合格できないことに加え、先ほど話が出たように、ベトナムからの受入れが進んでいないので、実習生も「本当に日本に行けるのだろうか」と不安を抱えています。そこへ介護以外の職種の送り出し機関や監理団体から誘われ、介護を諦めてしまうケースがしばしばあります。実習生からしてみても、介護以外の業種なら、難しい日本語をそれほど勉強しなくても日本に行けるので、そちらへ流れていってしまいます。

 こうした例が少なくなく、実習生が脱落する度に、監理団体は受入れ施設に説明し、再マッチングの調整などを図ります。そうした中で、ようやく実習計画の認定を受け、現在は在留資格の申請を進めています。当団体でも第一号の来日を、首を長くして待っている状況ですね。

 村上 EPAでは、インドネシアとフィリピンはN5程度以上と技能実習制度よりも、日本語能力のハードルが低くなっています。一方、ベトナムからの受入れは、入国時点からN3程度以上が必要です。当然ですが、N3レベルだとコミュニケーション能力が高く、介護福祉士試験の合格率もベトナムは93.7%(14年度入国者、以下同)。インドネシア43.5%、フィリピン40.2%と比べても飛びぬけて高い水準になっています。そうした背景もあってか、ベトナム人候補者が三カ国で最も人気を集めています。

 18年度のEPA介護福祉士候補者の受入れ数は、インドネシア298人、フィリピン282人、ベトナム193人。ベトナムはN3のハードルがやはりネックとなってか、他と比べると人数は少ないです。その少ないベトナム人候補者に対し、多くの施設がぜひうちに来てもらいたいとアプローチしている状況です。

 ベトナムが一番人気ですが、インドネシア、フィリピンも人気は右肩上がりです。以前までのEPAのマッチングでは、施設の受入れ希望人数に達しなかった場合、二次マッチングが設定されましたが、今年度はインドネシア、フィリピンともに一次マッチングしか実施されていません。始まった当初と比較すると、非常にEPA自体の人気が高まっており、希望人数を必ずしも受入れられないのが現状となっています。
 富家 EPAではベトナム人候補者が特に人気ということですが、我々の場合、インドネシアは韓国、モンゴルは中国といった具合に、すでに他の国がかなり受入れを進めている状況もあり、ベトナムに注目した経緯があります。

 井村 我々もベトナムが中心ですが、宗教や文化を第一に考えました。向こうは日本と同様、それほど宗教が偏っておらず、食文化なども含めて、日本に馴染みやすいと思います。また、当グループが運営する日本語学校の校長が20年以上、ベトナムで日本語教育に携っており、そうした縁を感じたのも理由の一つです。

 富家 ウェルグループの日本語学校では外国人を留学生として受入れているのですか?

 井村 はい。日本語学校を卒業した後は介護福祉士の養成校に進学し、介護福祉士取得後は在留資格を切替えて日本の介護業界で働いてもらう。そうしたイメージをもって始めましたが、こちらもなかなか難しいのが現状です。今年3月に卒業する留学生は、全員奨学金を支給していない私費留学生で50人以上いるのですが、介護福祉士の養成校など、介護の道へ進むのは5人くらいです。大半は異業種へ就職したり、介護とは別の分野の短大や専門学校へ進学したりします。

 もちろん強制はできませんが、やはり介護を志してもらいたいので、来日前にも日本の介護について説明もしますし、留学中のアルバイト先として、介護施設を紹介したりもしています。ただ半年も経つと、半数以上が介護を辞めて、他のアルバイト先に移っています。理由を尋ねると、コンビニの方が型通りのオペレーションなので、あまりストレスやプレッシャーが少なく働けるとの回答が返ってきました。あとは時給もやはり重要ですね。

 村上 なるほど。それはちょっと寂しいですね。

 井村 ええ。レクリエーションのやり方や認知症などを学ぶワークショップに参加してもらうなど、介護の魅力を知ってもらおうと試行錯誤を重ねていますが、簡単にはいきません。最近はアルバイトに来てもらうため、また介護福祉士資格取得後も働いてもらいたいと、介護施設が学費を負担するケースもあります。労働を強制はできませんし、介護福祉士に必ずなれる保証もありませんが、どの施設でもひっ迫した人出不足の中、なりふりを構っていられない状況を抱えています。

 富家 お金のやり取りが絡むと、今後は留学生と施設との間でトラブルが起こるかもしれませんね。

 井村 他にも、介護について現地で説明をするのですが、実際に現場をみると、「イメージと違った」と驚く留学生もいます。ある留学生は、介護を「マッサージのようなものだと思っていた」と話していました。

 富家 介護に対するイメージにギャップがあるということですか。アジア諸外国の高齢化が進んでいない、まだ若い国では、介護の概念がそもそもありません。説明を聞いても、イメージが持てないのは無理ないかもしれませんね。

「勉強ができない」と転籍するEPA候補者

 富家 母国での看護師・介護士の資格保有者や課程修了者を受入れるEPA候補者は、そうしたギャップはないですか?

 村上 そうですね。介護に対するギャップはそれほどないと思います。ただ、EPAの場合、マッチング後は基本的に、受入れ施設に任せきりです。だから、仕事ばかりさせて、本来の目的である介護福祉士の勉強は本人たちにお任せといったことも、施設次第でできてしまうのです。

 実際に、フィリピン人の候補者で「今いる施設では試験に合格できない」と大使館に相談に駆け込み、再マッチングという形で、ケアポート板橋に転籍をしてきたケースもあります。同様の再マッチングで、これまで合計3人が、他から我々の施設へ移ってきました。人手不足を補う目的ばかりが全面に出てしまうと、EPAの枠組みでも候補者が出ていってしまう事態を招いてしまいます。

 当施設では、EPA候補者を学習、生活、仕事それぞれの面から支えていくために、「EPAチーム」を編成しています。学習、生活、仕事の担当者をそれぞれ置いて、担当者同士で毎月EPAミーティングを開きます。例えば、生活面の担当者から「先週、風邪をひいてしまったようです」など、それぞれの情報を報告・共有して、候補者を包括的にサポートします。

 それから、候補者の出勤日のうち、週一日は丸々勉強の日として充てています。本人たちにも、「仕事と勉強の両方をしっかり頑張ってこそ、ケアポート板橋のスタッフだよ」と伝えることで、自覚を促しています。

(シルバー産業新聞2019年1月10日号)

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