インタビュー・座談会

《外国人人材》後編:来日前教育、 魅力発信が鍵に

《外国人人材》後編:来日前教育、 魅力発信が鍵に

 外国人労働者の受入れを拡大する改正出入国管理法(入管法)が昨年12月に成立した。今年4月から導入される新たな在留資格「特定技能」では介護分野も対象に含まれ、国は5年間で最大6万人の受入れを見込む。新在留資格が創設されれば受入れは進んでいくのか。前号に引き続き、富家会理事長・富家隆樹氏、ウェルグループ代表・井村征路氏、特別養護老人ホーム「ケアポート板橋」施設長・村上隆宏氏に、技能実習制度、留学、EPA(経済連携協定)などでの受け入れの現状、今後の受け入れのあり方について語っていただく。

前編のポイント

〇技能実習制度では日本語能力要件が高いハードルに。来日前に脱落し、よりハードルが低い日本以外の国や他業種へ希望を変える実習生もいる

〇留学生も自ら介護の道へ進む人は少数。そのため、学費などを事業者が負担するケースもある。介護のイメージが持てず、「マッサージのようなものだと思っていた」という外国人も。介護、また日本の介護の魅力を伝える工夫が必要

〇EPAでの介護福祉士候補者も年々人気は高まっており、受入れが難しくなってきている。中でも入国時から日本語能力N3レベルを要件とするベトナムは人気で、介護福祉士試験の合格率も非常に高い。一方で、「仕事ばかりで、試験勉強ができない」と別の施設へ移るケースもある。受け入れ側には業務、試験勉強、生活それぞれのサポート体制が求められる

在留中に結婚。介護福祉士合格も帰国し…

 井村 (受け入れたEPA候補者で)在留期間中に結婚される方もいますか?

 村上 はい。例えば、介護福祉士資格を受験する年に母国の男性と結婚された方がいました。介護福祉士になれば、家族の帯同が認められますので、それまで以上に熱心に勉強に励んで見事合格しました。ところが、ようやく日本で夫婦一緒に暮らせると思っていた矢先、旦那さんの方が来日したくないと言い出したそうです。訳を聞くと、日本に来ると旦那さんは留学生と同じく週28時間のアルバイトしかできないので、せっかく合格したのですが結局、その方は施設を辞めて一度は母国へ帰りました。

 しかし、その後もSNSで連絡は取り続けていました。しばらくたってから、「夫とも相談して、母国で産まれた子供に日本の教育を受けさせたい。また雇ってもらえませんか」と申し出があって、今はまたケアポート板橋で働いてもらっています。国家試験に合格していれば、再入国して特定活動の在留資格で就労できますので。

 別のケースでは、もともと既婚者の女性で介護福祉士に合格した後、家族を日本に呼び、一緒に暮らし始めました。しばらくして、二人目のお子さんができたのですが、本人が働けない間は旦那さんのアルバイトの収入だけになってしまい、生活ができないので母国に戻って出産された方もいます。

 井村 留学生でも若い人が多いのでお付き合いをされている方がもちろんいます。相手は同じ国の方だったり、日本人だったりとまちまちですが。技能実習生も受入れが進めば、同じようなケースが今後出てくるのでしょうね。ただ女性の場合、お子さんができたとなると、どうしても実習を続けるのは難しくなります。

声かけに関心。「日本の介護は素晴らしい」

 富家 当院でも日本人と結婚して日本国籍を取った女性介護職員が数名勤務しています。日本語は問題ないのですが、介護教育に難しさを感じています。

 井村 私も前回お話した通り、留学生に介護業界を志してもらう難しさに気づいてから、どうすればよいのかをあれこれ考えました。留学生なら、まだ進路やアルバイト先を本人の意思で変えることができますが、技能実習生は職種や職場を変えられません。来日して実際に現場についてから、「こんな仕事だとは思っていなかった」となれば、実習生も受け入れ側もお互い不幸になってしまいます。そうすると、実習生が帰国してしまったり、不法滞在などに走ったりしてしまうおそれもあります。

 富家 そう考えると、やはり来日前にそうしたギャップをある程度は埋めなければなりませんね。

 井村 ええ。来日前に「日本の介護がどのようなものなのか」を知ってもらう必要があります。ただ、そもそも介護という言葉すらない国の送り出し機関にそれを期待することは難しいでしょう。そこで、監理団体として、介護を教える日本人を派遣したり、遠隔授業の導入を行ったりして、日本の介護への理解を少しずつ深めてもらっています。

 その後、一人ひとりと面談すると、「声かけ」にとても関心を寄せる実習生がベトナムでは多かったです。「日本では介護を行う前に、必ず利用者に声をかけて同意を得ている。素晴らしい」と、我々にとってはごく当たり前のところにすごく感心していて、こうした部分に共鳴してくれるのかと気付かされました。

 富家 面白いですね。

 井村 そうであれば、日本の介護を理解してもらうためには、まずは利用者としっかり向き合うことを入り口にしようと。単に日本語能力を磨くということではなく、声かけもそうですし、様子をうかがいながら行動する。介護を教えるとなると、つい介護技術といった方へと向かいがちですが、まずは利用者一人ひとりと向き合って、呼吸を合わせることの大切さや奥深さに気付いてもらう。技術的な能力は後からいくらでも学べます。現地で使うテキストも初任者研修用を参考に作成し直して、「介護とはなにか」というところから学習がスタートします。

 また監理団体も周りを見渡すと、介護教育で悩みを抱えていることが多い。特に、これまで介護と接点がなかった団体は何をどう教えたらいいのか非常に困っています。そこで介護分野の監理団体で構成する連合会を立ち上げました。介護教育を始めとする、さまざまなノウハウを共有して、受入れ施設へスムーズに送り出すことが狙いです。

 富家 確かに、声かけにしても見守りにしても、介護の重要な要素ですが、それほど高い日本語能力は必要ないかもしれません。日本語がわからなくても、利用者の声にしっかりと耳を傾けていることで、傾聴として認知症の周辺症状を抑えられるかもしれない。冒頭で日本語能力が入国のネックになっているという話がありましたが、外国人の方を本気で迎え入れるのなら、我々自身が今一度、日本の介護を分解して、何が重要なポイントなのかを見極める必要があるのではないでしょうか。

 井村 現地の送り出し機関もハードルが高い日本より、スムーズに送り出せる韓国や台湾などの方へ傾いているようです。就労するまでにかかる費用も日本は諸外国と比べて高く、実習生にとってもやはり行きやすい国ではない。

 ただその一方で、台湾で外国人が食事介助をしている映像を観たのですが、介助されている台湾人の方が「この人に介助されるのは嫌」と訴えているのに、介助している側は言葉がわからないのでお構いなしに食べさせようとする。そうした光景を目にすると、言葉のハードルをどこに置くかは非常に悩ましい問題だと感じます。

「介護を学ぶなら日本で」 を世界の認識に

 村上 数ある国の中から、日本を選んでもらって、またさまざまな業種がある中で、介護の仕事を選んでもらわなければならない。でも、他国、さらには国内でも他業種と比べて、日本の介護は特にハードルが高いのが今の状況ですよね。そうした中では、単に金銭的なインセンティブや入国しやすいというだけでなく、日本の介護の魅力をもっと発信すべきだと思います。例えば、介護の力で車いすの方が歩けるようになったとか、胃ろうを外して食べられるようになったとか、そうした場面を目にすれば、きっと「日本の介護はすごい」と思ってもらえると思います。

 先日、就労前の技能実習生の研修を見学したのですが、製造関係の実習生が何十人もいる中で、介護はわずか数名でした。インドネシアの介護実習生と話すことができて、たどたどしくはありましたが、「インドネシアもこれから日本と同じように介護が必要になる。だから、日本の介護を学んで母国に持ち帰りたい」と目を輝かせながら話してくれました。我々が「日本の介護って素晴らしい、これからあなたたちの国でも必ず必要になる。だから、日本に学びに来ませんか」ともっと海外へ呼びかける必要があるのではないでしょうか。

 井村 本当にそう思います。東南アジアなどの賃金も今後上昇していくでしょうし、その中でいつまで日本に来たいと思ってもらえるかわかりません。国も、官民一体の国際・アジア健康構想協議会を立ち上げ、「日本式介護」の海外展開を打ち出していますが、早く日本の介護は国際的なスタンダードの位置を目指すべきです。「介護をするなら、日本で学ばなければ」という認識を世界に広げる。介護福祉士資格をとるために、介護を志す人が各国から集まるようなプラットフォームに日本がなれれば、単に人手が足りないという場所から一歩先へ進める気がします。

 富家 日本の介護の素晴らしさを発信するのはとても大切な発想ですね。実際に体験してもらうのが一番早いのでしょうが、どのように発信していくのかが今後の鍵となりそうです。海外との比較でいいますと、ハワイのナーシングホームを視察したことがありますが、日本の何倍もの費用がかかります。改めて、日本の医療、介護のコストパフォーマンスの高さを実感しましたし、世界と比べてもアドバンテージとして生かせる部分だと思います。

 私どもも、まさに技能実習制度での受け入れを進めていますが、今日のお話を聞くと、少し甘く見ていたかもしれません(笑)。ただ夢は持ち続けて、素晴らしい日本の介護をしっかりと伝えていきたいと思います。本日はありがとうございました。

 井村・村上 ありがとうございました。

(シルバー産業新聞2019年2月10日号)

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