シニア住まい塾

シニア住まい塾《89》 サ高住+小規模多機能の昨今

シニア住まい塾《89》 サ高住+小規模多機能の昨今

 一時は、小規模多機能型居宅介護事業所の階上にサービス付き高齢者向け住宅がついた住まいが、お年寄りには最も適しているのでは、と言われた時代がありました。

 当時は、サ高住というくくりがなくて、「小規模多機能+高専賃」として、あちこちで建設されました。これは主に今までの地域で暮らし続けたいという人たちに向けて建てられた所が多かったようです。年金で暮らすことをめざして階上の高専賃の居室設備は、洗面台とトイレ、収納場所のみでお風呂はなしという所が多く、キッチンがあるところは、共同で使うキッチンでした。
 運営法人側から見ると、食事は階下の小規模多機能のデイサービスで3食食べられるし、お風呂もデイサービスで入れる、要介護認定を受けている人はケアプラン内でヘルパーが洗濯も掃除もするので、居室は夜の就寝用と昼間一人になりたい時に使えればよし――という感じでした。
 賃貸住宅も自宅であるから、「自宅で最期までが可能」な住まい、という売り出し方をする業者さんもいました。それらの住まいに入居して、今も安心して暮らしているお年寄りは多くいます。
 しかし、元気な間はマンションのように諸設備の整ったところで暮らしたい、という希望者がだんだんと増えてきました。小規模多機能は、住民票のある地域住民の人しか利用できませんが、サ高住(高専賃がサ高住という呼称になった)は全国どこからでも入れるのです。入居者は住所をサ高住に移しておけば、いずれ要介護状態になった時には小規模多機能の諸々のサービスを使って生活できます。
 入居時に多額な入居金を払わなくて良い、終身型の有料老人ホームに入るよりもマンションで暮らすという満足感もある、クリニックを併設している所もある――などを基準に選ぶ人たちに向けて、最近では神奈川県にも高級なサ高住ができてきました。
ピアノが置かれたレストラン

ピアノが置かれたレストラン

 いくつかある中で、逗子市の隣の葉山町にできた「アンコール葉山」を訪ねました。
 葉山町で初めての小規模多機能が開設したのは2013年6月、その小規模多機能の上にサ高住を設けた住まいがアンコール葉山です。
 葉山は皇室の御用邸のある町で海に近いのですが、山にも近く坂の多い町でもあり、その坂の上にお年寄りが大勢住んでいる地域です。その方たちが数名、アンコール葉山に住居を移し、住み慣れた地域で便利な暮らし方をしています。
 アンコール葉山の代表取締役の相川かをりさんは、お父さんがこの土地でスカーフのプリント業を営んでいました。そのお父さんが亡くなった後、地域貢献になればと高齢者向けの住宅を考え始め、中学校の音楽教師を辞めて、高齢者施設運営を目指しました。
 職業技術校へヘルパー1級の勉強に行き、その後6年間訪問介護事業所で働きながら介護福祉士やケアマネジャーの資格を取得し、特養で音楽療法も経験した、介護の現場に精通した方です。
 いろいろな思いを込めた「アンコール葉山」の特徴は以下のようなものです。
 ▽階下に小規模多機能を併設して、要介護になったら小規模多機能の介護サービスを受けられる▽居室を広くして(28.42㎡~45㎡)、家族が自由に泊まれる▽24畳の和室、ピアノのある防音音楽室(マージャン室兼用)も設け、共用空間は広い▽併設のレストラン、週に1度の歌の会、コンサートも地域に開放している▽津波に備えての一時避難所を屋上に設置(2,000人収容)。住民の避難場所がこの施設より15分先にあるが、そこまで階段が200段あるので、近隣の人たちに大変喜ばれている▽サ高住に看護師が入居していて、緊急時には対応してくれる▽隣接の畑で採れた無農薬野菜を、季節毎に食材として提供している▽逗子駅からバスで5分、歩いても20分の距離で平らな道。
 葉山町は、高齢化率が29%で神奈川県では上から6番目、けれど医療費は下から3番目で、元気なお年寄りが多いのです。気候や風土の応援もあり、明るく穏やかな町です。
 葉山住民のA夫妻は、アンコール葉山でベストな暮らしをしています。ご主人が要介護5、奥さまが要支援1になり、入居しました。朝食は小規模多機能で夫婦で食べて、奥様は葉山の自宅に戻り夕食までプライベートな時間を過ごします。ご主人は、日中は小規模多機能でくつろぎ、夕食時に戻られた奥様はご主人と小規模多機能で夕食をし、夕食後はアンコール葉山の自室で夫妻の時間を翌朝まですごす毎日です。
 ご夫婦で入居されている84歳のご主人は、入居以前に軽度の脳梗塞を患いましたが、逗子駅まで徒歩で行き、都内まで毎日出勤し、入居者に活力をもたらしています。
 歩行器使用の半身麻痺の方は、小規模多機能のスタッフが朝・昼・夕食・おやつ・歌の会・イベント・入浴時にお部屋までお迎えに行き、また部屋に戻りたい時には小規模多機能のスタッフが付き添っていきます。ご本人は毎夕、自室でワインとチーズを嗜んで、自分らしいゆったりとした時間も過ごされています。
 居室内の設備は、お風呂(乾燥、手すり付き)、洗面台、収納、キッチン(IH2台)、洗濯機置場、エアコン、下駄箱、緊急ボタン(夜間は敷地内に住む代表者に通じる、また小規模多機能施設に宿泊者がいる時には職員がいる)。居室の向きは南東向きと北西向き。練功(中国三大体操)・フラワーアレンジメント・書道・生け花・手話などの教室もあり。
入居金0円、礼金0円、敷金は家賃の2カ月分。
 家賃11~17万円、サービス費4万3,200円、共益費2万円。
 月費用は17万3,200円~23万3,200円(居室の広さによる)。食費は別途(朝497円、昼664円、夜778円)。サービス費に含まれない有料サービスは30分で1,080円(居室の掃除、通院介助、居室内での調理など)。消費税込みの価格です。
 アンコール葉山=神奈川県三浦郡葉山町長柄264、☎046・875・5917

シルバー産業新聞 2014年10月10日号

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