I C Fからの福祉用具アプローチ

移動用リフト編/加島守(連載4)

移動用リフト編/加島守(連載4)

 福祉用具に関わる専門職には、環境が変われば参加や活動を促し、そして福祉用具の活用で生活が変わる可能性をしっかりと利用者・家族へ示し、提案することが求められています。本連載では「ICF(国際生活機能分類)」の考え方をモデルに、活動・参加、生活を変える福祉用具支援を解説します。今回は移動用リフトの導入事例について、ICFの考え方から読み解いてみましょう。

リフト導入で家族と食事ができるように

 自宅で夫、長女と暮らすCさん(65歳女性)は一年前に脳出血で倒れて以来、左片まひを抱えています。上下肢ともに完全まひで、起き上がりや移乗など日常生活全般に介助が必要です。移動は介助型車いすを使用していますが、日中もベッドで過ごすことが多く、外出するのはまれです。食事もリビングではなく、ベッド上でとることがほとんどですが、右上肢は動かせるので、自助具を使って自分で食事ができます。

 趣味は映画鑑賞のCさん。ベッド上でDVDを鑑賞するのが日課ですが、脳出血で倒れるまでは、外出好きでウィンドウショッピングにもよく出かけていたようです。

 Cさんにしたいことを尋ねると、「家族と一緒にリビングで食事したい」とのことでしたので、当面の目標に設定し、ベッド固定型リフトの導入を決めました。

 導入後は夫や長女がリフト操作し、車いすに移乗。リビングで家族皆と食事ができるようになりました。また移乗の介助負担がリフトで軽減されたことにより、食事に限らず、Cさんの離床の頻度は増え、日中はベッドから離れた生活を過ごせるようになりました。

 訪ねてきた友人を寝室ではなく、リビングで迎えることもでき、Cさんの気持ちもだんだんと前向きになってきました。「買い物に出かけたい」と口にされるようになり、新たな目標に向け、車いすに補助装置を付けて簡易型電動車いすにし、また座位時間を長くするために耐圧分散性に優れたエアクッションを導入することを決めました。

 初めは近所の散歩からスタートし、自信をつけた後、ついにデパートへ買い物に行くことができました。外出の機会が増えてから、友人との会話も明るい話題が多くなったようだと、ご家族も喜んでいます。

 ベッド上で過ごすことが多かったCさんがリフト導入により、まずはリビングへ、そして意欲の高まりとともに自宅の外へと生活範囲を広げた事例です。

 当初、Cさんは「買い物に行きたい」とは口に出しませんでしたが、家族と食事ができるようになった成功体験で、それまで隠れていた個人因子を引き出すことができました。福祉用具の導入などで生活が変化した時は、新たな活動や参加へと繋げるチャンスでもあります。ICFの体系的な視点で状況を整理し、新たな支援に繋げていきましょう。
 加島 守(高齢者生活福祉研究所・所長/理学療法士)

(シルバー産業新聞2019年9月10日号) 

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