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機能維持・回復目指すケアを法人全体で(特養「寿ノ家」)

機能維持・回復目指すケアを法人全体で(特養「寿ノ家」)

 山梨県のほぼ中央部に位置する笛吹市。ここで今年開設35周年を迎える特別養護老人ホーム寿ノ家は、甲州リハビリテーション病院を核とする、甲州リハビリテーショングループの基幹施設のひとつだ。

 同グループは、医療法人銀門会、社会福祉法人寿ノ家(戸島義人理事長)、株式会社サンライフ寿、株式会社ケー・アール・ジーなどからなる一大組織で、地域の医療・介護ニーズへ、医療、施設介護、在宅介護サービスなどを擁して総合的に対応している。

 甲州リハビリテーション病院は、同グループの島津寿秀代表が県内で初めてのリハビリ専門病院として65年に開設。以降、77年に特養寿ノ家、80年に有料老人ホーム、88年に老人保健施設を開設するなど、早くから高齢者医療・介護サービスを地域で提供してきた。

 北欧の福祉事情を視察し感銘を受けた島津代表の指揮のもと、「心をこめ、保健・医療・福祉で、地域に貢献」というモットーを掲げ、回復期リハビリから老健、特養、グループホーム、有料老人ホーム、訪問/通所リハ、訪問看護、デイサービス、福祉用具貸与など、在宅復帰を目指すリハビリから、在宅生活継続を支援するサービスまで、高齢者が地域でいつまでも暮らし続けられるための様々なメニューを、ワンストップで提供している。今年4月には、市内に地域密着型特養も開設し、地域に根ざしたサービスの充実を図っている。

 特別養護老人ホーム寿ノ家では、「その人らしい生活」の実現を目指す同グループの理念に基づき、高齢者の生活機能維持・回復に向けた排泄ケアの向上に取り組んでいる。今回は、地域の高齢者を総合的にサポートする同グループの取り組みと、その実践ケースの一つとして特養寿ノ家の排泄ケアへの取り組みを紹介する。

グループ概要

 甲州リハビリテーショングループ、㈱ケー・アール・ジーの小山明夫社長は「当グループはそれぞれの総力を結集し、医療から在宅介護まで、ご高齢者の生活機能の維持・回復を図り、最期まで住み慣れた地域で、その方らしく幸せに暮らして頂くことを目指しています」とその理念を話す。

 同グループでは、脳血管疾患や骨折などで急性期を過ぎた高齢者を病院の回復期病棟で受け入れ、在宅復帰への足がかりをつくる。それから、高齢者個々の状態や事情を勘案し、必要に合わせて、老健でのさらなる療養、特養での生活ケア提供、居住系サービス、訪問・通所サービスによる在宅介護支援など、様々なメニューにより、高齢者が地域で住み続けることをサポートする。

排泄ケアから生活ケアを向上 

ケー・アール・ジー 小山明夫社長

ケー・アール・ジー 小山明夫社長

 認知症高齢者が増加する中で、在宅介護では十分に対応しきれないケースも少なくない現状で、特養ホームの果たす役割はグループ内でも大きくなってきている。生活の場である特養では、同グループの理念である「いかにその人らしい生活を実現・継続できるか」が、サービスの質の指標となるためだ。

 そこで同グループでは、利用者への日々の生活ケアをより向上させることの重要性を鑑み、そのケアの基盤をなす排泄ケアの質を高めることで、機能維持を図ると同時により快適な生活支援を提供しようと、紙おむつメーカーのユニ・チャームとタッグを組んで、排泄ケアの質向上に取り組んでいる。

 「排泄ケアについては、利用者の心身状況に合わせたケアの実施に向けて、ユニ・チャームのケア・アドバイザーより得た情報に基づいてケアの改善、コスト削減に努めています」と小山社長。「職員に対し定期的な研修会を実施してもらい、排泄ケアや紙おむつの基礎知識や基本技術の習得を図ると同時に、新人職員への研修や定期勉強会を通じて、レベルアップを図っています」と、職員教育へも力点を置けていることを評価する。

 日頃の排泄ケアの振り返りでは、「毎月のおむつの使用数量のレポートを提示してもらい、その月の業務内容を見直しています。アドバイザーからは、他の施設での取り組み事例などの情報も得られ、施設側からも課題解決への相談をするなど、双方向での情報交換でケア改善へ取り組めています」と話す。

 グループ全体で、利用者の尊厳を守り、快適性を重視した排泄ケアを提供すべく、特養のほか病院や老健などでも、同社のおむつを活用して、ケアの質の標準化を図るほか、在宅復帰した利用者の家族に対しても、在宅介護部門から排泄ケアについて必要な情報提供も行なっている。

特養「寿ノ家」での排泄ケア

 寿ノ家は入所定員84名、本館(31床)、新館(33床)、全室個室のユニット棟(10室×2ユニット)からなる混合型の特養ホーム。利用者の平均要介護度は3・9、平均年齢は85・6歳となっている。

 「35年に渡る施設の歴史の中で、排泄ケアでは以前は布おむつがメインでしたから、それを考えると、紙おむつが中心の今では隔世の感があります」と介護長の芦原法子さん。「介護保険が始まって、布おむつから紙おむつへ切り替える際に、いくつかのメーカーの紙おむつを検討し、導入しました。そして結果的に、現場に立つ介護職員が、おむつの品質とアドバイザーさんによるサポート体制を評価したことで、ユニ・チャームの製品を採用しました」と話す。

 「ご利用者様の身体状況は個々で違いますから、日々職員はケアの課題にぶつかります。そんな中、定期的にアドバイザーさんが相談に応じてくれて、適切なアドバイスを頂けるのは助かります」「拘縮があってうまくおむつがあてられず、尿モレがある場合など、一緒に現場に入って指導して頂けるので、職員もすぐに実践できてケアの改善・向上につながっています」と評価する。職員のケアの技術を高めることが、利用者にとっての快適なケアにつながると、芦原さんは言う。

 「毎月のおむつの発注数量の報告も頂けて、それを見るとご利用者様の状態の変化が読み取れます。本館、新館、ユニット棟それぞれで、どのアイテムをどれだけ使ったかを、現場に伝達しケアの振り返りをするようにしています」。データから前の月に比べ、排泄介助が必要な人が実際に増えたのか、それともアイテムの選定に実際の身体状況とズレがあるのかなど、利用者一人ひとりの心身状況を勘案しながら排泄ケアを逐次見直している。  さまざまな種類がある尿取りパッドやアウターのおむつから、どの組み合わせが最もその利用者に適切なのか検討するため、尿量測定を行い、一日の中での排泄のリズムと量から分析しておむつを選定し、残存機能を損なわない最小限のおむつ使用を図っている。臀部の肌の状態に異常が見られた時は、気付いた職員がすぐに報告し、より通気性のよいアイテムに変更するなどの対応も行う。
介護長 芦原法子さん

介護長 芦原法子さん

チームの一員として

 排泄ケアは、利用者の生活に最も長く寄り添う介護職員が中心ではあるが、生活リハビリによる機能維持・回復の視点から、甲州リハビリテーション病院から派遣される特養専任の理学療法士とも連携して、排泄という生活行為の自立へ向けた取り組みに力を入れる。まずしっかりと座位をとれるかどうか、そしてトイレ誘導・介助を試みて、排便しやすい姿勢をとれるか、ひいてはそれが習慣となってトイレでの排泄を再獲得できるかどうか、協働して可能性を探っている。「おむつを使っている方でも、タイミングを見計らって、ご本人に過度の負担がかからない限り、トイレに座ってもらえれば排泄がある、という場合にはマンパワーをかけてでもトイレ誘導を行なっています」。

 「生活をみる介護職員、身体機能をみるセラピストなどの多職種に、排泄ケアの専門家であるケア・アドバイザーさんもチームの一員に加わり、皆でご利用者様の生活をみていくという形の排泄ケアが、ご利用者様の機能維持・回復にとって重要だと思います」と芦原さんは話す。そのような取り組みにより、利用者の重度化が進む中でも、全体の約3分の1にトイレ誘導を実施し、布パンツに尿取りパッドを併用する人なども増えてきている。

車いすも個別に選定

 寿ノ家を担当するセラピストは、排泄以外にも、食事の際の姿勢や適切な入浴介助方法など、様々な場面で介護職員へアドバイスを送っていて、リハビリに高い専門性を有する同グループの横のつながりが活きている。

 また適切な姿勢保持により生活機能・意欲の向上へつなげるため、多くの利用者が日中の長い時間使用する車いすも、セラピストが一人ひとりの身体状況に合わせて選定する。取材時はちょうど昼食の時間帯で、食堂付近には標準タイプからティルト/リクライニング機能付きの車いすまで様々な機種がずらりと並んでいた。これらの車いすは、福祉用具貸与も提供するケー・アール・ジーが施設へ貸し出す形で提供している。「おむつと全く同じ考え方で、車いすもお一人おひとりの身体に合ったものを提供していて、寿ノ家でも非常に多くの種類の車いすが使われています。当社でグループ内の病院・施設専用の在庫を揃えていて、甲州リハビリ病院の回復期病棟から隣接の老健や寿ノ家に移っても、引き続き身体に合った車いすを使って頂けるようになっています」とケー・アール・ジー福祉事業課の松土一郎課長は話す。
セラピストが利用者個々に選定した車いす

セラピストが利用者個々に選定した車いす

利用者の生活に寄り添うために 

 おむつの定時交換は原則4~6回設定してあるが、利用者によっては排泄パターンに合わせて時間をずらして個別対応している。排泄ケアをはじめ、生活ケア全般についてより個別対応を図れるよう、利用者一人ひとりの一日の生活の流れなどを詳細に把握し、職員の関わり方や動き方の指針とするアセスメントシートを開発するため、現在グループ内に多職種によるワーキングチームを設け検討を行っている。「将来的には、グループ内の在宅部門などともアセスメントシートを共有して、在宅の場面から活用し切れ目のない支援ができることも視野に入れています」と芦原さんは話す。

地域へ貢献・情報発信

 今後、取り組んでいきたいテーマとして、グループで取り組んでいる地域貢献を挙げた。地域のイベントに出展し、介護職員や相談員が在宅介護についての相談に応じたり、施設で開かれる催しに近隣住民を招いたりしている。「こちらから地域へ出向いて、当グループや当施設についてご紹介し、介護について困りごとがあれば社会資源として存分に活用してもらおうと、情報発信に力を入れています」と芦原さんは話す。また、今年度からは寿ノ家に介護職員からボランティア・コーディネーターを1名専任で配置して、地域からのボランティアをスムーズに受け入れられる体制を整えている。

 グループの有する高い専門性を活かし、地域の介護ニーズにより応えるべく、寿ノ家の職員はこれからも日々のケアに真摯に取り組んでいく。


(シルバー産業新聞2012年10月10日号)

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