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高齢化率52%の町で見守り機器導入 働きやすい職場づくりで人材確保めざす

高齢化率52%の町で見守り機器導入 働きやすい職場づくりで人材確保めざす

 高齢化率52.0%。広島県内で最も高齢化率が高い安芸太田町。高齢者施設の一番の困りごとは職員の高齢化と新規職員の採用。そこで働きやすい職場の環境づくりをめざしてICT導入を検討、Wi-Fi環境を整備し全床での見守り機器導入を行った。特養「寿光園」(齋藤正守施設長)の全99床に見守り機器が整備されて約1年、導入効果が広がっている。(写真左から、伊賀課長、藤川副施設長、神田部長、エコールの佐々木薫朗氏)

安芸太田町が見守り機器導入を支援した理由

 安芸太田町の在宅介護サービスがなくなる危機にある。広島県23市町で人口がもっとも少ない町(人口5816人)。働き手、人口ともに減少するなかで後期高齢者が増えている。豪雪地帯のため元々施設指向が強い地域で、人口減少によってさらに家庭の介護力が低下。在宅介護基盤も乏しく、小規模多機能型居宅介護やグループホームなどの中間施設が少ない。施設入所ができず、地域を離れる人も出てきた。

 特に深刻なのは訪問介護。第8期介護保険事業計画において、町は寿光園(芸北福祉会)に訪問介護を始めてもらった。別法人(社協)による既存の訪問介護事業所とともに、小規模多機能などと合わせて、地域の在宅介護基盤の再構築を何とか図る計画だったが、ヘルパーの確保が困難だった既存の訪問介護事業所は、寿光園の訪問介護参入に安心して撤退してしまった。いま、町内のヘルパーは寿光園の4人のみという状況。実際、食事の提供時間も、ヘルパーの勤務状況次第になっている。

 今回のICT導入は、寿光園の意気込みと町の期待がマッチングした究極の選択だったと言える。

 「導入額(2700万円)の大きさに当初は驚きましたが、デモ機の状況も見ていたことや、高齢化の現状を踏まえるとICTなどの活用は必須だと考えました。財政部門とも調整しながら、町の一般財源から助成することを決めたのです」。同町の伊賀真一健康福祉課長はICT活用の背景をそのように説明し、住み慣れた場所で少しでも安心して過ごせる町にしたいと語る。

寿光園藤川真副施設長に聞く 見守り機器導入までの経緯

 ニーズはあってもそれに応える職員数がないと介護は成り立たない。ユニット型を導入して10年が経ち、利用者、職員の状況が目に見えた変化はしていないのに、働き手の高齢化などにより、職員間に業務の負担感が高まっている。特に夜勤の負担感が大きい。

 2年前から外国人労働者の受け入れを開始した。現在、技能実習生9人、特定技能1人の計10人が働いている。3年間で任期満了する現状で、ICT導入で業務効率化しつつ、技能実習生らに一部を助けてもらおうという絵を描いている。

 寿光園では、ICTをつかって人を減らせる業務は何かを考えた。食事、入浴、排泄のどれをとっても、機械任せにはできず、大幅な業務の省力化は難しいという結論になった。検討をすすめる中で、職員の歩く労力を減らすという目標にたどり着いた。

 廊下の距離は25m。行って戻ってくると最大50mになる。これまでのセンサーマットや置き型のセンサーでは、利用者の転倒のおそれがあり、鳴れば行かなければならない、これにかかる時間を短縮できないか。ICT対応の見守り機器の導入で解決できるかも知れない。機種にはそれぞれ一長一短があったが、利用実績やデモ対応の手厚さから、パラマウントベッドの「眠りスキャン」に決定。仮設でWi-Fi環境を整えて、2019年1月に1カ月のデモが実施された。

 デモ終了後、フロアの職員9人に聞き取り調査したところ、9人全員が「あったらよい」という意見で、省力化などへの効果が期待できる結果になった。議論を重ねる中で、働きやすい環境をつくって職員に長く働いてもらうためにも、見守り機器を積極的に導入する意義があるという意見にまとまった。そして、施設全体の環境を整備するため、全床の99床で見守り機器を入れることが決まり、カメラ搭載のタイプも出たことなどから、Wi-Fi設備の費用も含め、導入額は2700万円まで必要になった。

見守り機器導入の効果

 眠りスキャンの良さは居室での利用者像(睡眠、覚醒、起き上がり、離床)がPCやスマホから常時モニタリングできること。設定した状態像や心拍数・呼吸数になると知らせが届く。訪室タイミングが分かり、睡眠を妨げず、目覚めている時にケアを提供できる。

 「24時間の記録が取れるので、ドクターへの報告や事故時などの家族への連絡も正確にできるようになりました」と藤川真副施設長。訪室などの記録からケアの状況が確認できる点も見守り機器導入の効果と話す。また、看取り期になると、バイタルの波形から嘱託医への連絡や家族を呼ぶタイミングが分かるのも大きいと言う。

 「眠りスキャンeye」というカメラ機能も同時に導入したことで、いつ、どのような状況で転倒したのかを確認することもでき、ご家族への説明や、転倒による怪我などの確認なども「かもしれない」から「こうです」になり、職員の精神的負担軽減につながっている。

 21年度から始まったLIFEでは、「科学的介護推進体制加算」を取得している。

 その他に寿光園は、記録システムの「ほのぼの」、インカム、ベッドセンサーなどのICT機器を導入している。

寿光園の取組みや検討 週休3日制の提起や高速代の施設負担検討

 ①一つの拠点で他のグループ施設の分まで食事をつくり配送する試み。②洗濯の専任者を置くなど周辺業務負担を軽減する(実施済み。周辺業務として、掃除、洗濯、備品補充の専門職員を配置している)。③ユニット型で毎日8時間勤務の人を10時間勤務にして、週休3日制にする提案。④広島市内からの高速代を施設が負担する提案――など、過疎地での介護や人員確保案を検討している。

日本基準寝具エコール事業部 神田久司営業部長に聞く

最先端のテクノロジー導入県内全域へ 職場環境整備や介護のイメージ改善に

 寿光園に見守り機器を導入した。今回、町の財政支援もあり、全床で導入。今後、市内でも人員確保はさらに難しくなる予測で、ぜひ寿光園での取り組みを県内の施設や事業所に広く広め、介護ロボットなどを用いた人材不足解消のお役に立ちたいと考えている。

 その他、施設内での車いすやリフトなどの福祉用具の活用を進めるが、施設サービスには在宅介護の福祉用具貸与などの仕組みがなく、施設か利用者本人の負担になるという課題がある。

 移乗機器が必要な人がいても、施設ではレンタルできず、購入は高額すぎて施設も家族も買えない。自費レンタル月5万円も家族もそこまで出せない。最近は施設から中古品はないかという問合せが増えている。

 もう一つの課題は、見守り機器を在宅介護で使えないか。当社の定期巡回サービスでは、在宅医の家族への説明や看護師や介護職の訪問頻度を適正化するために、見守り機器のデータを活用したいというニーズがある。
(シルバー産業新聞2022年8月10日号)

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