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2040年介護保険の状況 期待される事業者の役割

2040年介護保険の状況 期待される事業者の役割

 7月26日の介護保険部会で、「2040年介護保険の状況」がテーマに掲げられた。国としては財源と人材の枯渇を、健康寿命の延伸、外国人を含めた介護人材の確保、介護の生産性向上で対処したい考えだ。

就業者数の推移

 2042年、日本の高齢者数はピークの3935万人(高齢化率36.1%)になるという国の予測。現状の3459万人(高齢化率27.3%、16年10月1日時点)から、さらに476万人増えることになる。日本は、高齢者に対する社会的コストが、1人1万円かかる施策があれば、それだけで3500億円の財源が必要になる時代を迎えている。

 支え手の確保が一段と厳しくなる時代でもある。18年時点での医療・介護・福祉分野の従事者数は823万人。現状ですでに日本の全就労者6580万人の12.5%を占めている。働き場所の少ない地域では、社会保障が地域経済を支える役割を果たす。40年になると、医介分野の就労者は、1060万人と増える一方で、全就労者は5650万人に減少し、割合は19%に増加する。40年、就労者の5人に1人が医介市場の支え手となる計算だが、そうした社会は可能だろうか。

 生産年齢人口の推移をみると、介護保険がスタートした2000年時点で8638万人だった生産年齢人口は、40年経って2600万人減少する。まさに社会保障の財源確保と給付のあり方の見直し、自立支援の推進など待ったなしの状況にある。人口減少の中で日本全体が人手不足をきたす今後、医療や介護で人材を独り占めすることも難しい。今後一層高まる介護需要に対して、人口減少の中で適切なコストで介護人材を確保するには、どうするか。

2040年見据えた社会保障改革の課題

 4月12日政府の経済財政諮問会議で、加藤勝信厚労大臣は「現役人口が急速に減少する一方で高齢者数がピークを迎える40年頃を見据えて、社会保障改革を進めていく必要がある」と述べた。

 消費税率引上げ(8% →10%、2019年10月)の実施は、改革工程表に沿った給付の重点化・効率化を進める一方で、医療・介護・年金・子育ての充実など、増収分を活用した社会保障の充実に欠かせないものと力説された。

 この時期、40年問題を掲げたのは、消費税率引上げの世論の理解を得ようとする狙いがあるのだろう。食料品の軽減税率導入を早々と決めるなど、政府内部からの腰砕けにも留意が見られる。安定財源の確保が必要だからだ。

 17年12月8日に閣議決定した政府の「新しい経済政策パッケージ」は、消費増税の使い途として、幼児教育や私立高校の無償化とならんで、介護人材の処遇改善が掲げられた。

 「最大の課題は介護人材の確保である。これまで月額4万7000円の改善を実現した。経験・技能のある職員に重点化を図りながら介護職員の更なる処遇改善を進める」とした。柔軟な運用を認めることを前提に、「介護サービス事業所における勤続年数10年以上の介護福祉士について月額平均8万円相当の処遇改善を行うことを算定根拠に、公費1000億円程度を投じて、処遇改善を行う」と決定した。

 初任給は一般同様であってもその後の給与アップが低く、一般産業に比べて月10万円程度賃金が低いとされる介護業界。国は技能・経験のある介護福祉士の給与水準を一段引き上げることで、「8万円アップ」のアピールは介護=低賃金のイメージを払拭し、新規人材を呼び込みたいねらいがある。

 濱谷浩樹前老健局長は、消費増税分を財源とする介護職員の処遇改善について、「8万円アップ」は算定の根拠であることや、支給対象は介護職に限定せず柔軟な運用も視野に入れること、具体的な検討は今秋の介護給付費分科会で始める、と本紙インタビューで答えている。

 合わせてテーマに上がるのは、介護の生産性向上。先月の本欄で「厚労省 生産性向上ガイドライン策定へ TOYOTAカイゼン 介護でも」を取り上げた。介護保険各サービスの業務プロセスの実態を、タイムスタディ調査で把握し、「ムリ・ムダ・ムラ」をなくして、業務効率アップのためのノウハウを集約する。文書の削減など業務のスリム化を検討するとともに、ICT化や介護ロボット導入、用具活用で介護のイノベーションも図ろうとしている。排泄や移動・移乗などの介護業務を、施設などで、いわばトータルで10人かかっていた仕事を9人でサービスの質を維持して実行するねらいだ。10月にもガイドラインの試行版を公開し、19年3月に公表する予定。

平均寿命と健康寿命の差

 18年介護報酬改定が「自立支援・重度化防止」に大きく舵を切ったのも、健康寿命の延伸が掲げられたのも40年問題への対処といえる。

 健康寿命は女性74.79歳、男性72.14歳。それぞれ平均寿命(女87.05歳、男80.79歳)との間に、女12.26歳、男8.65歳の開きがある。国は医療や介護のニーズが高まるこの期間を短くするため、子どもの時から「育成(健やかな親子施策)」、壮年時代も「疾病予防・重症化予防」、高齢化して「介護予防・フレイル予防」を進める。

 「高齢者など多様な就労・社会参加を促進し、社会全体の活力を維持していく基盤として、2040年までに3年以上健康寿命を延伸することを目指す」と掲げる。
健康寿命は平均寿命との間に、女12.26歳、男8.65歳の開きがある

健康寿命は平均寿命との間に、女12.26歳、男8.65歳の開きがある

 要介護者になる人をできるだけ減らすために介護予防を推進する。水際作戦を行って元気を取り戻す援助が効果を発揮する。「介護予防・日常生活支援総合事業」において、制度利用から住民主体の健康づくりへ切り替える仕組みを、まちづくり(地域社会の再構築)として展開しようとしているからだ。

 生活基盤である地域社会が人口減少と共に衰退していく中で、地域の高齢者は自ら支え合う途を地域ごとに築いていかなければならない。人口減少地域では、地域のシステムを構築するだけでは自己増殖ができないため、外から継続的な支援を維持しながら、自助・互助の地域づくりが求められるからだ。この現状で、地域高齢者の現状を知りサービスをもつ介護保険事業者の役割は一層大きくなると見られている。

 日本は自国民で高齢者介護を担ってきた。外国人介護職の活用は、インドネシア・フィリピン・ベトナムの3国とのEPA(経済連携協定)による介護・看護職の確保に始まった。昨年からは、外国人技能実習生制度を見直して、日本での滞在期間を最長5年に延ばし、これまで認めていなかった介護分野もOKになった。6月には宮崎の介護施設で働くために、中国人2人が技能実習の枠で入国している。日本語の壁と導入コストが外国人介護職の活用の課題だ。

 介護分野に留まらず、政府は外国人労働者の受入れ拡大をめざして、技能実習制度の活用だけでなく、新たな在留資格の創設をめざしている。

 海外の高齢者介護は、北欧を除くとどの国も外国人の担い手が活躍する。2040年、日本の介護保険市場に外国人介護職がどこまで浸透しているか。なし崩し的な推進ではなく、国民的議論が必要なタイミングにある。

(シルバー産業新聞2018年8月10日号)

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