連載《プリズム》

プリズム(2026月7月10日号) 安全の対価

 埼玉県川口市で、訪問中のケアマネジャーが利用者家族に命を奪われる事件が起きた。詳しい経緯や動機は警察による捜査・解明を待つ必要があるが、考えなければならないのは、介護保険制度が働く人を守る仕組みを十分に備えているのか、という問いだ。

 ケアマネジャーは日々、利用者宅を訪問し、本人の状態、家族関係、介護負担、生活困窮、認知症、サービスへの不満など、複雑な課題と向き合っている。在宅介護は、専門職の訪問によるアセスメントやモニタリングを前提に成り立っている。にもかかわらず、訪問時の安全確保は事業所や担当者の判断に委ねられてきた面が大きい。危険の兆候があっても、複数人訪問に必要な人員や費用、保険者や警察へつなぐ基準、サービス提供を中止・拒否する判断の根拠は、十分に制度化されているとは言いがたい。

 日本介護支援専門員協会の調べでは、居宅介護支援事業所に勤務するケアマネジャーのおよそ3人に1人が、過去1年間にカスタマーハラスメントを受けたと回答している。暴言や威圧、過度な要求、一方的な思い込みにさらされても、支援の名の下で現場が抱え込んできた実態がある。

 事件後、厚労省は在宅介護従事者の安全確保を求める通知を発出し、複数人訪問への経費補助も示している。具体策を早急に示したことは評価できる。一方で、それは現場が使える仕組みになっているのか。制度はあっても、使えなければ命を守る手段にはならない。安全にはコストがかかる。そのコストを事業所や個人の善意に任せるのではなく、介護報酬などにも反映させていくべきだ。働く人を守る仕組みを整えることが、高齢者の命や暮らしを支える大前提である。

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