白澤教授のケアマネジメント快刀乱麻

介護人材の確保に向けて/白澤政和(連載119・最終回)

介護人材の確保に向けて/白澤政和(連載119・最終回)

 第2の課題である介護人材の確保は、さらに深刻である。事業所・施設では人材確保ができず、介護保険当初に恐れられていた「保険あって、サービス無し」の状況が始まりつつあることを暗示している。介護人材の確保は、他の人材確保同様に海外に目を向けざるをえない。日本では、経済連携協定(EPA)が08年に始まり、インドネシア、フィリピン、ベトナムから介護福祉士候補者を受入れている。これは労働力不足への対応ではなく、介護福祉士試験合格者はこれまで極めて僅かであり、日本の介護人材に影響を与えるような状況ではない。

 そうしたこともあり、16年に2つの法律が制定された。その1つが「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」で、技能実習に介護が加えられた。技能実習生制度も、建前上は国際貢献のため、開発途上国等の外国人を一定期間(5年間)に限り受入れ、技能を自国に移転することを目的にしている。

 介護技能実習生は、他分野に比べて給与がとりわけ高いわけでもなく、さらに夜勤が1年間できないことで、他分野よりも給与が下がる可能性も大きい。

 また、後述する就労目的の特定技能1号が始まることから、介護技能実習制度が形骸化する可能性が高い。このような多くのハードルがあり、現状の制度では期待しているほど介護技能実習生が集まらないのではないかと予想される。

 介護人材を確保するためには、技能実習生も本音は就労目的で来日している以上、同一労働同一賃金を原則に、一定の待遇を保障する仕組みが基本でなければならない。現状では、外国人の人権を守るものにはなっていない。

 さらに、介護も含めた14業種で「特定技能1号」を設け、通算5年の在留期間として海外からの人材確保を図っていく「改正出入国管理法」が成立し、4月から始まる。ただ、就労が目的であり、職場を移動できるとすれば、特に介護保険領域では地域区分があるため、都市部では介護報酬額が高くなり、当然賃金も高くなるため、都市部に特定1号の人材が集中する可能性が高い。その対策も必要になる。

 一方で、外国人介護人材が大量に日本に来てもらうためには、2つの競争が生じていることを認識しておかなければならない。第1は、すべての先進国で介護人材のニーズがあり、海外の国々との競争に勝ち、日本に来てくれる人材を確保する仕組みが必要である。もう1つは、介護以外の他分野と競争して、日本で介護で働きたいという選択をしてくれる仕組みの構築が求められる。

 そのためにまず、外国人だけでなく、すべての介護職員の待遇改善や社会的評価を高めることが不可欠である。その根底には、できる限り日本人が介護を担い、それを補うべく技能実習生や特定技能1号であるということが基本でなければならない。

 第2の課題は、日本の介護の質をいかに維持していくかである。これには、16年にできたもう1つの「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律」が重要である。この法律で介護福祉士資格を有する外国人が介護に従事する場合に、介護福祉士を高度専門職と見なし、在留資格が得られることになる。既に在留資格取得者もでている。

 介護福祉士養成校への留学生が介護福祉士資格を取得し、在留資格を得て、介護現場で働くことができれば、日本が世界に誇る介護水準を担保できることになる。同時に、その後に来日する外国人介護職の指導者としての役割も果たしてもらえる。

 介護を学び、日本で働きたいという留学生は多いが、学費が払えないため入学できない者も多い。既に、介護福祉士養成校に入学すると、都道府県ごとに、2年間で168万円の修学資金の貸与(5年介護就労すれば無償還)制度がある。このような仕組みを一層推進し、高度な水準の外国人介護福祉士を増やし、日本の介護の質を担保していくことが必要である。このような外国人介護福祉士であれば、母国に戻っても、自国の介護のリーダーになり、本来の技能移転が可能である。

 以上のように、外国人介護職の確保において根本的な転換が求められている。

 ただ、外国人介護職の確保だけでなく、介護経験者を介護職に引き込む視点も必要である。現実に、介護離職者が毎年10万人程度おり、家庭の介護を終えた介護者に、介護経験を活かして活動してもらえる仕組みを制度化することで、介護人材の確保を図っていくことも要検討である。

筆者より~最終回にあたって

 「ケアマネジメント快刀乱麻」を2009年に始めたときは還暦の60歳。今年、古希の70歳となり桜美林大学の定年を迎え、4月からは国際医療福祉大学大学院でお世話になる。

 唐突ではあるが、このきりの良い時期に、本連載を10年119回で終了することを決意した。最初は軽くお引き受けしたつもりが、いつの間にか 月に1回の執筆が生活の一部になっていった。一抹のさみしさもあるが、何事も始めがあれば、終わりがあると思っている。

 私自身はケアマネジメントの研究者であり、ケアマネジャーを励まし、ケアマネジメントの水準を向上することで、利用者や社会から評価してもらえるケアマネジメントにしていくことを常に心して、毎回連載してきた。そのため、時には行政への批判になったり、時にはケアマネジャーに対する厳しい注文といった表現も多かったことと思っている。これについては、ケアマネジメントに対する情熱の表れであったとして、ご容赦頂きたい。

 「快刀乱麻」とは、もつれた事柄をもののみごとに処理することとされる。119回の連載を終え、現状のケアマネジメントは残念ながら、もつれたままで、未だトンネルの中にいる。私なりにケアマネジメントのあるべき姿に対して自己主張をしてきたつもりだが、さほど実を結ぶことなく、十分に責任を果たしきれなかった忸怩たる思いがある。これについては、今後も様々な形で発言していくつもりである。少しリフレッシュし、新しい職場にも落ち着けば、編集部と相談しながら、新しい連載に挑戦していきたい。

 なお、介護保険制度も近々20年を迎えることもあり、今までの連載記事を核にして、『介護保険制度とケアマネジメント―創設20年に向けた検証と今後の展望』を中央法規から3月中旬に刊行します。是非、手に取ってご覧いただきたいと願っています。

 長年にわたり、ご愛読くださいました読者の皆さんに改めてお礼を申し上げます。有難うございました。

白澤政和

(シルバー産業新聞 2019年3月10日号)

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