未来のケアマネジャー

真実は細部に宿る/石山麗子(49)

真実は細部に宿る/石山麗子(49)

 2022年12月20日、社会保障審議会介護保険部会では「介護保険制度の見直しに関する意見」が示された。ケアマネジメントに関する記載の柱には「一人ひとりに寄り添う介護サービス」と記されていた。科学が台頭する今、あらためて温もりを感じるこの表現を国が行ったことに少しの驚きを感じつつも嬉しく思った。一人ひとりに寄り添えるケアマネジメント実践とはどのようなものか。

 今から10年ほど前、ある在宅医が仰った。私は、なるほどと思い、高齢者ケアのどこにどのように現れるのか。それを見つけられるようになりたいと思った。なぜなら、今より少しは利用者の真意に近づけるかもしれないと思ったからだ。ケアプラン1表でよく見かける表現がある。「住み慣れた家で過ごしたい」である。これは万人に共通する。ケアマネジメントは個別に作成されるものであるため、ケアマネジャーに期待されているのは、もう一歩踏み込まなければ見えない世界を捉えることだ。

 居宅サービスを利用する方の多くは、家での生活を希望されている。もちろん本当にそうであるかは確認しなければならないが、そこで終わりにしてはならない。その方は、なぜこの家に居たいのか。その人にとって、この家の意味は?教えていただかなければわからない。だからといって面と向かって「あなたにとって家は、どんな存在ですか」と聞いて真意が語られるものでもない。答える側にとっても難しい質問である。なぜなら家に居ること自体が日常であり、多くの人は、日常は意識しない。だからこそ語りの一部、しぐさなどの細部から慮る。とはいえ、どのような状況、どのような場面を切り取ればよいのだろうか。教科書には載っていない。少なくともいえるのは、細部に宿るものを見たいなら、細部まで確認するアセスメントを行うということだ。

 筆者は2018年以降、適切なケアマネジメント手法の実践研修を地域で継続してきた。この実践研修が日本総合研究所の適切なケアマネジメント手法実践研修のもととなった(介護保険最新情報Vol.1088)。この手法は、丁寧な意思決定を行うことを目的とし、細かな情報収集や分析(アセスメント)を行うところからスタートする。筆者はこれまで多くの実践報告を聞いてきた。そこで細部に宿る何かを見つけた事例は珍しくない。本稿ではその一つを紹介しよう。

 利用者は80歳代の女性、動作緩慢、終日寝たり起きたりのメリハリのない生活を送っていた(報告では「ボーっと過ごしていた」)。居宅サービス計画3表の利用者の一日の生活は特筆する内容もなく、起床・就寝、3回の食事、服薬程度の記載だった。この実践研修に参加したケアマネジャーは、利用者の24時間の生活行動をつぶさに聴き取った。

 その結果、確かにこの利用者は一日の大半を座って過ごしていたことには違いなかった。しかし、利用者像は正反対だった。この女性の行動をみてみよう。朝8時、つかまり歩きで玄関に移動していた。次に見えてきたのは、昼には居室からダイニングまで移動していた。16時過ぎには、居室からリビングに移動してることがわかった。歩くこともままならないこの方は、なぜわざわざ移動していたのか。

 朝8時の玄関への移動は、息子を見送るため。食事はきちんとダイニングテーブルで食すため。16時過ぎには、間もなく仕事から帰ってくる息子を、エアコンをつけて快適な環境で迎えるためだった。ケアマネジャーが見ていた利用者像「毎日寝たり起きたりメリハリのない生活をしている人」ではなかった。一見して動作緩慢で座ってばかりの生活に見えても、息子を思い、母親としての役割を計画的に、継続して行っていた。

 ありふれた日常のなかにこそ真意や価値は潜んでいる。それを詳らかにできるのは、粒度の細かなアセスメントで、国が示した「一人ひとりに寄り添う介護サービス」を実現するために欠かせない。経験豊富だからといって個別対応に秀でているとは限らない。むしろ豊富な経験は、無意識に思考プロセスで利用者像を瞬時に類型化し個別化を邪魔しているかもしれない。一人ひとり違う。このあたりまえに向き合う丁寧なケアマネジメント実践に期待がかかる。
(シルバー産業新聞2023年1月10日号)

関連する記事