支える現場を踏まえて

支える現場を踏まえて139 自分たちの近くで見守り続ける

支える現場を踏まえて139 自分たちの近くで見守り続ける

 D氏と出会って8年近くになる。不安定だった生活状況も安定し、筆者が代表を務めるNPOが定期的に開催する「カレーの会」などの催しにも参加している。

 彼の日頃の楽しみはクレーンゲームで、遊ぶ金額は1回300円までと決めている。可愛いぬいぐるみなどを必ず釣り上げ、失敗することがないほど上達した。そのため部屋の中はぬいぐるみで一杯だ。ぬいぐるみに囲まれているのが幸せと言い、「理事長、リュックに着けると可愛いよ」と時々持ってきてくれたりする。

 穏やかな生活をしているD氏だが、以前「飲み屋で知り合った」という若者と付き合っていた時期があった。

 若者が部屋を訪ねて来るたびに、財布の中身が減っているように思ったD氏。「私の財布に触らないでほしい」と言うと、「俺の親せきは暴力団の組長だ。金を出せ」と凄まれ、1万円を渡してしまったと連絡があった。
 「またか…」と、8年前のことを思い出して気持ちがざわついた。

 D氏は元々お酒が好きで、日雇いの仕事が終わると仲間と居酒屋に足を運ぶのが習慣になっていたようだ。生活が落ち着いたところで、楽しみを持ちたいと思い、再び居酒屋に通い始め、その若者との接点ができたのではと思われる。

 生活支援コーディネーターをしている職員がD氏宅に訪問し、本人にゆっくりと話を聞き、相手方に「これ以上、本人に付きまとわないでほしい。場合によっては警察に連絡しますよ」と伝えて以降、連絡は途絶えた。しばらく自室から出られなかったD氏だが、ようやく、いつもの生活に戻りつつある。

 D氏と縁ができてから長くなるが、今も私たち関係者が見守りを続けている。

 筆者が地域で居住支援の役割を担うようになって10年が経った。始めて2年経ったころ、「住まいのない人がいる」と病院から電話をもらい駆け付けたが、すでに転院していた。

 転院先に出向き、受付で入院者の名前を挙げ「面会したい」と伝えたが、「そのような人は入院していない」とそっけない返答が。それならと地域相談室を訪ねたところ、担当のソーシャルワーカーが応対してくれて、当人の入院の経緯について説明をもらった。その後病室へ案内してもらったが、そこには緊張からか手の振戦がみられ、発語も明瞭でないD氏の姿があった。

 D氏は温厚で気が弱い面があった。同じアパートに住む複数の住人からキャッシュカードを作ることを強要され、飲食代を全て支払わされたりしていた。

 そのようなことが長く続き、住人たちもまずいと感じたのか、あるときD氏を2階の階段から突き落とした。翌朝、通勤途中の人が見つけて救急車を呼んでくれて、搬送されたということがあった。

 区役所に定期的に来られる弁護士に相談させてもらい、それ以降月2回、半年近くに渡ってD氏が身を隠している住まいに迎えに行き、弁護士事務所に同行した。8カ月が経った頃に自己破産手続きが終わり、区役所の関係者と話し合い、当法人の小規模多機能事業所「ひつじ雲」近くのアパートを借り、我々が見守れる態勢を整えた。


 当初2日に1度訪問していたが、徐々にその間隔も1~2週間に伸び、本人から伝えたいことがあれば電話をかけてきたり、事務所に足を運んでくるようになった。

 落ち着いたなと感じた頃から、あちこち治療が必要な箇所が出てきて、通院に時間を要するようになったが、医師の指示で猛暑の期間でも夕暮れからウォーキングに精を出している。おかげで3~4㎏減量できたという報告をもらった。

 まだ60代のD氏が元気に過ごせるよう、日頃の声掛けを続けていきたい。

(シルバー産業新聞2025年10月10日号)

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