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加齢と共に衰える脳機能維持・向上するには?/村田裕之(連載144)

加齢と共に衰える脳機能維持・向上するには?/村田裕之(連載144)

 脳の働きの低下は、中年期以降に生じると信じている方がほとんどだと思う。ところが、実際はそうではない。認知機能に関連する世界中で行われた心理学的検査の結果をまとめた研究(例えばパークら2002年、ソルトハウス06年)の成果を見ると、ある事実が浮かび上がってくる。

脳機能は20歳を過ぎると加齢とともに衰える

 語彙などの知識を問う心理学検査の成績を総合すると、20代から徐々に成績が向上し、60〜70代で最大値を示し、その後ゆっくりと低下していく。

 人生経験が豊かになるにつれて、知識や知恵も豊かになるという当たり前のことがちゃんと点数に表れている。語彙などの知識は脳の頭頂連合野や側頭連合野に記憶として蓄えられるので、この点からいえば脳の機能は人生の晩年に向かって向上しているといえる。

 ところが、背外側前頭前野の機能を調べる心理学検査の成績を見ると、20歳から成績は直線的に低下している。中年期以降に急に下り坂になるのではなく、脳の器質的な成長が終わる20歳頃から直線的に機能低下が始まっているのだ。

 自分のしていた行動や作業をふと忘れてしまうタイプのもの忘れは、背外側前頭前野の機能低下を直接反映している。しかし、比較的若いうちからこうした症状が見られるのは、この機能低下が20歳を過ぎるとすぐに始まることに起因していると思われる。

 興味深いことに、どちらの検査も、すべての年代の人の成績を平均すると、40代半ばの値と一致することもわかった。この事実は次のことを示すものだ。

 1.40代半ばまでは、それまでの経験でカバーしてごまかしがきくので脳機能の低下をそれほど自覚することがない。

 2.ところが、40代後半以降は背外側前頭前野の機能低下の影響のほうが強くなるため、ごまかしがきかなくなる。

 3.したがって、中年期以降に脳機能の低下を強く自覚するようになる

脳トレには「処理速度」と「処理容量」の2種類ある

 こうした背外側前頭前野機能の低下を改善し、機能向上するのが「脳のトレーニング(脳トレ)」だ。東北大学の川島隆太教授によれば、これまでの脳トレには情報の「処理速度」と「処理容量」の2種類の訓練がある。

 背外側前頭前野の機能はパソコンに例えると情報処理を担うCPU(中央演算処理装置)と情報を自由に読み書きできるRAM(ランダムアクセスメモリー)になる。このうちCPUの性能を向上するのが「情報処理速度訓練」だ。一方、RAMの容量を拡大する、つまり作動記憶容量を拡大するのが「情報処理容量訓練」だ。 ちなみに、パソコンのHDD(ハードディスク)やSSD(ソリッドステートドライブ)などのデータ記憶装置にあたるのが、脳では側頭連合野になる。

 私たち東北大学では川島隆太教授を中心に多くの民間企業との産学連携で、この2種類の脳トレを商品化している。「情報処理速度訓練」の代表的商品は任天堂3DS用ソフト「脳を鍛える大人のDSトレーニング」とその続編の「もっと脳を鍛える大人のDSトレーニング」だ。この2つは海外でも販売され、のべ3300万本以上売れたという超メガヒット商品だ。

 一方、「情報処理容量訓練」、つまり作動記憶容量を増やす脳トレの代表的商品は任天堂3DS用ソフト「ものすごく脳を鍛える5分間の鬼トレーニング」(通称「鬼トレ」)だ。「感情の抑制機能の低下」「記憶の書き込み機能の低下」を食い止めるには、この鬼トレが有効だ。

 興味深いことに、このソフトで作動記憶トレーニングを続けると、これらの改善に加えて、脳の実行機能、予測や判断力、集中力も向上し、仕事や勉強の効率が上がったり、家事がスピードアップしたり、スポーツが上達したり、さまざまな効果が期待される。

 私が担当している東北大学スマート・エイジング・カレッジ(SAC)東京では、こうした最先端の脳科学の知見を事業に役立てる場となっている。

【村田アソシエイツ代表・東北大学特任教授 村田裕之】

(シルバー産業新聞2019年4月10日号)

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