半歩先の団塊シニアビジネス

どうすれば介護保険に依存しない商品開発が可能か?/村田裕之(連載146)

どうすれば介護保険に依存しない商品開発が可能か?/村田裕之(連載146)

 5月14日、15日にシンガポールで開催の第10回エイジング・アジア革新フォーラム(AAIF)と第7回アジア太平洋高齢者ケア革新アワードの授賞式に参加した。

 今年度は世界22カ国から1500人を超える人が参加し、展示コーナーでは50を超える企業・団体が出展した。参加国はアジアのみならず、欧州、米国、中東などにも拡大した。

 拙著「シニアシフトの衝撃」で予言した通り、この8年間でシニアシフトの動きがアジアや多くの国々に広がってきたことを強く実感した。特にオーストラリア、香港、シンガポール企業の参加が際立っていた。

 一方、他国からの参加が増え続けるのに対して日本企業の存在感が薄かった。なぜ、日本企業の参加が少ないのか。その原因は大きく次の2つだ。①こうした国際舞台では英語での書類作成、プレゼンが不可欠だが、日本の多くの介護事業者はそれが不得手なこと。②日本の介護事業者に海外進出しようという意欲が低いため、海外でプレゼンしようというモチベーションが低いこと。 ②は結局、多くの事業者が公的介護保険に収入を依存する事業構造のため、海外進出の必要性を感じないことにある。一方、①はその裏返しとして英語を使う必要性がほとんどないため、英語でコミュニケーションできる人材も少なく、そうした人材を育成しようという必要性もないことが背景だ。

 実は英語ができないことだけが課題ではない。一昨年の国際福祉機器展で香港最大の高齢者住宅事業者のCEOが参加した。その際、5月開設の浜松営業所大久保光子社長(左)と青野真也施設長毎週火曜日に開校上段右から木村センター長、平野社長、神谷メンテナンス主任生活リズムの把握は、行動の予測につながるメンテナンス室は冷暖房完備 営業所にメンテナンス機器を完備手すりと組み合わせればベッドの位置に左右されず、設置できる出展されていた複数の福祉機器に興味をもち、「これらを購入できないか」と尋ねられた。

 ところが、出展企業の担当者にその旨を尋ねると、ほとんどの場合「輸出できない」と言われた。理由は、香港での販売体制がない、メンテナンスができない、トラブルがあった時に責任が取れないというのだ。

 国際福祉機器展に出展しているのに、国際市場での販売はしないというバカげた日本企業が多く、唖然としたことを覚えている。

 別の課題もある。以前、日本の介護事業者と合弁の中国の高齢者住宅を訪れた際、中国製の介護ベッドを導入していたので「なぜ、日本企業の介護ベッドを使わないのですか」と尋ねたら、「日本企業のものは使わない機能が多く、価格も高いのでニーズに合わないから」と言われたことがある。

 日本では機能を沢山付けて、高価格にしても介護保険適用になれば利用者負担が少なく、購入・レンタルできる。しかし、公的介護保険のない日本以外の国では、こうした製品は競争力がない。

 日本の福祉機器事業者は公的介護保険制度に収入を依存できる限りは、国内市場だけを見ていれば何の問題もなかった。

 しかし、これからはそうはいかないだろう。その理由は日本の人口動態予測を見れば明らかだ。このことはこれまでに様々な場面で何度もお話してきた。

 今回AAIFに参加して痛感したのは、日本企業は公的介護保険のない国際市場で競争力をつけないと、他国に市場を奪われ、事業機会を失うということだ。

 先に挙げた香港の高齢者住宅事業者は世界中から福祉機器を調達しているが、日本企業からは極めて少ない。「なぜ、日本企業からもっと買わないのか」と尋ねると「日本企業が売り込みに来ないから」と言われて苦笑いしたものだ。

 これとは対照的に公的介護保険のあるドイツの企業は海外市場での営業に積極的だ。介護ベッドを販売しているあるドイツ企業が前掲のアワードに今年度エントリーしていたので製品詳細を知る機会があった。

 先に挙げた日本企業とは対照的に機能を絞り込み、ドイツ製の高い品質は維持しつつ、低価格に抑えているのだ。ちなみに、この企業は先の香港企業が運営する高齢者住宅に多数のベッドを供給している。

 このように公的介護保険がある国でも、国際市場でしっかり商売をしている例がある。このことを日本の福祉機器事業者の方はぜひ知って頂きたい。

【村田アソシエイツ代表・東北大学特任教授 村田裕之】

(シルバー産業新聞2019年6月10日号)

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