半歩先の団塊シニアビジネス

「加齢適応力」支援商品が新たなビジネス機会になる/村田裕之(連載147)

「加齢適応力」支援商品が新たなビジネス機会になる/村田裕之(連載147)

 私が「スマート.エイジング」という考え方を2006年に初めて東北大学で提唱してから13年が経過した。日本の高齢化率は06年に20.8%だったのが、17年には27.7%になった。

 国連の定義によれば高齢化率が21%を超えた社会を超高齢社会と呼ぶ。日本はちょうど06年から07年の間に超高齢社会になったのだ。それから12年が経過し、社会の状況が大きく変わった。

 その一例として「人生100年時代」という言葉をよく耳にするようになった。戦後2年後の1947年の日本人の平均寿命は男50.06年、女53.96年で「人生50年時代」だった。私はいま57歳なので、この時代なら恐らくもうこの世にいなかっただろう。しかし、18年の平均寿命は男80.98年、女87.14年で、57歳の私はまだ7合目あたりに達したところだ。

 また、平均寿命が延びたことで100年以上生きる人の割合が増えた。100歳以上の人数は国が表彰制度を始めた1963年には153人だったが、18年9月15日時点で6万9785人になった。

 こうした背景から、自分が100年生きたいかどうかは別にして「100年生きる可能性がある」ことを認識せざるを得なくなった。だから私のような50代後半の人間は、あと40年余りは生き続ける可能性を前提に人生設計を再構築しなければならない。

 その一方で、中高年の方には「自分が100年も生きることの具体的イメージが湧かない」という方も多いのではないか。こういう方は、齢を重ねるにつれ自分や家族にどういう不具合が起こるのかが想定できていないことが多いようだ。

 他方、身体の不具合が増えて医者通いが多くなり、100年どころか、あと数十年もつかどうかもおぼつかない、と感じている方も多いのではないか。こういう方は健康管理の重要さは理解しているものの、さまざまな理由からその実行が伴っていない場合が多いようだ。

 私たちの身体は加齢に伴い変化する。私自身、40代に比べて50代になってから徐々に無理がきかなくなってきた。一番変化を感じたのは、時差ボケ対応力が落ちたこと。そして、睡眠障害と早起き傾向が強まったことだ。これらは全て加齢による身体変化のためだ。

 このような50代で遭遇する様々な身体の不具合は、40代までには全く予想しなかったことだ。実は50代は身体変化の転換点だ。女性の場合は更年期というわかりやすい転換点がある。一方、男性は女性ほど明確ではないが、間違いなく身体変化が起こる。

 さらに、75歳頃にも大きな転換点がある。後期高齢者という言葉は評判が悪いが、その定義が75歳以上になっているのには医学的な意味がある。

 社会全体を眺めると、高齢化に伴い認知症人口は2020年に631万人が見込まれ、認知症による社会的コストは世界で年間約50兆円、日本で年間約14.4兆円、うち介護コストが12.5兆円と大半を占めている。

 一方、高齢者は毎年50万人増えているのに対し、労働人口は70万人減っている。このままでは近い将来、要介護になってもきちんと介護を受けられない可能性が大きい。

 したがって、人生100年時代に必要なのは、私たちの「要介護時間を最小化」することだ。そのためのライフスタイルが「スマート.エイジング」である。これは「加齢による経年変化に賢く『適応』して知的に成熟する」という生き方だ。加齢(エイジング)に対する「適応力」を身につける生き方とも言える。

 スマート.エイジングの4条件は、運動(身体を動かす習慣)、認知(脳を使う習慣)、栄養(バランスのとれた栄養習慣)、社会性(人と積極的に関わる習慣)である。

 ところが、現状では加齢に伴い、様々な理由でこれらの4条件を習慣化できる人が少なくなっていく。と言うことは、これらの習慣化の支援が求められていると言える。

 商品提供側の立場では、これの4条件の一つ以上を「意図的に」商品.サービスに組込み、それらによって、顧客が「健康で前向きな気持ちでいられる」「いくつになっても成長できる」と実感してもらえることが価値となる。

 このようにして顧客から対価を得るビジネスを、私は「スマート.エイジング.ビジネス」と呼んでいる。これが人生100年時代のシニアビジネスの中心となるだろう。

【村田アソシエイツ代表・東北大学特任教授 村田裕之】

(シルバー産業新聞2019年7月10日号)

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