千田透の時代を読む視点

「現金給付」の導入 慎重に議論すべき/千田透(連載75)

「現金給付」の導入 慎重に議論すべき/千田透(連載75)

 次期介護保険制度改正に向けた議論が社会保障審議会介護保険部会で本格化している。テーマの一つに「持続可能な制度の再構築」が掲げられ、その中で給付と負担の見直しについても検討が行われている。

 具体的な検討項目として挙げられているのが、①被保険者・受給者範囲②補足給付に関する給付のあり方③多床室の室料負担④ケアマネジメントに関する給付のあり方⑤軽度者への生活援助サービス等に関する給付のあり方⑥高額介護サービス費⑦「現役並み所得」、「一定以上所得」の判断基準⑧現金給付――の8項目で、中には制度の根幹に踏み込む項目も含まれている。

 特に⑧現金給付については、わが国の介護のあり方に関わる項目のため、私見を述べたい。

 要介護高齢者に対し、サービスを提供する現物給付と違い、現金給付とは金銭そのものを支給する方法である。介護保険制度創設時に制度に取り入れるかどうか議論されたが、家族介護を固定化する懸念や、サービスの普及を妨げるといった理由から、導入を行わなかった経緯がある。

 ここにきて、再び議論の俎上に上ってきたのは、ドイツなど諸外国の介護保険で現金給付の実績があることや、財政の問題、そして人手不足の問題などが背景にあるからであろう。ただ、介護のあり方そのものを変えてしまう可能性があるため、慎重に議論すべきだ。

 現金給付に積極的な意見は、保険料負担に対する見返りを求める意見であったり、家族介護を慰労するという側面から発せられる意見が多い。介護人材が不足する中で、現物給付が受けられないケースが増えてくると、そうした声はますます強くなっていくだろう。

 しかしながら、そのことは家族に介護を押し付けるという意味であり、「介護の社会化」を掲げた介護保険の理念とは大きく異なる。また、介護離職ゼロ・女性の活躍推進の政府方針とも矛盾する。

 現金給付によって、国民の選択肢を増やすという側面は理解できなくもないが、仮に導入するとなった場合に、家族から提供される介護の質と、専門職から提供される介護の質とのギャップをどのように埋めるのか。家族による介護の適正な給付額をどのように設定するのかなど、難しい課題が山積みである。

 現物給付では、時間ごとに介護報酬が定められているが、現金給付の場合だと、そうした手間の評価は行われず、丸めで支給される可能性が高い。

  短絡的な方向に介護保険制度が流れていくことがないよう、慎重な議論をしてもらいたい。

 千田透(全国生活協同組合連合会 常務理事)

(シルバー産業新聞2019年11月10日号)

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