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【地域特集】熊本県の介護保険 地震・豪雨災害への支援を経験

【地域特集】熊本県の介護保険 地震・豪雨災害への支援を経験

 九州の中央に位置し、阿蘇や天草といった観光資源も豊富な熊本県。一方で、2016年の熊本地震、20年に人吉・球磨地区を中心に襲った豪雨・水害など度重なる被災の経験を持つ。県の復旧・復興支援、BCP策定支援などについて聞いた。

全国平均上回る高齢化率市町村でばらつきも

 熊本県の人口は、2021年10月時点でおよそ173万人、高齢者数は約55万人で高齢化率31.9%。高齢者の半数以上の約28万人が75歳以上と、いずれも全国平均を上回る。

 市町村別の高齢化率を見ると、20年10月の時点で山都町が51.2%と県内トップを走り、一番低いのが菊陽町の21.1%となる。山間地域はおよそ2人に1人が高齢者である一方で、熊本市に近いベッドタウンでもある菊陽町や大津町などは若い人が多い。

 特に菊陽町では、台湾の半導体メーカー台湾積体電路製造(TSMC)の工場建設が進み、県としても人を呼び込むためにアピールをしている。

 熊本県は九州の中央に位置し、高速道路や新幹線も通り、九州の交通の要衝となっている。山間地域では阿蘇、海沿いでは天草と観光資源も豊富だ。

 政令市でもある熊本市が人・モノ・経済の中心であり、県内の機能が集中する。人口もおよそ73万8000人と県全体の4割を占める。

災害からの復興 BCP策定を支援

 20年7月、熊本県は豪雨により球磨川が氾濫し、県南部の人吉・球磨地区を中心に大きな被害を受けた。球磨村の特養千寿園では入居者14人が亡くなった。

 21年度からの第8期熊本県高齢者福祉計画・介護保険事業支援計画(長寿・安心・くまもとプラン)では、豪雨災害等からの復旧・復興に向けた支援を計画に位置付け、取り組みを始めた。

 事業継続計画(BCP)に関しても、今年から新たに策定支援に力を入れ、介護事業所や施設を対象にセミナーやワークショップを計画している。

 山間部は地震の時には土砂崩れがあり、球磨川流域は大雨のたびに水に浸かる可能性がある。自然災害は身近な問題であり、だれにでも起こり得る問題として取り組みを求めている。

 災害時の避難に関しては、施設での個別性が高いため、一律の指導は難しい。

 これまでも危険水域の地域にある施設には、特に注意喚起や積極的な研修への参加を呼びかけてきた。セミナーでは、浸水した施設の施設長に講師になってもらい事例の共有も行った。

 具体的な県内のBCP策定状況に関しては、今年からの研修を通して実態を把握し、支援を強化する。

豪雨被災施設の復旧進む

 豪雨被災を受けた施設への補助として、国の災害復旧補助金を活用した。

 床上浸水した施設では、床や壁、電気系統の補修などに使用され、豪雨被害を受けた施設はほぼ復旧している。

 現在、多くの被害が出た千寿園だけが人吉市の仮設プレハブで運営している。しかし、球磨村から村唯一の特養として再建の強い要望があり、昨年12月末より、同村の水害のリスクの低い高台に再建が始まった。今年の12月末に完成を予定している。

 費用は約16億円で国と県で6分の5を補助する。

認知症サポーターの養成率全国1位

 08年に蒲島郁夫知事が就任し、全国の知事で初めて認知症サポーターになるなど制度の普及を進めている。

 サポーター養成数は昨年12月末で40万人を超え、09年度から人口に対する養成者数は13年連続日本一だ。

 高齢化に伴い認知症者が増加し、高齢者の5人に1人が認知症になる状況で、認知症に関心を持ってもらうため、小学校低学年から周知に努めている。

 認知症サポーター養成講座の講師にキャラバンメイトを招き、公民館や学校で研修を行う。新型コロナが蔓延する状況でも、感染予防に留意しながら、オンラインも活用し取り組みを続けている。

 県内の市町村では行方不明となる可能性がある人を事前登録等により把握するSOSネットワークを構築している。一人歩きの高齢者に声を掛けたら登録者だった事例もあり、地道な取り組みの成果が出つつある。

 養成率の高さは、認知症サポーター自身の普及啓発によるところが大きいと考えている。

 キャラバンメイトは役所の職員や介護職の人だったりする。その人たちの自発的な地域活動の賜物だ。

 18年からはサポーターの更なる活動活性化を図る取り組みとして、認知症サポーターアクティブチームを創設した。認知症カフェの運営や地域での見守り活動などに取り組む団体を県が認定する制度だ。

 認知症への県民の理解を深め、地域共生社会を目指す仕組みが求められている。

 これからも、認知症の人や関わる人たちの支援に県としても取り組み続けていく。

物価・水光熱費高騰への支援開始

 近年の物価高と水光熱費高騰による介護事業所や高齢者施設の経営圧迫を受け、県では、国の「電力・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金」を活用し、物価高騰による経費の上昇に対し支援金を支給している。

 対象は水光熱費、ガソリン代、食費で、法人単位ではなく、介護保険事業所、施設ごとに交付する。今年1月20日から2月28日まで申請を受け付けている。

自立支援に向け地域リハ推進

 県では、地域でのリハビリテーションを推進するため、三層構造による支援体制を構築している。

 地域リハビリテーションの推進母体として、熊本県地域リハビリテーション支援センターを設置。県内17カ所の病院や老健施設で構成され、地域での介護予防等に関する技術的支援を行う「地域リハビリテーション広域支援センター」が、100カ所以上の施設等からなる「地域密着リハビリテーションセンター」と連携し、市町村の要請等により、通いの場などにリハ専門職を派遣し、体操指導などを行っている。

 研修会など、専門職の人材育成にも努めており、地域リハを通した県民の自立支援に貢献している。

人材確保へウェブサイト開設

 介護業界の人材不足の解消を目指し、介護職に対する新しいイメージを持ってもらうために、県では新たに「ウェルカム!くまもと介護の扉」というウェブサイトを立ち上げた。

 高齢化が進む熊本県の現状や、現役の介護福祉士へのインタビューを通して介護職の魅力について発信している。
介護に関する資格の紹介や、すでに資格を持つ潜在介護福祉士の届出制度についても周知しており介護人材の掘り出しにも取り組む。

 介護業界のことを知ってもらうためにも、広く県民に利用を呼びかけている。

(シルバー産業新聞2023年2月10日号)

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