インタビュー

寄稿 今こそ「楽しむ」ことを大切に その人らしさを支えるDTの取組

寄稿 今こそ「楽しむ」ことを大切に その人らしさを支えるDTの取組

NPO法人 日本ダイバージョナルセラピー協会 理事長 芹澤 隆子

苦境の時こそ 「楽しむ機会」 を

 思えばこの1年、「3密」「ソーシャルディスタンシング」「非接触」「黙食」など、新型コロナウイルスの感染拡大とともに、様々な新しい言葉が社会を席巻してきました。

 これらの言葉や行動は、これまで介護の中で大切にされてきたこととは真逆ともいえる考え方で、コミュニケーションや社会とのつながりが制限され、笑顔はマスクで隠れがちです。職員は感染防止のために絶えず神経と労力を費やし、密を避けるためにレクリエーションどころではないかもしれません。

 もちろん高齢者施設では感染防止が最大の課題です。しかし、このような緊張した環境の中で閉じこもらざるを得ない高齢者や、認知症を伴う人たちにとって、楽しむ機会が減ることで、認知や感情の面で、また身体的にも低下していくことが懸念されます。コロナ禍や大きな災害時など、苦境の時こそ、楽しみや笑顔、こころ通わせるコミュニケーション、温かみのある直接的な接触がどれほど大切であるかを、私たちは身に染みて知っています。

「楽しみ」 と 「ライフスタイル」 の専門人材を

 私は20数年前にオーストラリアの介護の分野で、「楽しむための専門職」があることを知りました。それがダイバージョナルセラピー(DT)で、利用者一人ひとりがその人にとって意味のある楽しさや、その人らしさを持ち続けられるように、多様なアイデアと実践のスキルをもった職業です。

 彼らが介護や医療(特にメンタルヘルス)の現場にいることで、介護の質の向上に大きく貢献していると、オーストラリア政府保健省の担当者も話していました。現在、同種の専門職が日本も含めて7カ国で国際連携を組んでいて、「コロナ禍でのレジャー&ライフスタイル」のアイデアやリソースが、メールやオンラインミーティングなどで盛んに交換されています。

 最近の情報では、多くの方が新型コロナで亡くなっているイギリスにある全国アクティビティ提供者協会から、介護施設の職員に対して「入居者や同僚の死を受容するための支援」という資料が送られてきました。また「ロックダウンされた冬のためのレクリエーション」として36種のアイデアが、実際の写真やグッズの紹介とともに紹介されました。

 オーストラリアからは、様々な素材を使って利用者の個性を引き出す「アートセッション」や、コロナ対応に多忙な職員のための「セルフチェック表」として、21の「自分自身が楽しむ方法」も提案されました。ニュージーランドからは、Inmu(インタラクティブ・ミュージック)という音楽系のツールを使ったプログラムが紹介されるなど、各地から様々な情報が寄せられました。
みんなで花火を囲む(山口県岩国市・のんびり村今津)

みんなで花火を囲む(山口県岩国市・のんびり村今津)

農作業で認知症患者が活性化

 日本でも日本DT協会が発足して18年、少しずつDTを実践する施設が増えています。当協会で発行する「DT通信」の最新号で、「コロナの今こそDTを!」という特集を組んだところ、16の施設からから寄稿がありました。終末期の方への楽しみの提供や、施設内での活動に工夫を凝らすと同時に、屋外へ出て十分な刺激を得ようとの取り組みも多く見られました。

 例えば、15年前からDTを導入している橋本病院(香川県三豊市、医療法人社団和風会)の認知症治療病棟では、感染防止のために患者の日中活動量が減って、夜間の睡眠不良や徘徊、意欲低下などが多く見られるようになったそうです。そこで、屋外で密にもならずに楽しめる農作業に力を入れることにしたというレポートが寄せられました。

 「患者のほとんどが農作業経験者。畑へ出ると農機具を巧みに使い、自発的に活動。農家の自信を取り戻されたようだ。病棟では歩行器が必要不可欠で、日中ほとんど昼寝をしている人が、畑に入ると〝くわ〟を杖代わりにしながら、畑の中を転ばずに歩き回っているといった光景も見られた。収穫した野菜で漬物、味噌汁、おやつ作りもDTの一つ。患者の笑顔とともにスタッフにも大きな達成感が。このように屋外での活動を続けることによって、夜間の睡眠が改善され、精神的な安定も得られると同時に、下肢の支持能力はじめ全身の機能向上など、体力面での改善も見られた」などと、成果を伝えてくれました。

 ほかにも人通りの少ない場所での散歩を続けていたり、若年性アルツハイマーの人を支援するグループが市内の山へ出かけるなど、日頃から「利用者にとって意味のある楽しさ」に心を砕いているDT実践者たちは、感染防止対策にしっかり取り組みながら、その上で少しでも「楽しむ」ことにもチャレンジしているのです。

 厳しい感染対応や災害時に介護現場にこのような専門職がいることで、利用者の精神的活性や生活面での安定を得ることができ、現場にゆとりをもたらすことができると考えられます。どのような環境にあっても、誰もが楽しく自分らしく人生を全うしたい。そこに焦点を当ててサポートする専門人材の育成に取り組む時ではないでしょうか。

 ※DTに関する最新情報は、日本DT協会のウェブサイト(https://dtaj.or.jp)をご覧ください。
 ※文中で紹介した「DT通信」を、ご希望の方にお送りします。Eメール(info@dtaj.or.jp 宛)で、件名に「DT通信希望」とお書きの上、本文にお名前、ご住所、ご連絡先をご明記ください。

(シルバー産業新聞2021年2月10日号)

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