インタビュー・座談会

高齢期の運動効果 田島文博氏

高齢期の運動効果 田島文博氏

 運動の重要性をリハビリテーションの現場で実践する和歌山県立医科大学リハビリテーション医学講座田島文博教授。ねんりんピック大会の開催に際して、高齢期の運動効果について聞いた。

運動の必要性

 ――なぜ運動しなければならないのですか。
 じっとしていたら、どんどん筋肉がなくなって、骨がもろくなり、精神機能が低下することは、何十年も前から証明されています。特に、高齢者は病院に入院して、じっとしていたら、1日、2日でも認知症状がでたり、動けなくなることがあります。
 ――全国に9万カ所の高齢者が集って体操や筋トレなどを行う会が生まれています。
 よいことだと思います。ただ、運動の負荷が少ない。歩行の場合も、途中で少し走るなどして、運動強度を高めることが大切です。「ヒィー」という位の強さがあってよいのです。

 田島教授は同大学ホームページの中で、寝たきりが体に悪影響を及ぼすと説明する。

「寝たきりは体に様々な悪影響を及ぼす。起立中には重力負荷がかかるが、宇宙は無重力状態です。宇宙空間で過ごすことは究極の『寝たきり状態』であるといえます」

「寝たきりの影響は、骨密度低下、心肺機能・筋力の低下、巧緻性(手先の器用さなど)の低下、精神機能の低下、血管コンプライアンスの低下、内分泌・自律神経応答性不良、体液量・循環血液量低下を引き起こします」

運動による痛み改善

 ――膝や腰などに痛みがある場合はどうでしょうか。
 腰痛やひざ痛などがあり、運動に痛みを伴う場合は、腰やひざの周囲の筋肉をしっかりつけることが基本です。筋肉量が増えれば、痛みは和らいでいきます。関節は周囲の筋肉があってこそ、関節としての働きをします。
 ――どうして、運動すると痛みが改善されるのですか。
 運動すると、痛みを改善します。私たちのネズミの実験では、けがをさせて、走らせたネズミと走らせないネズミとでは、走らせた方が、けががよくなります。
 ――どのようなメカニズムですか。
 最大酸素摂取量が75%程度のきつい運動をさせると、体内から修復性サイトカインが出て、関節などの傷んだ部分を修復することが分かりました。運動には疼痛制御機能といって、痛みを抑制する働きがあるのです。私たちの病院では、こうした基礎研究をしています。

 田島教授は和歌山県立医科大学でリハビリテーションの臨床と研究を続ける一方で、10年前に医師不足で閉院の危機にあった那智勝浦町立病院に赴任し、地域の医療機関や介護事業所などと連携して、地域医療に取り組んできた。  

「同大学リハビリテーション・スポーツ・温泉医学研究所開所10周年記念誌」で、田島教授は、「リハビリテーション医療は疾患の分け目なく、患者の活動性を上げるための治療を行う」、「リハビリテーション医学は地域医療に多大に貢献できる分野だと確信している」と記述している。

 ――ただ、運動して悪化するのではと心配される人もいます。
 腰痛も膝の痛みも、股関節の痛みも運動療法が有効な治療法であることは、一般にも知られています。問題は痛いのを無理して動かしたら、もっと痛くなるのではないか、という意見もあることです。それは医師にかかって治療してもらいながら、しっかり筋肉をつけると、ほとんどよくなります。
 しかし、どうしようもないぐらい関節や腰が痛ければ、手術をすることで治ります。     
 また、近年では痛みをとる薬も発達していて、薬を飲んで運動すればよくなっていきます。

栄養の重要性

大切なタンパク質の摂取

 ――運動をするにあたって、大切なことは。
 タンパク質をとることです。タンパク質は細胞の構成要素で、分解するとアミノ酸になりますが、アミノ酸は体内で保持できないので、激しい運動をして体外からタンパク質を摂らずにいると、低アルブミン血漿や貧血に陥る危険性が出てくるのです。特に、筋肉量が低下した高齢者や障がい者では、タンパク質補給をしながら運動することが必要です。
 信州大学の研究では、30分間の激しい運動をした後に、タンパク質を摂取する群と摂取しない群を比較したところ、5日間で、タンパク質を摂取した群の循環血液量は増えました。
 同大学HPで、「細胞は自分のタンパク質をリサイクルしてその品質を保持する。生命の基本単位は『細胞』です。細胞は、その品質を保つために、成人で1日約160~200gのタンパク質を合成する。実は、その材料となるのは、食事から摂取・吸収したアミノ酸だけではなく、自分のタンパク質の一部を分解したアミノ酸なのです。つまり、ヒトは自らのタンパク質をリサイクルして、その品質を保っているといえます」と記載する。

最大酸素摂取量と血液量の関係

 ――呼吸から摂った酸素が糖や脂質を分化して運動エネルギーを作り出すのですね。
 最大酸素摂取量は基礎体力といえるもので、最大酸素摂取量が多い人はマラソンが速く走れます。この最大酸素摂取量と血液量との関係は相関していて、最大酸素摂取量が多ければ、血液量も多いという関係です。
 汗の源は血液です。汗をかいて、体温調節をするために、体液量を増やさなければならないのです。タンパク質を摂取しないと、血液量が維持できず体液が尿として出てしまいます。
 高齢アスリートやパラアスリートが運動をして健康になるためにはタンパク質摂取が絶対的に必要になるのです。

運動だけでは不足する骨の健康

 ――高齢期の運動の大切さやタンパク質摂取の必要性がよく分かりました。
 課題があります。運動によって、筋肉や関節は丈夫になるが、高齢期になると骨はなかなか強くならないという点です。単にサプリやカルシウムの摂取だけでは足りない。骨粗しょう症治療薬など骨を強くする薬が開発されています。半年に1回や1カ月に1回使うものもあります。こうした薬を使った上で、運動とカルシウム・鉄分・タンパク質の摂取を行って、骨を強化するのです。今後、骨は高齢期を元気で過ごすためのキーワードになると思っています。

東京2020パラリンピック

 ――東京2020パラリンピック(8月25日~9月6日)が開催されます。先生は、日本代表出場選手のメディカルチェックを担当するなど、長年、障がい者スポーツに関わってこられました。
 障がいがあっても、運動は心身の健康維持に欠かせません。パラリンピックの開催は、障がいを持つ人たちの運動へのモチベーションを高めるイベントとしてたいへん意義が大きい。
 ただ、心配なのは8月開催で、暑さです。地図で見ると、東京は中央アジアのタクラマカン砂漠やアフリカのサハラ砂漠とほぼ同じ緯度にある。事故が起きないように、マラソンの開始時間を早めてほしいと関係機関に要請しています。
 「ねんりんピック紀の国2019」も、高齢者の運動へのモチベーションを高める取組として、多くの人たちが参加し日頃の鍛錬を発揮していただきたいですね。
 ――ありがとうございました。

(了)

田島文博氏

田島文博氏

 1984年産業医科大学医学部卒業。2003年より和歌山県立医科大学リハビリテーション医学部教授。


(ねんりんピック新聞2019in和歌山)

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