連載《プリズム》

やすらぎの郷

「北の国から」「前略おふくろ様」などで知られる脚本家の倉本聰さんが、91歳で亡くなった。

 不器用で、時に過ちを犯しながらも、懸命に生きる人々の姿を描き続けた作家だった。倉本さんは、かつて雑誌のインタビューで、「人間には二つの死がある」と語っている。一つは肉体的な死。もう一つは、他者の記憶から、その人の存在が完全に忘れ去られるという死だ。

 テレビドラマ「やすらぎの郷」では、往年のスターやテレビ制作者らが暮らす高齢者施設を舞台に、老いゆく人間の葛藤を描いた。華やかな時代を生きてきた登場人物たちは、世間から忘れ去られていくことに恐れや悲しみを抱く。自分という存在が人々の記憶から消えていくことが、人間にとってどれほど切実な問題なのかを問いかけた作品だった。

 年齢を重ねるにつれ、社会で担ってきた役割を失い、人とのつながりも少しずつ薄れていく。そのことを恐れ、醜態をさらす人もいるが、やがて介護が必要になれば、それまで当たり前だった暮らしさえ、自分の意思だけでは続けられなくなる。それでも、自分という存在を誰かに覚えていてほしいという思いは消えない。それは、人間の根源的な欲求でもある。

 介護の仕事は、こうした人間の孤独と向き合っている。その人が歩んできた人生に耳を傾け、何を喜び、何を大切にしてきたのか。日々の介助の中で交わされる何気ない会話や、ふとした表情、仕草から、その一端を拾い上げていく。そんな営みが日々繰り返されている。
 人は老いても、それまで生きてきた人生を失うわけではない――。倉本さんが問いかけた「第二の死」に対する答えは、介護の仕事の中にあるのかもしれない。

関連する記事

251216_ケアマネ過去問バナー_b
シルバー産業新聞 電子版 シルバー産業新聞 お申込みはこちら

お知らせ

もっと見る

週間ランキング

おすすめ記事

人気のジャンル