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人ごとだと思わない「宮城県沖地震もある」

人ごとだと思わない「宮城県沖地震もある」

 社会福祉法人東北福祉会は、東北福祉大学の実践の場として施設・在宅の高齢者、障がい者のケアに取り組んでいる。3.11の時、法人本部次長(現在)の野田毅さんは、石巻の拠点で遭遇、いつもは1時間半の道のりを6時間かけて仙台市青葉区の本部に戻った。ラジオから流れる津波の被災状況は、聞こえていたが実感することができなかった。

大切な施設間支援

 電気、水道は止まったが建物の被害はほぼなかった。入居者は目の届くフロアに集まってもらい、プライバシーのない中でケアにあたった。震災当初は「日の出とともに起き、暗くなると寝るという、明るいうちに動く生活だった」と、野田さんは10年前を振り返る。

 「助かったのは、親しい施設から介護職員の応援があったことです。全職員が働ける状況ではなかったので、応援には感謝しました」。当時は施設間で助け合う仕組みがなく、その後、国が職員を取りまとめて被災した施設へ派遣することになり、同法人でもこれを利用した。

 野田さんは、40年周期で起きてきた宮城県沖地震に備えて、災害福祉広域支援ネットワーク「サンダーバード」に参加し災害支援に携わっていた。「支援に入る人は、現場で困っていることに柔軟に対処する。頼む方は、手の回らない仕事を遠慮しないで依頼する」と、支援での関わり方を示した。

 5月連休明けから、石巻市で福祉避難所の公募があり受託した。福祉避難所には地域事情に詳しい石巻の法人施設から人を送り込んだ。他地域からの支援よりも、地域を知る自分たちが最適と考えた。送り出したために減った介護職の支援を外部支援に頼った。
「サンダーバード」でも活躍する野田毅氏

「サンダーバード」でも活躍する野田毅氏

求める支援に遠慮は不要

 BCP(事業継続計画)の策定について、野田さんは、「各施設・事業所が立てるものですが、広域的に支え合う視点が必要です。普段からの関係ができていないと、いざとなって、連携は難しいでしょう。防災を切り口にして非常時について日頃の関係をつくっていくことだと思います。真剣に取り組む時代になりました」と説明する。

 災害に強い組織にするためには、「上司のいない時も、連絡できない状況もある。マニュアル通りにいかないことが多い。職員それぞれが、災害時に、私ならこうすると考えていることが大切」と、指示待ちの姿勢ではなく、考える職員であってほしいと話す。

 災害時の判断には、正確な情報があってこそ。被災時は周囲の状況が分からず、情報収集が難しい。「行政は正確な情報を出す役割がある」。仙台市はこのほど市内の全特養に停電時に役立つ防災無線を配置した。

 3.11当時は支援団体間の連携がなかった。「避難所に多数の支援団体が入った。利用者には『食べていますか』『眠りましたか』と同じ質問を5回された人がいる。支援団体が自分たちの都合で活動した結果です」

構築中の広域ネットワーク

 「いま、都道府県で災害時のネットワークが築かれつつある。現在46都道府県が参加し、高齢者、障がい者など横に広い仕組みになっています」(野田さん)

 「先日の地震で、私はD-WATチーム派遣の先遣隊として、被害があった大崎市の指定避難所の状況を確認に行った。3.11の時、施設は介護環境が整っているのに、避難所は体調を崩して災害関連死に陥る人が多かった。D-WATはこうした避難所でのケアを基本にしている。今回初のD-WAT発動になった」

 「宮城県沖地震は90%の確率でやってくると言われてきました。いまもその状況は変わらないはずです。3.11の余震もあります。地域包括ケアシステムや地域共生社会ができれば、地域の防災ネットワークづくりにも対応できるでしょう。災害を人ごとだと思わないことです」

(シルバー産業新聞2021年4月10日号)

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