半歩先の団塊シニアビジネス

一人ひとりの「要介護時間の最小化」/村田裕之(連載155)

一人ひとりの「要介護時間の最小化」/村田裕之(連載155)

 これまでの20年で気づいたことがある。それは人口減少も高齢化も「連続的」に進行しているにもかかわらず、人々がその変化に気が付くのは「不連続的」なことだ。

これまでの20年

 とりわけ、何か大きな社会的出来事がきっかけで人々は高齢化の進展に気が付くことが多い。

 2000年4月の公的介護保険導入という出来事の半年前、私はまだ介護が不要で元気な高齢者の市場をアクティブシニア市場と名付け、その可能性を初めて示した。

 当時、多くの企業、行政、メディアが「高齢者は社会的弱者」とみなしていた。このため「高齢者は社会的資源」とみなし、その活力で市場を開拓するという考え方は斬新に見え、以降の企業によるシニアビジネス取り組みのきっかけとなった。

 とはいえ、自社でシニアビジネスを立ち上げて行うよりも、研究会や勉強会が広告代理店、業界団体、商工会議所などを中心に数多く立ち上がり、先進事例を研究する動きが数年続いた。そうした活動は「2007年問題」を契機に最高潮に達した。
 
 これは人数の多い団塊世代が当時の定年である60歳を迎えて一斉に退職し、労働市場の激変だけでなく、退職者がアクティブシニア市場のけん引役になっていくという話だった。

 しかし、政府が定年を60歳から65歳まで段階的に変えたこと、企業に雇用義務を事実上課したことから「2007年問題」は起きなかった。

 一方、08年に海外でリーマンショックが起き、日本にもその影響が出た。これにより再びバブル経済化しつつあった不動産市場
が凍り付き、アクティブシニアをターゲットにした高級型シニア住宅市場が崩壊、シニア住宅の低価格化が進んだ。

 他方、08年にシンガポールでSICEX(Silver Industry Conference & Exhibition)が開催され、日本以外のアジアの国で初めてシニア市場が新たな成長市場であることが示された。

 以降、香港、台湾、韓国など比較的高齢化率の高い国から順に、同様の動きが始まった。

 リーマンショック後は、高額商品が鳴りを潜めたが、シニア市場に対する関心は少しずつ広がっていった。しかし、11年3月の東日本大震災で日本中が激動し、震災からの復興が高い優先順となった。

 ところが、震災から半年後あたりから、それまでシニア向け対策をしてこなかった大手小売業が動き出した。当時のダイエー、イオンといった大型スーパーが本格的にシニア向けの商品・サービスや店舗設計に取り組むようになった
のだ。
 
 12年には、小売業にけん引されるように、多くの業種・業態がシニア市場に事業をシフトし始めた。拙著「シニアシフトの衝撃」は、こうしたトレンドを踏まえて、シニア市場の近未来を予測したものだ。

 これ以降、社会の高齢化の進展とともに、シニアを対象にした市場は企業にとって高い優先順位となり、海外からは研究の対象に
なった。

これからの20年

 時代は不確実性がますます強まっている。一寸先に何が起きるか予測不能な時代だ。現在大流行の新型コロナウイルスの出現を半年前に誰が予測できただろうか。

 しかし、こういう時代でも確実なのは世界が毎年歳をとっていくことだ。日本では2040年に高齢化率36.1%となる。ところが、これをピークに高齢者数が減少する。高齢者施設や高齢者住宅は供給過剰となり、稼働率の高い人気施設とそうでない施設との二極化がさらに進展するだろう。

 もっと深刻なのは、2040年には総人口が1億1000万人程度になることだ。割合が減るのは若い生産人口で、多くの高齢者人口を支えきれない。あてにしていた外国人労働者も、当該国が高齢化し、日本に介護人材を送りこめなくなるだろう。

 平均寿命は今後も伸び続けると予想されている。このため、健康寿命を延ばすだけでは不十分で、必要なのは一人ひとりの「要介護時間の最小化」だ。

 つまり、いかに要介護状態にならないようにするか、たとえ要介護状態になっても改善することが求められている。

 高齢者は自然災害が起きると真っ先に犠牲になる災害弱者とみなされている。ところが、東日本大震災の時にも元気な高齢者は高台に逃げて助かっている。高齢者だから災害弱者になるのではない。

 超々高齢社会のこれからの20年、筆者らが提唱しているスマート・エイジングがさらに必要になるだろう。

【村田アソシエイツ代表・東北大学特任教授 村田裕之】

(シルバー産業新聞2020年3月10日号)

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