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給付費抑制した山鹿市(熊本県)の方法論

給付費抑制した山鹿市(熊本県)の方法論

 熊本県山鹿市(人口5万3,272人、高齢化率35.1%)は、自立支援を基本に地域の連携を呼び起こして地域包括ケアを推進しようとしている。地域連携をヨコ糸に、シームレスな支援をタテ糸にして、特に認知症の人の活動を抑制しないことで重度化を防ぎ、介護給付費の抑制も図ってきた。佐藤アキ福祉部長に聞く。

地域と行政味方に人材不足乗り切る

地域をイメージした事業所間連携​

 格差が拡大している。引きこもりや非正規雇用で、健康対策もままならないままに高齢期を迎えた人への対応は、行政として大きな課題である。介護保険制度だけでカバーできるものでもない。人材不足への対応もある。ひとつの対処法として、各事業所が持っている建物や人材などの社会資源を事業所どうしが連携することで、相互に活用できるように制度を見直す必要がある。デイサービスの空き時間の利用や、看護師による事業所の掛け持ち。利用者も事業所が違っても使えるようにする。18年改正では、障がいサービスと介護保険との共生サービスも生まれた。地域にある様々な資源をいろんな形で使い回しができるような仕組みにできないか。今後、地域にある法人に協力を求めて話し合いを持ってもらうよう進めていきたいと考えている。

要介護になっても関わるボランティア

 事業所を超えた地域連携をヨコの流れとすると、一方で、元気な時の介護予防から、要支援、要介護になって終末期までの間を途切れないようにするタテの流れが必要になる。山鹿市では、地域の住民に介護予防や生活支援のサポートに関わってもらっている。そうした予防支援・生活支援で培った住民との関わりを、要介護になってもつながっていけるようにしたい。

 総合事業の介護予防や生活支援サービスが要介護になっても使えるよう、現状の総合事業の枠組みを取り払うことはできないだろうか。事業所にとっても地域のボランティアがいつも出入りし、日常的なお手伝いをしてもらえる関係ができる。専門職はより専門的な関わりをしていく。人材不足の解消にもつながるのではないか。

介護予防人材は行政に頼む

 山鹿市では、介護予防拠点が14カ所あり、多くは介護事業所に併設している。小規模多機能型居宅介護事業所の側に介護予防拠点が作られていることが多い。運営は小規模多機能事業所だが、実際の介護予防はボランティアが担い手だ。介護予防の研修を修了した、認知症サポーターや生活支援サポーターらが活躍する。そのまま介護事業所で働くようになった人もいる。

 こうした取組は、行政と一緒にやるのがよい。行政はボランティアの育成や活動の場づくりを行わなければならない立場にあり、介護事業所は行政にボランティア活動の場づくりの支援を求めて、地域人材を紹介してもらえる可能性があるからだ。

重度化抑制で給付費抑える

 使わず重度化してしまってはいけない。重度化すると、施設利用が増大して給付費が拡大する、保険料も上がってしまう。これでは本末転倒である。必要な人に必要なサービスが適正にあること。この基本を守れば、利用者の状態が極端に悪くなる事態は生まれないだろう。

 2018年からの第7期介護保険料は、前期の5,610円から5,560円(基準額)に減額した。給付の制限も要介護認定申請の制限もしていないし、認定率もそれほど下がっていない。要支援者は総合事業や地域支援事業の充実で確実に減った。生活習慣病予防の取組が効を奏して脳卒中も減っている。要介護1、2、3は増えているが、要介護5は減った。地域密着型サービスが増えて、施設サービスの利用が減った。これは「動ける認知症」が増えて、「寝たきりの認知症」が減少したからだ。動いている認知症の人が、動き続けていれば、要介護度は上がりにくい。重度の利用者が減少すれば、給付費は抑えられる。
認知症の人の動きを拒まない

 上図のようなマトリックスで説明すると、「虚弱」は介護予防で抑制でき、脳卒中の予防で「寝たきり」も抑えられる。大切なことは、最も多い「動ける認知症」を「寝たきりの認知症」にしないこと。認知症の人の動きを制限しないことがポイントだ。動きを制限すると、1年間でも要介護1の認知症の人は要介護5に重度化してしまうおそれがある。

 地域ケア会議や住民への研修を通じて認知症ケアに向かい合う力を強めている。介護サービスだけで認知症の人に対処することはできないので、地域の人たちの支援も含めて、ご本人の望む生活を在宅で実現することができれば、要介護度を上げずに生活を続けることができる。民生委員などを含めた支え合う地域づくりが求められる。小規模多機能型居宅介護事業所では、認知症の一人住まいの人たちを支えてもらっている。
(シルバー産業新聞2019年6月10日号)

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