未来のケアマネジャー

ケアマネジャーはLIFEとどう付き合うのか/石山麗子(連載33)

ケアマネジャーはLIFEとどう付き合うのか/石山麗子(連載33)
 科学的介護情報システム(以下「LIFE」)のデータ収集が開始され、早くも半年が経過した。筆者は厚生労働省の複数の研究事業に参画する機会をいただいている。今年度事業が開始された7月以降、あらゆる会議で共通しているのは、LIFEを意識した議論となっていることである。最も印象的だったのは、そこに参加している委員の「LIFEを通じて得られた成果は、サービス事業所や施設のものであって、ケアマネジャーのものではない」という発言だった。

 これは、2024年の医療・介護同時改定を見据えていることは自明だ。要すれば、『LIFEを活用し、アウトカムの仕組みが導入されたとき、その成果に基づく報酬を得るのはケアマネジャーではなく、施設やサービス事業所である』という意味である。

 LIFEにデータ提供し、PDCAサイクルを行う事業運営を目指す施設や事業所は、組織内の役割分担、ソフトの導入、尺度の共通理解に関する教育に至るまで、試行錯誤し努力を重ねている。21年度介護報酬改定のLIFEに関連する加算は、手間に対する評価といっても過言ではない。実際に4月以降の混乱はそれをあらわすような様相だった。

 とはいえLIFE活用の成果となれば、①データ提供は、ほんの入口だ。肝要なことは②フィードバックデータを解釈する力③介護計画に反映するための共有化されたケア理論の学習と活用する力である()。

 ②③を可能にするのは、まさに現段階で法人単位での教育、職員がそれを修得するまでの期間を想定した事業計画への落とし込みと実行である。既に着手している法人もある。
 他方、ケアマネジャーは、LIFEにどう関与しているか。静かに起き始めた介護保険の地殻変動ともいえる現象に気づいているだろうか。早期に行動に移せるか。周辺環境の変化は極めて速い。制度施行以来20年超続けてきたケアマネジメントのやり方では、もはや太刀打ちできない。筆者は肌でそう感じる。どうすればよいのか。

 居宅介護支援の解釈通知には「事業所単位でPDCAサイクルを構築・推進することにより、提供するサービスの質の向上に努めなければならない」と規定されている。とはいえ、「給付管理以外、やることがわからない」「そもそもLIFEのことはわからない」「行政から何か示されてから動けばよいのではないか」、それが多くのケアマネジャーの本音かもしれない。

 しかし筆者は、ことケアマネジャーとLIFEの関係については、行政からのトップダウンを待つようでは手遅れだと考えている。なぜならLIFEが導入された今年を皮切りに、実態からケアマネジメントに変化が起きていく、そう予測しているからだ(予測の詳説は別の機会に送る)。だからこそ先がけてケアマネジャーには動いて欲しいし、できると信じている。

 すぐにできることには例えば、モニタリングや担当者会議では、LIFEのデータを活用して話し合う。介護計画の具体的な内容を一緒に考えていく等である。つまりLIFEのフィードバックデータを持ち合っている事業所とは、確実にそれを活用していく。その活動実績を蓄積することだ。

 そこで必要なのが表の②と③である。②は知識をつけトレーニングする、③は理論を学ぶ必要がある。③に有効なのは、介護保険最新情報Vol.992、Vol.1005「適切なケアマネジメント手法」である。これは多職種の共通言語、共通知識となるもので、9月から同事業の実証事業では講師養成研修も始まる。筆者はその講師を担当させていただく。適切なケアマネジメント手法は、科学的な根拠も踏まえて多職種協働を前提として作成している。つまり介護を科学的に行うことを主眼とするLIFEの取組みに対し、ケアマネジャーが中心となって、多職種と協働してケアを組み立てる際に極めて有効な武器になる。

 しかし、科学という一側面だけでケアマネジメントは成立しない。筆者は、ケアマネジャーのための実践倫理の書籍を出版している(注)が、まさに意思決定支援とのバランスが求められる。[利用者の想い]・[科学]の二者択一ではない。新しいケアマネジメントの方法ともいえるこの議論は次号に送る。
(シルバー産業新聞2021年9月10日号)

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